PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (137) (課題解決と問題解決)

向後 忠明 [プロフィール] :3月号

 前月号は課題解決と問題解決の違い、そして経営戦略からの課題とプロジェクトマネジメントにかかわる課題との違いについて話をしました。
 ここでもう一度、読者にわかりやすく課題と問題の違いについて話をします。
 例えば、
  1. ①ある顧客への提案書に「御社の課題」ということで「売る製品が数多く、どれを主力としているのがわからないため多くの担当営業も困っているし、売上げも上がらない。」
  2. ②「君の課題は何か?」と聞かれたので「専門知識が十分でないため、与えられたプロジェクト目標を達成できないでいる」
 上記の2例は問題であって課題ではありません。どちらも現状悩んでいる状態を健全な状態にするといったもので現状が一体何に由来するものかを正しく見極められれば、それに沿ったソリューションを提供することで解決できるものです。
 売上や知識の問題は今の状況であり一体何に由来するかを正しく見極めることによって状況の脱却を図れます。
 上記の例は問題解決の範疇に含まれます。
 それに比較し、課題はその問題を解決するための方向性を示すことであり、プロジェクトマネジメント観点から考えると、顧客のあいまいな要件や顧客が「~をこうしたい」といった状況を「このようにします」と目指すべき姿を示し、プロジェクトに移せる状況を作り、プロジェクトが健全にPDCAを回すことができるような状況に持っていく事と思います。
 また、対象によって、問題か?課題か?は考え方によって以下のように変わってきます。
  1. ①人や立場に依存します :
    同じ環境にあっても、「それは問題でない」と言う人もいます。
  2. ②受け止め方に依存します :
    問題解決と考えても目的がイノベーションであればこれも見解の相違によって課題解決案件となります。
 例えば、クレームについて、製品の問題だという人もいるし、使い方の問題であり前向きに解決しなければならない課題だと言う人もいます。
 いずれにしても、現実の状況とあるべき姿とのギャップを埋めてその問題を解決する方向性を示すことにあります。
 結論的にはこれまで課題解決も問題解決についてもその違いは、問題や課題の「認識 (価値感) をはっきりさせ、こうあるべきという方向に向かってはっきりさせることです。
 それではこの解決法はどうしたらよいか?ということになりますが、それにはすでに述べたような一連の思考手順があります。
それには大きく分けて下記に示すような二種類の思考方法があります。
二種類の思考方法
  1. ①デザイン思考 (クリエイティブ シンキング)
    デザイン思考は企業や社会を取り巻く環境の変化を反映し、全く新しいアイデアで新しい商品やサービスの創造を行う思考プロセスです。
    この思考は先月号でも述べた未来に向けて顧客または自社組織の課題や夢実現を助けるといったもので、アイデア、気づき、構想によって自社を取り巻く環境や経営状況から課題をクリエートする思考手順に使用されます。
  2. ②論理的思考 (ロジカルシンキング)
    デザイン思考によって創生された課題が曖昧なテーマを観察された情報を整理し、そこから論理的に仮説を立てその仮説をなぜそう言えるのかを検証し、導き出した仮説を構成するありのままの姿とあるべき具体的な姿のGapを検証し、具体的なシナリオを創生する。すなわちプロジェクト命題の具体的な要件の作成を行う。
 以下にデザイン思考と論理的思考の関係を示します。
与える側のデザイン思考によって構想されたコンセプトを必要とする受け側も
論理的思考にても共創でレビューし、コンセプトの確認を行う。
デザイン思考と論理的思考の関係
与えられた課題の状況の把握と問題の発見・整理を行い、その解決を前向きに
共創にて論理的思考で行う。

 ここまで課題解決、問題解決そしてデザイン思考と論理的思考について述べてきましたが、プロジェクトマネジメント側の思考は上記の図に示すように論理的思考が主な思考方法と考えられます。
 ただし、課題の内容がプロジェクトをマネージする側の受け止め方によってはデザイン思考の部分も介在するが 大部分は論理的思考によりマネージされることになります。
 その基本的な手順は最初に対象となる課題をマクロで俯瞰し、与えられた課題の状況の把握と問題の発見・整理を行うため課題提出者と共に行うが、独自に考慮しなければならない事情があればインタビューや情報収集による問題の分析によって把握することから始めることもあります。その後、ピックアップした個別の情報の関係性を把握し、その結果を整理し、仮説を立て、何故そう言えるのか原因を正確に把握していくことで課題への対応案が見えてきます。
 そして、その結果導き出された仮説(仮の答え)を想定し、あるべき姿との差異すなわちGap分析により最終的なシナリオの設定を行う事です。
 これが論理的思考の基本的な手順となります。

 しかし、前月号で説明したように課題解決とはあくまでも前向きな問題処理にかかわるもので企業戦略にかかわる部分が多く、市場、人、組織に関する状況変化を展望し中長期的視点で企業のあるべき姿をデザインすることです。
 よって、どちらかというとプロジェクトマネジメント側から見ると顧客側(課題設定側)の行動の結果であり、その結果の課題を処理することです。
 しかし、ここで考えておかなければならないのは前にも述べたようにロジカル思考手順で作業を行う中でもクリエイティブな発想も必要となります。すなわち、「クリエイティブ」と「ロジカル」は課題解決の過程でも同居するものです。
 すなわち、ロジカルシンキングでも、与えられた課題によってはクリエイティブな発想が必要となることもあります。
 以上のような考え方で実際の課題解決の手順の具体的な方法について述べてみたいと思います。

 その代表的なものとしてKJ法があり、川喜田次郎博士によって開発されたブレーンストーミングなどで得た情報をカードに書き、同じ系統のカードをグループ化して、系統ごとに分類されたデータを整理、分類し、問題解決や企画のコンセプトワークまで行う方法です。
 もう一つはKT 法があり管理者の思考業務の効率化と強化を狙った概念と思考プロセスでありC.H.ケプナー博士によって公式化されたものです。これは以下の4つのプロセスからなっています。
プロセス 目的 質問
状況把握 (SA)  現状把握と課題抽出  何が起きていて何をすべきか?
問題分析 (PA)  問題の明確化と原因究明  なぜ起きたのか?
決定分析 (DA)  目標設定と最適案決定  どのように対応すべきか?
潜在的問題分析 (PPA)  リスク想定と対策計画  何が起きそうか?

 どちらの場合も設定された課題の全体像の状況把握をすることから始め、集められた情報を基に、設定された課題に含まれる関心事を整理し、問題の構造化を図ることは同じプロセスであり、これをKJ法ではブレーンストーミング、KT法では状況把握、そしてマインドマップ等があります。
 ここまで話をするとこのプロセスはP2Mのスキームモデルのミッションプロファイリングの部分に酷似していることがわかります。
 すなわち、抽象的・多義的なミッションの概念を、環境の複雑さや組織の制約条件等を踏まえつつ具現化し、可視化していくプロセスと同じです。

 今月号はここまでとしますが、来月号では筆者がこれまで試行してきた自分なりの論理的思考法について主にKT法を中心にその概要について話をしてみたいと思います。

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