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地球市民

PMAJ 理事長 加藤 亨 [プロフィール] :12月号

 COP26(第26回国連気候変動枠組条約締約国会議)が、2021年10月31日から11月12日まで、英国グラスゴーで開催されました。
 各国の激しい議論の応酬があったようですが、最終的には、会期を1日延長して14日間にわたる交渉を終え、11月13日に「世界の平均気温の上昇を1.5度に抑える努力を追求する」とした成果文書を採択して閉幕しました。
 6年前に採択されたパリ協定では気温上昇を2度未満に保ち、1.5度は努力目標とされていましたが、今回のこの成果文書では、1.5度に抑えることが事実上、世界の新たな共通目標となったとして、専門家からは評価する声もあがっています。
 また、この成果文書を受けて、今後の脱炭素の動きが加速し、企業においても、ESG経営を実践しているかどうかが大きな評価ポイントになるとも言われています。
 ここで、ESGとは、次のように説明されています。
 「環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取って作られた言葉です。 気候変動問題や人権問題などの世界的な社会課題が顕在化している中、企業が長期的成長を目指す上で重視すべきESGの観点での配慮ができていない企業は、投資家などから企業価値毀損のリスクを抱えているとみなされます。」
 野村総合研究所(NRI) 用語解説

 もちろん、エネルギー政策を決定する国や、炭素排出量の多くを占める産業・企業体が、ESGを考慮した行動を実践することは重要なポイントですが、地球温暖化対策としてはESGの視点だけでは不十分だと感じています。その理由は、
 環境(Environment)⇒社会(Social)⇒企業統治(ガバナンス(Governance))
 とならべてみると、私たちを取り巻く環境から、国・社会があり、そこで活動する企業があるということで、大きな視点から身近な視点まですべての要素が含まれているように見えますが、企業や社会に生きる個人の視点が抜けているように思います。そして、当たり前のことですが、最小単位としての個人の行動が、企業や社会、環境に影響を与え、地球に影響を及ぼしているという全体を網羅した構図が見えてこないと、本当の意味での温暖化対策にはならないのではないかと感じているからです。
 2019年11月の『Nature』に、ある科学者のグループが「気候問題に関して、かつて考えられていたよりも多い『ティッピングポイント(転換点)』に、わたしたちは近づきつつある──。」という論説を寄稿しています。
 この「ティッピングポイント」とは、その転換点を超えてしまっては、どんなに二酸化炭素の排出量を抑えても、地球の温暖化が不可逆的に進行し、歯止めがかからなくなってしまうポイントのことです。その兆候は、すでに地球の多くの場所、たとえばアマゾンにおける森林伐採がアマゾンから二酸化炭素の貯蔵庫としての役割を失わせ二酸化炭素排出源へと変化させたり、グリーンランドの氷床の融解によって、大西洋の海水の循環が失われ西アフリカモンスーン等の干ばつを引き起こしたりなど、ですでに発生しつつあり、もはや残された時間は無いと警告しています。
 ただ、その科学者たちはこうも言っています。
 「ティッピングポイントは必ずしも災難の兆候とは限らない。人々は気候変動の問題は変えられると考えている。その考えが最も重大なティッピングポイントなのだろう。」と。
 PMシンポジウム2021の主催者講演の中でも紹介しましたが、
 「ティッピングポイントとは、小さな変化が積もって、ある時点から大爆発を起こして大きな結果を生む」という社会現象です。
 一人一人の小さな行動の変化が積もり積もって、地球全体の大きな変化を爆発的に引き起こす現象だと言えます。
 国家や企業は、国体の維持、企業の持続可能性の維持という中で、急激に変えられない部分もあるかもしれませんが、我々一人一人が、地球上で生きる一人の市民、「地球市民」として、今日からできる小さな行動の変化を積み重ね、それが全世界80億人の行動の変化に広がってゆけば、それが大きな「脱炭素のティッピングポイント」として、エネルギー消費を減らし、炭素排出量の削減につながると思います。そして、その活動を抜きにして、地球の温暖化を止めるティッピングポイントは来ないとも感じています。
 それでは、一人一人がどんな行動の変化を起こすことができるのでしょうか?
 この点については、PMAJと一緒に、
 『プロジェクト型学習(PBL)で学ぶ「今日からできる身近なSDGs!!」
 で考えてみませんか。

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