例会部会
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『第269回例会』報告

増沢 一英 : 10月号

【データ】
開催日: 2021年8月27日(金)
テーマ: 「ニューノーマル時代の働き方改革とは」
講師: エンカレッジ・テクノロジ株式会社
経営管理部、副部長 植草 立夫 氏

◆はじめに

 新型コロナの蔓延によって、企業は従業員の安全性を確保することが最重要課題になり、全国で事業継続計画(BCP)の見直しが行われている。従業員の安全確保策として多くの企業が在宅勤務体制を実践している。元来、在宅勤務は、労働環境改善という命題に対する解の一つで、健全な成長を目指す企業にとって、避けて通れない検討事項である。
 今回の例会では、将来の企業存続に向けて、いち早く週休3日制や変形労働時間制(フレックスタイム、月単位の労働時間、有給休暇取得推進)の拡大運用、等の革新的な人事制度を導入し、従業員の多様な働き方を実現しているエンカレッジ・テクノロジ株式会社から、実施責任者の植草立夫様をお招きし、労働環境改革の重要性と課題についてご講演いただいた。
 制度改革の内容は、「週休3日制の導入企業」というタイトルで、日経新聞に掲載され、日本テレビの報道番組でも紹介されている。

◆講演内容

●働き方改革とは?


 先ず、講師から会社のご紹介をいただいた。エンカレッジ・テクノロジ株式会社は、2002年に設立された、業務の効率化に向けたソフトウェアの開発、販売を中心に行うパッケージソフトウエア・ベンダーである。従業員約130人で、年代的な構成を見ると、若い年代層と比較的高い年代層とで大勢を占める。「働き方の改革」と「評価制度の改訂」を目的にした新人事制度は、2022年度(4月)からの実施を計画していたが、2020年のコロナ流行に伴って、1年繰り上げ、今年度からの実施となった。

 働き方改革には3本の柱がある。「過剰な長時間労働の是正」、「能力に対する賃金格差の解消」、そして、「多様な働き方の実現」である。ところが、事前の社内のアンケート結果からは、働き方改革への要望として、
  • 柔軟な勤務日数や勤務時間、
  • 休暇取得の拡大、
  • DX対応の効率的で公平な労働環境、
  • 在宅勤務の推進、
 が挙げられ、国と実務者との間には、考え方の乖離があるのが判明した。つまり、会社や従業員の事情を踏まえないと、期待される働き方改革は実現しない!

 また、労働時間に関するOECDの報告から、日本の特異な労働環境が分かる。男性の暦日平均労働時間は世界一長い(約375分)が、全労働者の年間労働時間で見ると世界22位(約1,750時間)である。これは、アルバイトや非正規と呼ばれる時短労働者に対して、正規社員の労働時間が、その2倍に近いという、日本の特殊な状況と言える。日本では、女性や非正規社員の労働機会が非常に少ないと言える。
 また、日本の女性は、家事の時間が男性の5倍もあり、睡眠時間は男女とも世界から見るととびぬけて短い。
 このような視点で日本の労働環境をみると、過労死をもたらす長時間労働、女性や非正規社員の労働機会の少なさ、そして、睡眠時間や健康な生活の圧迫、といった、働き方改革で解決すべき課題も見えてくる。

●ダイバーシティ & インクルージョン

 業務効率と品質を上げ、労働時間を削減するために、ダイバーシティ(多様な人材を活かすこと)に対応することは、労働環境整備の重要な要素である。しかし例えば、単に、女性管理職の抜擢、あるいは、若手や多様な人材を登用するだけでは、職務に必要とされる広範なマインドやスキルが整わず、本人が苦悩やメンタル不調などの問題を抱え込んでしまう場合がある。こういった問題に対処するためには、インクルージョン(包括:均等に機会を提供して能力や考え方を活かすこと)のコンセプトが重要になる。
 エンカレッジ・テクノロジ株式会社では、労働環境整備に伴い派生する諸問題の解決に多くの社員からの希望や意見を反映した。勿論、すべての意見が反映できる訳がないので対応には丁寧に時間をかけた。週休3日制や変形労働時間制の導入による就業規則改訂、就業規則改訂に伴う有給休暇率の低下防止、シフト表の作成と公開は、このような意見を集約することで完成できたものである。

●Job Descriptionから発想した「なんちゃってJob Description」

 社員は労働環境整備とともに、求められる成果とその評価の過程を明確にすることを求めている。これは、働き方の改革に伴って派生する、重要な課題である。
 全社共通の評価制度では実現できないため、役割等級と役割テーブルを併用する仕組みに改善した。個別業務の契約などで採用されるJob Descriptionの機能をイメージしたもので、全社共通部分のJob Descriptionと部門ごとの目標管理シートによって、会社と社員が相互に評価できる制度にした。
 社員は、役割と評価の基準、そして、評価の内容を理解した上で、業務の進捗を開示して、成果に対する自己評価を行う。部門リーダーとの摺り合わせの機会を設定(必須)することで、透明性のある評価の共有を目指している。このような、成果と評価に対する理解を共有可能なシステムが、在宅勤務や変形労働時間制に対応するための大きな要素になる。
 ただし、在宅業務の評価にあたって、証跡管理による評価は慎重に行っている。今時点では、証跡管理だけでは社員が納得するだけの説得力を持たない。今後、DXを展開しつつAIを導入することも検討している。証跡管理が一定の説得力を持つことができれば、勤務形態の多様化は大きく前進する。

●まとめ

 在宅勤務や休日を含めた変形労働時間制による勤務は、今後必ず拡大していく。今回の実績から講師が挙げていた注意点は以下のようなものである。

  1. 働き方改革の目的を明確にして公開する。
  2. 実施にあたっては、経営と社員が一丸になって取り組む。
  3. 社員の満足度の高いツールの採用を目指す。
  4. 定着まで最低でも1年間は作業効率の低下を覚悟する。
  5. 法規との照合にあたっては、労働基準局をはじめ、社労士、弁護士など広範な意見を収集する。

◆講演を聞き終えて

 ご講演を聞き、期待される「新しい働き方」への道筋を示すお話であったと強く感じた。対面業務による効率化には限界があり、スキル、考え、ジェネレーションのギャップをDXやAIを活用して解消しなくてはならない。

 今回のお話で認識したのは、人間性や個性を重視した「&インクルージョン」の考え方。人間的なつながりを重要視することが基本である、という点である。
 昨今のプロジェクトの運営も実に多様化し、すでに多くがリモート勤務の形態に移行している。現場に赴かずとも顧客に成果物を提供できるようなプロジェクトも少なくないのではないか。「&インクルージョン」のコンセプトは、プロジェクトの手法として具体化することで、多様化したプロジェクトの運営にそのまま盛り込むことのできるコンセプトだと考えられる。つまり、Job Descriptionや目標設定、進捗、課題、成果を、プロジェクト・マネジャーはじめプロジェクト・チームメンバーが共有する機会を設定し、運用するシステムが重要ではないかと考える。プロジェクト運営の多様化に伴って、プロジェクト・マネジメントにおける「&インクルージョン」の重要性が増している。

 例会では、今後もプロジェクト・マネジャーにとって有益な情報を提供してまいります。引き続きご期待ください。
以上

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