今月のひとこと
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 ましだと思う人 

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :11月号

 懐かしい景色が戻ってきました。乗換駅のベンチで眠り込むオジサンの姿です。
 この欄に「寝落ち」というタイトルの拙文を載せた頃から「中国で変な病気が流行っているらしい」という報道が流れ始め、やがて駅のベンチで眠り込むオジサンを見かけなくなりました。お酒類の提供が解禁となると、すぐさま居眠りオジサン復活、日常が戻ってきたという感じです。この日常が長く続いて欲しいとは思うものの、やはり居眠りオジサンの姿は哀しいですね。

 10月末は総選挙でしたので、新たな衆議院議員が選出されました。国内外に喫緊に取り組まねばならない多数の課題がある中で、選挙の洗礼を受けて政治家の道を歩まれるのは尊敬に値する方々です。知力・気力ともに格段に充実した方でないと、あの壮絶な選挙戦を戦い抜くことはできないだろうと思います。そうして選ばれて議員になり、大臣や政務官として活躍されます。
 そんな方たちですが、政策や危機管理に失敗したり汚職等で問題になったりした際に、世間、特にマスコミから猛烈な批判を浴びます。批判されるのは已むを得ないとしても、その批判の仕方に違和感を覚えることが間々あります。

 「選良」という言葉がありますが、選ばれた優れた人だという意味だそうです。議員は「選良」なので常に正しい政策を選択・実行し、危機に臨んでは適切な判断・行動をし、汚職等にまみれることがない人でなければならないというのが世間の常識だそうです。ですから「選良」にあるまじき行いがあると、世間特にマスコミは非難の嵐を浴びせます。
 選挙は、多数決を行う場です。議員になってもやっていけると思った人や思われた人が立候補します。国民はその中から相対的に「ましだと思う人」を選んで投票して、票が多かった人が選ばれます。最も優れた人が選ばれるわけではありません。多くの人から「ましだと思われた人」が選ばれます。ましだと思う理由は様々です。顔がいいとか声がいい、人気があるなどといった理由の人もいるかもしれません。政策を聞いて賛同したという人もいれば、賛同しないが対立候補を選ぶよりはましだといった理由の人もいます。そいったプロセスを経て議員になった方々に誰が「選良」を押し付けるのでしょうか。
 選挙中継で「思いを託す」と表現したアナウンサーがいました。誰を見て、誰にインタビューしてそのような実況報告をしたのか不思議でなりません。事実の裏付けのない報道を非難しても今更といった感じですが、政治への見方を歪めている一因だと思います。

 違和感をもたらしているのは「事実の歪曲」がいたるところにあるということです。なぜ事実を曲げるのか、どんな力が動いているのかは分かりませんが、過剰な期待や過度な思い込みのようなものが働いているように見えます。
 国政選挙に打って出ようという方たちは、知力・気力に溢れた貴重な人材です。そこは間違いないと思いますが、彼らが力を振るうには本人を含め必要なスキル・経験を備えた態勢を整備しなければなりません。その部分を疎かにしたまま、成果が出ないとか、スキャンダルを起こしたと騒ぐのはいかがなものでしょうか。そのような行為に加担することのないよう、気を付けたいと思います。
以上

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