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「エンタテイメント論」(165)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :12月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

7 本質
●Live Fish の転職の「掟」のメリットとデメリット
 Live Fish の転職の「掟」のメリットとデメリットは、前号までの解説で大体理解されたと思う。しかし社会人にとって「転職」は、そうする人の今後の人生を大きく左右する最も重要な課題の一つと言える。

出典:転職
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 Live Fishで転職するメリットは、極めて高い確率で転職を成功させる事が出来る事に在る。
そして転職先の会社や官庁などの社長や首長などのトップが本人を採用する「最終意思決定」した時に転職は成功する。しかし問題は、現在、帰属中のトップに本人が退職する「意思表示」を行わねばならない。此処から問題が生じる事がデメリットである。

 退職の意思表示をした場合、退職する事を「拒否」されたり、「慰留」の要請を受ける事が多い。しかし転職の最終的意思決定を受けているので慰留の要請に応じる事は出来ない。もしその要請に応じて転職せず、慰留すれば、転職に協力した全ての人達を「裏切る」事になる。この裏切り行為は「あっ!」と言う間に広がる。その噂は、その後の転職を事実上、極めて困難にする。噂の広がる範囲が下記で説明する様に極めて大きいからである。

 「裏切る」事をしない事とは、無理矢理に辞める事を意味する。そうすれば、社長、首長、部下などの人達に迷惑を掛け、仕事での悪影響も及ぼす。しかしこのデメリットは、最初から覚悟して転職をせねばならないのである。

 Live Fishの掟で転職する場合でなく、通常の転職をする場合、多くの人は、転職する事を決め、帰属する会社、官庁等に迷惑を掛けたくないと考え、早めに転職の意思表示を行う。転職先を探し、見付かれば、転職の時期をトップ、上司、同僚、部下達に伝え、退職する。見付かっていなくても、退職してから転職先を探す。

 本稿で既に紹介したケースでは、「もしお辞めになったら我が社でお力をお借りしたい」と言われ、それを信じて退職し、Dead Fishになって失敗した。如何に実力がある人物でも、退職した瞬間、Dead Fishになり、その後の転職の成功確率が劇的に低下するのである。この事を多くの人が知らない。また知っていてもLive Fishの「掟」までは知らない。

●筆者の大学と大学院での「Live Fishの掟」の特別講座
 転職は社会人だけの課題ではない。それは大学生にとっても、大学院生にとっても重要な課題の一つである。

 筆者は官僚時代も、民間人時代も、様々な大学から要請され、本職と兼務で特任教授、客員教授などをやらされてきた。また今も海外の大学でやらされている。

出典:中央大学 講義風景
出典:中央大学 講義風景
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 さて日本の大学は、どこも「学生支援センター」、「学生就職支援部」などの組織を持ち、学生の就職相談や就職支援を行っている。

 筆者は本職と兼務で教えていた大学では、総長(学長)や学部長からの特別要請で「正規講座」の講義を行ったが、それ以外に「就職特別講座」の講義と同センターや同部の運営の支援・指導をいつも頼まれた。筆者が企業人や官僚の経験者である事が要請の根拠になっていた。

 筆者は多忙な本業を持ち、それと兼務で「正規講座」の講義を行った。昔なら1年掛けて教えた講義を今は半年で教えねばならない。更に期末試験では数百人の論文試験を採点する。「正規講座」を大学や大学院で行うのは大変であった。更に「就職支援特別講座」と同センターなどの運営支援・指導は無理であった。しかし「川勝先生、学生の将来の為に是非!是非!」と云う「殺し文句」で結局口説かれてしまった。大変であったが、日本の将来を担う若者に直に接して育てる事は新鮮で遣り甲斐を感じた。

 筆者が大学生と院生に最も強く認識させた事は、大学や大学院に在学中がLive Fishである事、卒業して就職しないとDead Fishになる事であった。更に卒業してアルバイトなど非正規社員で働く事は職歴になり難く、Dead Fishと扱われる可能性が高い事、そしてDead Fishの立場になると、予想を遥かに超える不利益を被る事を教えた。

