リボルバー
(原田 マハ著、(株)幻冬舎、2021年6月5日発行、2刷、321ページ、1,600円+税)
デニマルさん : 1月号
今回紹介する本は、著者と表題と表紙の絵柄に惹かれて購入した。本書を読みながら色々と調べていく内に美術史やその名画に魅せられて、現実と小説が錯綜した原田マハの独特の世界に引き込まれてしまった。先ず本書の表紙についてだが、カバー表紙の1面(表面)と4面(裏面)にゴッホの装画がある。説明には1面が<ひまわり、1888年、ロンドン・ナショナルギャラリー蔵>と4面も<ひまわり、1888年、SOMPO美術館蔵>とある。ゴッホと云えば<ひまわり>が有名、全部で7作品あるという。1作品(芦屋のひまわりと呼ばれた)は太平洋戦争で焼失してしまったので、6作品が世界に現存している。その2作品がカバー表紙を飾っている。中でも4面の<ひまわり>は日本にあり、その購入当時はバブル時代で53億円の落札価格ニュースが話題にもなった。それと本書の緑の厚手表紙にゴーギャンの<肘掛椅子のひまわり、1901年、エルミタージュ美術館蔵>が飾られてある。同じ<ひまわり>の作品が3つもあり、本書の登場人物ゴッホとゴーギャンの関係を物語っている。オビ文には「生前顧みられることのなかった孤高の画家たちの、伝説のヴェールを剥がせ」と書かれてある。その詳細は後程触れてみる。そう云えば、著者の「暗幕のゲルニカ」(新潮社)を、この話題の本(2016年8月号)で紹介していた。絵画の「ゲルニカ」はピカソの名画として、また誕生から第二次世界大戦の中での色々と変遷を経た物語としても書かれてある。そして今回の「リボルバー」だが拳銃である。「ゴッホの死」はアート史上最大の謎と云われているが、著者は大胆にもその真相に迫る小説を書いた。その他にも、著者は絵画にまつわる小説を多く刊行してきた。「楽園のカンヴァス」(2012年、新潮社)でルソー、「ジヴェルニーの食卓」(2013年、集英社)でモネ、先の「暗幕のゲルニカ」でピカソを書いている。それと今回のゴッホについては「たゆたえども沈まず」(2017年、幻冬舎)で書いていた。改めて著者の略歴を紹介しよう。1962年東京都生まれ。関西学院大学文学部日本文学科、早稲田大学第二文学部美術史科卒業。伊藤忠商事株式会社、森ビル森美術館設立準備室、ニューヨーク近代美術館勤務を経て、2002年フリーのキュレーター、カルチャーライターとなる。2005年「カフーを待ちわびて」で第1回日本ラブストーリー大賞を受賞し、2006年作家デビュー。2012年「楽園のカンヴァス」で第25回山本周五郎賞を受賞。2017年「リーチ先生」で第36回新田次郎文学賞を受賞。他の著作に「本日は、お日柄もよく」「キネマの神様」「たゆたえども沈まず」「常設展示室」「ロマンシエ」など、アートを題材にした小説等を多数発表。画家の足跡を辿った『ゴッホのあしあと』や、アートと美食に巡り会う旅を綴った『フーテンのマハ』など、新書やエッセイも執筆している。ペンネームはフランシスコ・ゴヤの「着衣のマハ」「裸のマハ」に由来している。また、著者の俳号は「又八」である。この由来はサイン会で「マハ」と書いたが、ある老人から「又八さんですか」と呼ばれ、以来著者も気に入って俳号として使っているとエピソードを披露している。
小説「リボルバー」のはじまり ――アート史上の謎に挑む――
本書を書く経緯について、4年前にあるプロデューサーから戯曲の依頼を受けた。当時ゴッホを取材して「たゆたえども沈まず」を書いたので、「ゴッホとゴーギャンの間に何があったのか」をテーマにすると舞台映えすると提案した。その話が纏まったのだが、その前に戯曲のベースになる小説を書くことにしたと云う。著者は過去にキュレーター(美術館等の学芸員)としての知識や画家・絵画の膨大な資料を有している。その経歴を生かして「ゴッホの死の謎」に挑んだ、史実を素にしたフィクション小説である。主人公は、パリのオークションハウスに勤める日本人・高遠冴(パリ大学・美術史の修士)である。それとパリ大学時代の友人・小坂莉子も登場するが、パリ在住の顧客であるマダム・サラが持ち込んだオークション品から物語が始まる。それがレボルバー(拳銃)であり、ゴッホの死と深く関係する代物であるとマダム・サラから告白される。そこでオークションハウスの社長や関係者が事実関係の調査に奔走して、マダム・サラの身元やオークション可能かの専門的鑑定となった。
ゴッホとリボルバーの謎 ――パリ郊外のオーヴェール――
マダム・サラは熱烈なゴッホの心酔者で、このオークション品が高値で落札されたらゴッホ終焉のオーヴェールの部屋にゴッホの絵を飾りたいと夢を語っている。そしてリボルバーの秘密が告白された。その所有者がゴーギャンの所有物であったと云う。自殺に使われた拳銃が他にも存在していた。なら何故二つの拳銃があり、謎の自殺は本当だったのか。更にゴーギャンが持っていた理由等の疑問も残る。その前に、マダム・サラが問題のリボルバーを保持した経緯も語っている。先ず、ゴーギャンを祖父に持つ友人(X)の話から始まる。祖母に残された遺品を埋蔵した件を母から娘に引き継がれた。友人Xは、病気で先が短いと極秘の埋蔵場所を告げた。マダム・サラは、その場所から遺品であるレボルバーを発見したのだと話した。更に、もし、マダム・サラのオークション品が本物なら、過去のゴッホが拳銃自殺を図ったとされる話は、全く違った展開となる。果たしてリボルバーは本物なのか。その数々のミステリアスな問題を解明するのが、主人公と美術館キュレーターの面々である。
リボルバーのオークション結果 ――マダム・サラの決断――
そこでマダム・サラの身元調査と祖母であるエレナとゴーギャンとの関係。ゴーギャン家族(5人の子供と孫を含む)の特定。それとゴッホの生前の資料を管理するインスティチュート・ファン・ゴッホでの検証とフランス国立図書館(BnF)リシュリュール館で美術関係出版物の検索。更に、ゴッホが生まれたアムステルダムの国立ファン・ゴッホ美術館での確認を細かにフォローしている。そこで明らかにされたレボルバーの正体が明かされる。最後にマダム・サラがオークション出品を断念する下りがある。リボルバーを通じて、ゴッホとゴーギャンの知らざる関係が判明していく。その詳細とマダム・サラが主人公にレボルバーのオークションを依頼した謎も書かれてある。これらも含め面白いアートミステリーである。
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