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オンラインの場を盛り上げる力

井上 多恵子 [プロフィール] :11月号

 「井上さんは体力がありますね」先日同僚からこう言って褒められた。嬉しかったが、「体力がある」というのは残念ながら事実ではない。フルマラソンを走れるわけでもないし、立っているよりは座ったり、ソファやヨガマットに横になったりする方を好むタイプだ。夜9時半を過ぎると、やっていることに飽きたり眠くなったりして、うたた寝もしている。同僚の言葉に一部真実な側面があるとすれば、それは、「限定された条件下」で体力があるように見えるということだろう。「周りに人がいる」ことが、条件になる。例えば、スポーツクラブでZumba(ダンス)やファイトアタックなどのクラスに参加している時だ。疲れていても、周りと一緒に最後までやり遂げている。いい恰好しいで、途中であきらめる姿を見せたくないからかもしれない。あるいは、誰かと双方向的に興味のある話をしている時だ。一人でもいいし、複数の人達が相手でもいい。
 同僚の誉め言葉も、英語でのワークショップをした後に言われた。それまで一回しかオンラインでやったことがなかった講座を役職がより高く、国籍も職種もバラバラな人達に対して、4日間連続して実施した。最初の2日間は夕方5時から9時まで、次の2日間は9時から1時まで。直前まで資料の準備に週末も費やし、ワークショップの実施日には、前後に通常業務を数時間していた。ワークショップ時には元気になれる私でも、この条件だったら、途中でだらけてしまっただろう。にもかかわらず、高いエネルギーレベルを維持したままやり切れた理由は、3つある。
 一つ目の理由は、人が学ぶ場自体が大好きだという点だ。大好きだからこそ、機会を積極的につかみ、これまでに実践の場を数多く経験することができた。デジタルに苦手意識があったため、全てがオンラインになった当初は、その波に乗ることを拒絶した。しかし業務がまわらなくなっていった中、オンラインセミナーを聞く側として手あたり次第に体験する中で、オンラインでのワークショップのコツを少しずつ理解していった。そして、苦手ながらも少しずつ半強制的に、オンラインでのワークショップの経験値を積んできた。感触がある程度つかめると一気に上達する。前述した講座をやった際は、オンラインの場も楽しめるようになっていた。
 二つ目の理由は、英語で話すことが苦にならなくなっていた点だ。以前は通訳をすると、脳が疲れるのを感じていた。その後、イギリス人の赴任者がやってきて、日本語と英語が入り混じって交わされる環境に身を置いたことがきっかけで、脳が疲れずに、日本語と英語を行き来できるようになった。負荷をかけないように脳が進化したのだろう。その結果、英語だけで話す際も、日本語を話すのと同様な負担感でできるようになっていた。
 そして三つ目の理由が、参加者からもらえるエネルギーが私自身の元気を増幅したという点だ。オンラインの場を盛り上げることができたおかげで、参加者が前向きになり、それが私に元気をくれたという構図だ。オンラインの場を盛り上げるために試みたことがいくつかある。まず、相当時間をかけた準備段階で気を付けたのは、一方的な話が長く続かないようにすることと、できるだけテンポ良く話ができるようにすることだった。今回以前私が話した講義の文字おこしをしてもらった原稿を見て愕然とした。意味のない間や繰り返しなどがあまりにも多かったからだ。そこで、スタートが肝心と、冒頭無駄なく話ができるよう、言いたいことを何度も口にし、簡潔かつ前向きな表現にしつつ、効果的な間も入れていった。また、意欲を高めてもらうために、学ぶ目的を最初に自ら考えてもらった。これから学ぶことを職場で実践するとどんないいことがあるか、想像し言語化してもらい、チャットに書いてもらった。それらの要点を私が読み上げ適宜コメントを加えることで、他の人が書いたことからも刺激を得られるようにした。また、双方向にするために、クイズや少人数でのディスカッションと全体での振り返りを入れたり、感想や考えたことをチャットにアウトプットしたり、質問を促したりした。彼らが前のめりに参加してくれたことで、より良い説明の英語表現を学べたのは収穫だった。
 次回以降に向けた課題も、複数見つかった。質問を受けた際の回答の仕方には、改善の余地がある。答えが難しくても、自分でボールを持ち続け自分で答えようとしてしまい、質問への回答がダラダラしてしまう傾向がある。それを回避するためにボールを相手だったり他の受講生に投げたりする方法を以前教わったことがあるが、できていない。参加者に話をしてもらう際、長くなりすぎないようにコントロールすることも課題だ。事例が響かない人がいるので、事例の引き出しを増やすことも必要だ。今後も一つ一つの機会を大事に、進化を続けていきたい。

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