 しかし此の認識は、筆者の知る限り、どこの大学の大学生や院生にも全くない事であった(来月号で再度解説)。大学生又は院生の読者は、筆者の本解説を心して読んで欲しい。

●転職の意思表示で自分の実像が判明
 本人が転職の意思表示をすると、余程嫌われていない限り、慰留の意思表示を受ける。しかしそれでも転職の行動を進めると、転職する人として「冷たく」扱われ出すか? 「辞めさせない」行動を取られるか? 転職希望先を調べ、時には邪魔されるか? などである。

 本号で全てのケースを解説する紙面の余裕がないので割愛するが、兎に角、転職の意思表示をする事によって、多くの場合、不利な立場に追い込まれる。この事だけは間違いない。と同時に自分が周囲から如何なる人間として見られていたか? 自分の実像は何であったか? など自分自身の事が次第に分かってくる様になる。

出典:自分は誰だ? 自分自身(実像)を知れ!
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 更に注意すべき事がある。

 その1は、転職したい会社や官庁などのトップや関係者が、本人の転職の意思表示を帰属会社に開示されている事を採用最終決定する前に知る事である。これは致命的な結果を招く。折角の良い転職の機会が失われる。何故か? 分かるだろうから解説を割愛する。

 もう1つは、「転職活動」をしている事は、家族だけに限定し、転職の相談をした第三者は別として、それ以外の人物には、如何に親しくしていても、「超極秘」にする事である。そうしなかった為に折角の良い転職が失敗に終わる事が余りにも多い。これも分かるだろうから解説を割愛する。

●転職後に守るべき「恩返し・罪亡ぼしの掟」
 転職する為の「Live Fish & Dead Fishの掟」の他に、転職後の「掟」がある。それは転職が成功しても、失敗しても守るべき「掟」でもある。以下の通りである。

 この「掟」は、転職して迷惑を掛けた会社や官庁などの社長、首長、同僚、部下に、転職した後に、何らか形の「恩返し」、「罪亡ぼし」をする事を云う。この「掟」を忘れると、その後の「転職」が出来なくなる事は多いからだ。此の事を心に留め、此の「掟」を実践する事を強く薦める。

 何故、此の「掟」を守らねばならないのか? それは「世間は狭い」からである。

 もし「恩返し」、「罪滅ぼし」をしないと、「自己中の人間」、「信用できない人間」などの悪い噂が広まるためである。悪い噂は良い噂の数千倍の勢いで世の中に伝わる。欧米の諺の中に同種のものがある。「It'a A Small World」である。歌にまでなっている。

 詳細は忘れたが、某学者に依る「噂の伝達」の研究例がある。「世間は狭い」ことを定量的に証明したものである。噂を含め、情報の伝達方法で「昔無くて、今有る凄いモノ」は何か?

 それは、Social Networkであり、SNSである。Real Newsも、Fake Newsも恐ろしい程の速度で恐ろしい程の伝達効果をもたらす。世界は完全にネット情報では繋がってしまった。

出典:人的&情報的ネットワークと世界情報ネットワーク
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 筆者は、産官学の3つ分野を転職してきた。迷惑を掛けた会社や県庁の方々に何らかの「恩返し」をする努力をしてきた。しかし彼らからの受けた恩を返し切っていない。この事を今も申し訳けなく思っている。今も感謝を続け、残りの人生で恩返しを続ける積りである。そして彼らに「足を向けない様に」している次第である。

●転職しなくても、守るべき「継職の掟」
 本稿の読者に薦めたい事がある。それは自分の仕事人生を「転職」に依って成功させる事だけでなく、逆に「転職」せず、同じ会社で勤め続ける事も薦めたい事である。此の事を表わす適切な用語が見当たらない。「定職」と云うか? 継続性を表わせない。仕方がないので「継(続)職」と云う造語を考えた。

 「継職」には、①他に良い会社が無いので今の会社に勤め続けると云う「否定的理由」、②今、勤めている会社で色々学び、学んだ事で工夫し、アイデアを出し、その会社を発展させたいと勤め続けると云う「肯定的理由」の2つが存在する。筆者は②の理由を持って、「継職」する事を強く薦める。それには理由がある。

