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「エンタテイメント論」(164)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :11月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

7 本質
●筆者自身が「転職の掟」の「生きた見本(Living Example)」
 前号の最後に、何故、筆者はヘッドハンターが使う隠語の「Live Fish」や「Dead Fish」を知っているのか? そもそも何故、ヘッドハンターの裏の実態まで知っているのか? 

 以上の疑問に順を追って答える。しかしそうするには、筆者の「個人情報」となる今までの人生の一部を公開し、更に筆者自身が此の掟を如何に守り、如何に転職を成功させたかも提示せねばならない。

 しかし今から転職する人物、近い将来、転職を計画している人物の為に参考になればと、敢えて筆者自身をさらけだし、此の掟の「生きた見本(Living Example)」になると決意した次第である。

出典:生きた見本
出典:生きた見本
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●筆者の「第2の人生」
 「川勝さんですか? 貴方を日本と外国の数社が求めています。夕食を兼ねて、私の相談に乗って頂けませんか?」。

 新日本製鉄勤務時代の或る日、或る時、この電話を筆者の秘書の女性から告げられた。後で思い出すと、この電話こそが筆者の「第2の人生」の扉を開けた。

 電話の主は、「〇〇エグゼクティブ・サーチ会社の者です」と名乗った人物であった。「胡散臭い相談だ」と感じたので、その申し出を丁重に断った。

 しかし数日後、また同じ人物からの電話を受けた。少々腹が立ったので、はっきり断ろうとした。 次の瞬間、「川勝さん、貴方が良くご存じの米国の●●社長さんからのご紹介でお電話させて頂いております」と筆者の発言を遮った。そして「前回は川勝さんのご存在を確める事が目的で細かい事をご説明致しませんでした。申し訳けございませんでした」と丁重に謝罪された。

出典:電話
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 彼の電話の中身を聞けば聞く程、驚いた。怖くなる程、筆者の事を知っていた。エグゼクティブ・サーチ会社とは「ヘッドハント会社」の事である。電話の主は「ヘッドハンター」と言われる人物の事である。その頃、日本ではヘッドハンターの存在は殆ど知られていなかった。しかし不思議な事に、この電話があった数か月後あたりから、様々な異なるヘッドハント会社から様々な内容の電話が続いたのである。

■ヘッドハンターからの魅力的な提案
 筆者は、初めて接するヘッドハンターの存在に好奇心が湧き、電話連絡があった全てのヘッドハンターに仕事が終わってから東京都内の様々な箇所で会った。そして様々な提案を受けた。
筆者を求めた日本の会社も、日本に支店を持つ外資系の会社も、いずれも上場会社又は上場していないが名が知れた会社ばかりであった。

 提案を受けた職位は、例えば、経理財務部門を総括する副社長、人事組織を総括する常務取締役、新規事業部門を統括する事業部長などでいずれも要職であった。しかも報酬額は筆者の予想を遥かに超える高額であった。更にその他の人事処遇も魅力的であった。

 多くのヘッドハンター達は、筆者の経験を全て熟知していると言わんばかりに「川勝さん、何故、断るのですか? あなたが今まで経験された経営、企画・開発、経理・人事、購買、販売等の全てを100%活かせる提案をさせて頂いています。しかも凄い地位と凄い報酬も得られます。断る理由が見当たりません」と猛烈に説得された。

 しかも筆者が提案を断ると地位が更に上がったり、報酬額が増えたりした。これには筆者は心底驚いた。しかし地位や報酬が急に上がる提案をする会社には何故か強い懐疑心を持った事を今も鮮明に記憶している。

 おとぎ話の「舌切り雀」ではないが、地位や報酬が「大きい箱」より、やりたい仕事(テーマパーク事業)がやれる「小さい箱」の方を優先させた。紆余曲折の末、最終的に筆者は(株)セガを選択したのである。

出典:天秤

 後日談であるが、筆者が断わると地位を大幅に上げたり、報酬額を2倍にする「超大の箱」を提案した数社は、その後、経営が巧く行かず、事業が萎んだり、倒産したりしていた。「超大の箱」を選び、ヘッドハントされた人物は、「超大の箱」の中に鬼や地獄を見たと噂されていた。

■Live Fishの掟の実行
 筆者は新日鐡勤務中のLive Fishのまま、セガ社を選択し、セガ社長から筆者を採用する最終決定の連絡を受けた。従って決定後、初めて新日鐡社長に退職願いを出す事になる。社長から怒られた。しかし筆者は必死に「新しい人生を歩ませて頂きたい」と社長に何度も、何度も懇願し、最後に何とか聞き入れて貰った。

 社長の陰の配慮があった様で、新日鐡人事部の専門家はセガ人事部と話し合い、「セガ社が筆者を採用するに際して、隠れた不利な条件がないか?」などを調べてくれた。筆者は、一切不利な事はなくセガに転職する事が出来た。この時から今日まで筆者は「新日鐡に足を向けて寝られなくなった」次第である。

