例会部会
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【第271回例会 報告】

生越 直人 : 1月号

【データ】
開催日: 2021年11月26日 (金) 19:00~20:30
テーマ: 「宇宙で通用するリーダーの育て方」
~日本人宇宙飛行士選抜と訓練から考える人材の育て方~

講師: 長谷川 義幸 氏
JAXAチーフエンジニアリング室 客員

【第271回例会 報告】
~はじめに~
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、2021年12月20日から2022年3月4日まで宇宙飛行士の候補者を募集しています。
 そこで、今回の例会では2008年(前回)に行われた選抜を含めた、日本人宇宙飛行士の育成に深く関わられた長谷川氏に、「宇宙飛行士に求められる能力はなにか」「その能力を伸ばす訓練はどんなものか」などについてご講演いただきました。

~講演概要~
■ 宇宙飛行士の要件 (2008年度宇宙飛行士募集要件は、講演資料をご参照ください)
 国際宇宙ステーション(ISS)宇宙飛行士の任務には、「オペレーター&整備士」と「宇宙科学実験オペレーター」がある。
 宇宙ミッションは、世界中の管制官、技術者、訓練担当、医学関係者などの「グローバルチーム」が宇宙飛行士を支えている。そして、宇宙での仕事を決めるのは運用チームで、宇宙飛行士はチームの一員であり、マネージメントの決定に従い他国や他部署との連携に四苦八苦しながら現場を回す「中間管理職」である。
 宇宙飛行士に求められる能力は、「チームで仕事を進める能力」であり、「リーダーシップ能力」「自己管理能力」「チームワーク能力」が必要となる。

■ 宇宙飛行士の選抜
 2009年から日本人宇宙飛行士の長期滞在が開始される予定であった。
 「きぼう」が完成すると、宇宙飛行士を定期的に搭乗させる権利が得られるので、2008年度の宇宙飛行士の募集・選抜にてその要員を確保する必要がある。そこで、選抜目標は「船長になれる人材を探せ!」「チームで仕事ができる人を選抜!」となった。
 宇宙飛行士の選抜プロセスは、以下のとおりである。

  応募者:963人 → 書類選考/英語筆記・ヒアリング試験
  一次選抜:230人 → 一般教養・科学知識/医学検査・精神心理検査
  二次選抜:48人 → 面接試験/医学検査(人間ドックより厳しい内容)
  三次選抜:10人 → 閉鎖環境試験
  選定

 一次選抜の「精神心理検査」では、500の質問にYes、Noで答えてもらう。質問数を多くしてじっくり考える時間を与えないことで、瞬時に内容を理解し自己分析ができるかどうかを検査する。
 二次選抜の「医学検査」では、多くの優秀な評価であった者が脱落した。また、「面接試験」では、1人の応募者に対して、7人の面接官が30分の面接を行った。7人の面接官を前にした緊張感の中で、いろいろな質問にも冷静に対応できる能力をみた。
 二次選抜を通過した10人の内訳は、「パイロット:4人」「医師:3人」「技術者:3人」であった。この10人を5人ずつの2チームにして「閉鎖環境試験(JAXA独自の試験)」を行った。この試験では、1週間缶詰になり、「設計の異なる全宇宙棟の運用・実験・修理」「長期間閉鎖環境の生活」「外国人と共同生活」「24時間地上からの監視」を行った。「極限のストレス下でも、チームの置かれている状況を把握し、リーダーシップ、フォロワーシップを発揮できるか?」を評価の観点とした。
 そして、三次選抜において「3人」が選定された。

■ 宇宙飛行士の訓練
 日本人宇宙飛行士をISSに搭乗させるためのゴールは、以下のとおりである。

  1. ○ 医学
    1. - 多数者間医学運用パネルの医学基準を満足
  2. ○ 行動適正 (重要)
    1. - 多文化環境での対人構築能力や意思伝達能力
    2. - 宇宙環境で適切に行動するための状況認識能力
    3. - 行動適正
      1. ① ストレス環境下での任務遂行能力
      2. ② チームメンバーとして機能する能力
      3. ③ 適応性、柔軟性
      4. ④ 任務に対する一貫したモチベーション
  3. ○ 言語力
    1. - 英語の流暢な会話力及び読解力
    2. - 外国語を学ぶ能力と興味を有していること

 宇宙飛行士訓練の大半は、緊急事態対応である。「死の世界」と壁一枚の生活をするので、不具合が起きたらどう対応するか身体で覚える必要がある。不具合は、多数想定できるので、ハザード解析で不具合を洗い出し緊急事態に備える訓練を積んでおく。クルーチームとして対処するシミュレーション訓練を何回も行う。
 ISSの3大重大危機は、「火災」「圧力低下」「汚染」である。シミュレーション訓練の具体例として、「若田飛行士の火災訓練」を紹介する。
 ISSの休日、6人の宇宙飛行士は、好きな宇宙棟で過ごす。誰がどこにいるのか、お互い正確には分からない状況。突然、「ビー、ビー、ビー!」と警報がなる。どこかで異常を探知。米国実験棟で煙が充満している。(訓練の具体的な進捗は、会話形式での記載の講演資料をご参照ください)
 訓練終了後、すぐにデブリーフィング(反省会)を行う。具体的な指摘(ダメ出し)と改善策を訓練指導者たちと訓練者が、和やかな雰囲気で話し合う。問題点を洗い出して本人に気づかせる。
 11人の日本人宇宙飛行士を宇宙へ送り出した。ISSでの長期滞在を実現し、2013年に船長誕生、2021年には2番目の船長を出した。

■ まとめ
 宇宙飛行士に必要なリーダーシップ能力は、ビジネスマンのリーダーシップとの相違はない。選抜をするときにチームで仕事ができる人を採用する。
 誰でもリーダーシップの能力はある。そして、能力は訓練で伸ばせる。能力を伸ばすには実践訓練と反省をする!反省会は、具体的な指摘と改善策を、上司と和やかな雰囲気で話し合う。本人に改善点を気づかせる。

~まとめ~
 今回の例会では、Webinar(有料)としては大変多くの方にご参加いただきました。
 また、講演後のネットによる懇親会にも多くの方にご参加いただき、直接長谷川氏と会話をすることができ、大変有意義な時間を過ごすことができたと感じました。

 紙面の関係で、講演のかなりの部分を省略してしまいましたが、「ジャーナルPMAJライブラリ」に講演資料がございますので、是非ご覧になってください。なお、講演資料を入手するためには、「ユーザID」と「パスワード」が必要になります。

 最後になりましたが、ご講演いただきました長谷川氏には、大変お忙しい中、PMAJ 例会部会にご協力いただきましたこと、心より感謝申し上げます。

 我々と共に部会運営メンバーとなるKP(キーパーソン)を募集しています。参加ご希望の方は、日本プロジェクトマネジメント協会までご連絡下さい。
以上

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