例会部会
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『第270回例会』報告

宮下 真 : 11月号

【データ】
開催日時: 2021年9月24日(金) 19:00~20:30
テーマ: 「住民と目指す磐梯町のミライ」~磐梯町はなぜDXを選択したのか?!~
講師: 佐藤 淳一 氏/福島県耶麻郡磐梯町 町長

今回の例会では、星野リゾート アルツ磐梯の総支配人、磐梯町議員を経て、令和元年に磐梯町の町長に就任した佐藤淳一様に、磐梯町の未来のためのまちづくり、その手段としてのDXの活用についてご講演いただきました。

【講演概要】
  1. ●磐梯町の紹介
    東京から約300km圏に位置し、福島県の会津地方で会津若松市、猪苗代町、喜多方市、北塩原村に隣接し、それらの市町村を行き交う人の通過点となっていた。
    磐梯町の人口は約3400人、世帯数は1200弱であり、渋谷のスクランブル交差点を1回に渡る人が約3000人、勝鬨のタワーマンション1棟が約4000人、こうした比較でまちの規模がご理解いただけると思う。
    歴史的には、奈良興福寺の高僧「徳一」が開祖した会津仏教文化の発祥の地であり、「磐梯西山麓湧水群」が昭和名水百選に選ばれた超軟水で、米も酒も美味しい、名水のまちでもある。
    星野リゾート アルツ磐梯が町の1/6の面積を占め、カメラ・レンズメーカーのSIGMAの工場もあり、SIGMAのレンズがふるさと納税の返礼品として大きな税収となっている。

  2. ●磐梯町人口推移
    水力発電所の稼働により、大正から昭和にかけては工場のまちとして賑わっていたが、火力発電への移行、工場の移転により昭和30年以降は人口が減少、7000人以上から60年間で半減となってしまった。
    商店街も昭和初期には約300件の商店があったが、現在営業している商店は10件に満たない状況である。
    人口推移の予測では、20年後には2000人台へ減少する見込みである。磐梯町の税収は6億、予算は35~40億、不足する分は国からの交付金、補助金で賄っている状況である。

  3. ●磐梯町はどんなまちを目指すのか
    町長に就任して、まちの将来像と指針をミッション、ビジョン、バリューとして明確にした。
    1. ■ ミッション(使命):町民全員を幸せにする
    2. ■ ビジョン(将来像):自分たちの子供や孫たちが暮らし続けたい魅力あるまちづくり
    3. ■ バリュー(行動規範):すべては町民起点で考える

    これに合わせてまちの総合戦略を作り直した。
    これまでは行政主導、トップダウンでの地域課題解決であったが、現在の多様な住民ニーズに対しては痒いところに手が届かない。
    例えば、引越という一つのイベントに対して、住所変更、子供の転入、水道の手続きなど、住民が複数の煩雑な手続きをするのではなく、ワンストップでのサービス提供が必要となる。
    今までの縦割り組織、仕組みでは実現できないため、住民サービスを大きく向上させる、役場の業務効率を一気に解決する仕組みとしてデジタルを選択した。

    そのために、What:何をするかを定めて取り組んできた。
    1. ■ 役場を変える:職員啓蒙、理念共有
    2. ■ 組織を変える:組織変革(戦える組織へ)
    3. ■ 住民が変わる:誰一人取り残さないサポート

  4. ●役場を変える:職員啓蒙、理念共有
    職員啓蒙、理念共有のために、デジタル変革の指揮者として最高デジタル責任者(CDO:Chief Digital Officer)を設置し、磐梯町総合計画にデジタル変革を明記、職員行動指針としてミッション、ビジョン、バリューを徹底した。

  5. ●組織を変える:組織改革
    コンサルタント、アドバイザーではなく、役場組織に内にCDO、デジタル変革戦略室を設置、デジタル変革戦略室を副町長直下とし、デジタル変革戦略室を上位組織とし、縦割り組織を壊して、各課横断の組織づくりを行った。
    デジタル変革戦略室を複業的なクリエィティブ組織として様々な人材が活躍できるようにし、外部人材によるオンライン審議会も設置した。
    LivingAnywhereCommons会津磐梯(DX戦略室七ツ森事務所)、会員制産業交流施設であるSIBUYA QWS(渋谷キューズ)といった関係人口、交流人口の創出、多様な人の共創のための拠点を設置した。
    官民共創の仕掛けとして磐梯町と人や企業、団体が一緒にアイデアを実現するプロジェクト「ばんだい宝ラボ」を進めている。

  6. ●住民が変わる:誰一人取り残さないサポート
    住民デジタルリテラシーの向上のために以下の取り組みを行った。
    デジタル地域商品券を発売し、通常の商品券よりデジタル商品券のプレミアム率を高く、お得にした。これにより、お年寄りもデジタル商品券を買いに来るようになり、使い方を教えることで皆が使い方を覚え、好評を得た。
    マイナンバーカードの普及にも力を入れており、スーパーのチャージ付与により交付率が全国8位となった。
    その他、一人暮らしのお年寄りに対してのスマートスピーカーによる会話、カレンダーお知らせやアプリ利用状況の通知による見守りなどの実証実験、全国初のオンライン議会(常任委員会)も開催し、教育のデジタル化、教育委員会のCIOの設置、GIGAスクール推進、会津大学との連携にも取り組んでおり、いかに住民が便利を実感するかが、住民のデジタルリテラシー向上には最も有効な方法である。

  7. ●最後に
    DXは目的ではなく、「自分たちの子や孫たちが暮らし続けたい魅力あるまち」を目指すための手段として活用している。

【所感】
少子高齢化、人口の一極集中、地方の過疎化が進む中で、そういった地域だからこそ存続のためにDXによる変革、業務の効率化、住民サービスの向上が必要であるということを感じました。
また、トップダウン、縦割り組織を壊すためには、まずはトップダウンで取り組むことが必要であり、外部からの多様な人材を組織に引き込むということが、組織内部での共創、そして外部、住民と連携した共創へと発展すると認識しました。
変革については、周囲からの多くの抵抗があったと思いますが、その中でDXを進めてきただけでなく、その先の住民のためのデザインへの移行も目指して変革を進めている佐藤町長の熱い思いと行動力に敬服いたします。
私自身、地域活動に関わる立場にもなりましたので、今回のご講演内容、そして磐梯町の今後の取り組みにも注目して、地域活動の参考にして行きたいと思います。

佐藤町長には公務でお忙しい中でご講演いただき、心より感謝を申し上げます。

なお、我々と共に部会運営メンバーとなるKP(キーパーソン)を募集しています。ご興味をお持ちの方は、日本プロジェクトマネジメント協会までご連絡下さい。
以上

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