 Live Fishのままで帰属会社から転職する時、帰属会社に大きい迷惑を掛けて去る事を覚悟せねばならない。それは「心を鬼に」する事で成し遂げる事ができる。しかし転職後、仕事に成功したか否かに拘わらず、何らかの形で元の帰属会社に迷惑を掛けた事への「償い」を忘れてはならない。筆者は自分を育ててくれた新日鐡に今も感謝している。償うべきほんの一部しか償っていないが、残りは生涯を掛けて償う積りである。

●エグゼクティブ・サーチ会社(ヘッドハント会社)の実態
 ヘッドハンター達と筆者は何度も会う内に、お互いに「本心、本気、本音」で話し合う様になった。そうなって初めて「本物の転職」を成功させる事が出来ると筆者以上に彼らは知っていた。そして彼らと飲む機会も増えた。

 ヘッドハンターの中にピアノを弾く人物がいた。彼は筆者がジャズピアノを弾く事に強い興味を持ち、トリオ演奏で毎月出演する東京都内のジャズ・ライブハウスに頻繁に遊びに来てくれた。この人物こそが筆者をセガに紹介し、その転職を成功させた人物であった。筆者は彼を含め多くのヘッドハンター達から世話になる一方、多くの事も学んだ。彼らから得た貴重な情報の一部を以下に紹介したい。

  1. 1 外資系のエグゼクティブ・サーチ会社(ヘッドハント会社)は、「Live Fish」や「Dead Fish」の隠語を内々で使わせている。ヘッドハンター達は、「彼はLive Fishか?」、「彼女はDead Fishか?」と尋ね合う。彼らはDead Fishの人物をヘッドハントしない。しかし「日本の官僚はLive Fishでもヘッドハントしない」と筆者の耳元で囁いた。皮肉な事に、筆者はLive Fishでもヘッドハントされない官僚に転職した。
  2. 2 外資系ヘッドハンター会社は、ヘッドハント候補者を決める時、極めて確度が高い「ヘッドハンティング式人事評価方法」をヘッドハンター達に使わせている。また彼ら自身も、自分式人物評価方法を開発し使っている。
出典:ヘッドハント会社のキー
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  1. 3 外資系ヘッドハンター会社は、世界中に「人事ヘッドハンティング・ネットワーク」を持ち、常にその内容を更新し、各社間で相互に情報交換をしている。
  2. 4 外資系ヘッドハンター会社は、世界中の重要なビジネスマン&ウーマンの「個人情報」を超極秘で保有している様である。
  3. 5 外資系ヘッドハント会社は、ヘッドハンターと人を求める企業との間の情報伝達&仲介を支援している。一方、ヘッドハンター達は、人を求める会社と転職条件となる地位や報酬額等について条件交渉したり、両者間の実質的な調整機能を果たしている。個々の企業に人事部や人事課が機能している様に、ヘッドハント会社は、ヘッドハンターの人事的機能を支え、企業の人事部を遥かに凌駕する機能も果たしている様である。彼らは「社会の人事部」であると思った。
  4. 6 最近の人事スカウト分野では、日系のヘッドハント会社、自称ヘッドハント会社、単なる転職支援会社などが玉石混交の状態で存在し、過当競争を繰り広げている。しかしそれらの中で本物のエグゼクティブ・サーチ会社(ヘッドハント会社)の機能を果たす会社は極めて少ない事は気がかりである。もしスカウトされた時は、ヘッドハンターと称する人物や彼らが帰属する会社の実態を良く調べる事を薦める。
  5. 7 ヘッドハンターがヘッドハントを成功させた場合、ヘッドハント要請会社から「成果報酬」としてヘッドハントされ、就職する人物の年収予想総額の100%をヘッドハント会社が受け取る。この成果報酬額のX%を成功させたヘッドハンターが手数料として受け取る。100%とは相当の収益となる。しかもヘッドハンターの受ける報酬額も大きい。しかし最近は過当競争から100%を切ったと聞いている。
  6. 8 筆者をヘッドハントした会社は、米国系の有名なヘッドハント会社であった。また筆者が大変世話になったヘッドハンターは日本人であった。様々な理由からその会社名と個人名を此処で開示する事はできない。
  7. 9 最後に、筆者はヘッドハント会社やヘッドハンターから得た情報は、筆者に「転職の掟」を生み出させる事になった。更にヘッドハンター達が活用する「ヘッドハンター式人事評価方式」や彼ら自身が産み出した様々なノウハウは、筆者に「夢工学式人事論」や「悪夢工学式人事論」など幾つかの「夢工学式実践論」を生み出すヒントを与えてくれた。今も、付き合ってくれたヘッドハンター達に感謝している。

つづく

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