 「継職」している間に、会社の経営と業務の「在り方(基本的な考え方)」と「やり方(具体的な方法論)」を体得し、実践すれば、会社の経営と業務を成功に導く事が可能になる。そして会社を発展させる事が出来る。この事は官庁に於いても全く同じ事が言える。

 この「継職」の時代に経営と業務の本質を体得し、実践し、成功させる実績を積み重ねておくと、勿論、当該会社で昇進、昇格の機会が増える。しかもその実績を外部からも評価される。其の結果、本人に素晴らしい「転職」の誘いが齎されてくるのである。「世間は狭い」からである。

 実は「社内と社外」と云う壁は、人が勝手に決めている「心の壁」に過ぎない。何故なら社内の情報は超極秘情報でない限り、社外に事実上筒抜けだからである。

 しかもこの筒抜け情報は、世界に筒抜けで伝わっている。その社内の情報の中に素晴らしい業績を上げた人物の情報が含まれている。世界のヘッドハンターとヘッドハント会社は常にその情報を把握しているのである。「彼らは社会の人事部」なのである。知らぬは「本人」だけ。

 「継職」を「肯定的理由」に基づいて維持し、社内で頑張る事は「転職」する場合にも有利になる。従って転職するか? 「継職」するか? 本人次第。有利と思う方を選べば良い。

●筆者の転職を支えてくれた支援者への「恩返しの掟」
 筆者は、大学を卒業と同時に入社した新日鐡で長年勤務した。しかし自分の「夢」を叶える為に定年より遥か前に同社を退職し、産官学の全く異なる3分野を転職し、経験し、現在に至っている。そして今も産官学の3分野の職務を遂行している。

 筆者の仕事人生を総括すると、その前半は「継職」、後半は「転職」であったと云える。しかもいずれの仕事人生にも成功し、現在も成功している。それは、「転職の掟」だけでなく、「継職の掟」も守り、更に幸運な事に、筆者を「表」と「裏」で支えてくれた「支援者の存在」があった為である。しかも有難い事に、現在も支援者がいてくれている。

出典*恩返し
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 支援者達に感謝以外の言葉は見当たらない。と同時に「成功は一人では絶対に出来ない」と云う昔からの教えが筆者の骨身に染みている。この支援者への「恩返し」も「掟」とする事を付け加えたい。

 さて最近、大企業を含め、多くの企業で「新入社員は入社後、3年以内に30%が退職する」と言われている。官庁でも類似の傾向がある。この事が社会的また会社経営的に大問題となっている。そのため各社は新入社員や若手社員に「意識改革」、「働き方改革」などの社員教育を実施し、躍起となって「退職」を引き留め、「継職」を求めている。

 しかし自分がやりたい事を求めて「転職」してきた「筆者」に言わせると、若い人であろうと、中高年の人であろうと、会社や官庁などに於いて、「肯定的理由」を持って、「継職」しても、自分が抱いた「夢(やりたい事、志、目的等)」を叶える事が出来ないと判断した時は、「転職の掟」を守って、さっさと辞めることである。

出典 チャンス(成功)は変化(転職)で
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 この問題を社会的大問題、会社経営的大問題と各社やメディアが大騒ぎしている。そうするのは勝手だが、勘違いしてはならない。問題の所在は、辞める社員の側ではなく、会社や官庁などの側に在る。しかし「最近の若い者は我慢しない」、「直ぐに辞める」などの批判がある。その批判する人物に「貴方は、若い頃、本当に我慢強かったですか?」と言いたい。更に「貴女は転職する勇気が無かったので辞めなかっただけでは?」と問いたい。

 これからの時代は、優秀な人物は会社や官庁などを次々と転職し、その転職に依って本人の実力を高める。時には本人が自分の実力を醸成するため「継職」する。実力のある若者は、日本を去って世界に益々飛躍するだろう。

 日本は欧米諸国と比べるとまだまだ「労働の流動性」は低い。しかし今後は益々高くなるだろう。そして「自由と民主主義」が抑圧されていない日本や欧米諸国では、優秀な若者だけでなく、優秀な中高年も、「継職」か、「転職」で活躍するだろう。
つづく

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