理事長コーナー
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日本のDXの最重要課題とは!?

PMAJ 理事長 加藤 亨 [プロフィール] :10月号

 「加藤さん、私、本番データ、触ってるんですっ!!」
 もう10年以上前になるのでしょうか。当時、私は情報子会社の役員として、親会社向け事業本部の本部長を担当し、毎月定例の親会社とのミーティングの後に、様々な契約形態で親会社のオフィスで勤務している自社の社員に声をかけて回ることを習慣にしていました。その時に、人事部門に出向している社員の口から、いきなり飛び出したのが冒頭の言葉でした。
 日本のシステム開発は、通常、発注側の業務の担当者が要求を出し、外部の(情報子会社など)のシステムエンジニア(SE)がその要求に沿って開発するという形で進められてきました。開発の最終段階のテストを行う場合も、SEが触るのは本番データ(実際の業務で使うデータ)ではなく、本番データを真似たテストデータだけでした。
 冒頭の発言は、たまたま親会社の社員が不足し、頼まれて出向形態で実業務を担当していたSEが発した言葉になります。SEであれば、本番データを触って間違って書き換えてしまったりすれば大問題となり、本来は触れてはいけない本番データを、今、私は直接操作している、という驚きと感動が発言の背景にありました。
 私は、この言葉を聞いて愕然としました。
 「そうか、彼ら彼女らは本番データの先にある実際のビジネスプロセスに触れる機会は無いんだ。」
 「だから、自分たちが作るシステムが、どれだけ重要な業務へのインパクトを持つのかを肌身で感じることができないのではないか。」
 ということに気が付いた私は、親会社のIT部門、人事部門と協議を行い、親会社の非IT部門への出向をSEのキャリア形成のプロセスに組み込むこととし、SEに実際の親会社の業務を体験してもらうことにしました。

 経済産業省の『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』(以下、DXレポート)が、2018年9月に発表され、「2025年の崖」という言葉が、日本のデジタル化の遅れの象徴として注目を集めました。そのDXレポートが掲げた対応策の5番目に、「DX人材の育成・確保」があります。
 DXとはデジタル変革、つまりデジタルを活用してビジネスプロセスを変革して行くことですが、そのためには、ビジネスプロセスとシステムの両方を俯瞰し、どのようにビジネスプロセスにデジタルを組み込めば変革が可能かを想像(創造ではなく)でき、企画できる人材が必要となります。
 一方、1980年代以降、大きく情報子会社化を進めた日本の産業界は、「経営とITの乖離」を引き起こし、結果として米国では事業会社の中にほとんどのSEが勤務するのに対して、日本では事業会社の外にほとんどのSEが勤務する産業構造になっています。そして、その多くのSEが本番データから先のビジネスプロセスを肌で感じることのない開発経験を積み重ねてきました。
 事業会社側の担当者にも同じことが言えます。要求仕様を出した後は、受入テストまではシステムに触れることがなく、ITのメリット・ディメリットを直接肌で感じることのないIT活用を積み重ねてきました。
 結局、日本には、ビジネスとITの両方を理解する人材を育成する土壌が形成されず、結果としてDX人材が不足することになっていると言えるのではないでしょうか。
 このような背景があるとすれば、日本のDXの最大の課題は、どのようにして「ビジネスプロセスとデジタルの両方を理解し、企画できる人材」を育成していくか、つまり、「DX人材の育成・確保」が他の国以上に重要であり、そこに日本の大きな課題があると言っても過言ではないのではないでしょうか。
 そして、この縦割りの役割分担であったシステム開発を、横通しのDXに転換する力が、プログラムマネジメントにはあると私は確信しています。その観点にこそ、PMAJが日本のDX推進に貢献できる役割だと考えています。
 この実践のため、PMAJは10月以降、次のような企画を用意して、日本のDX推進に貢献して参ります。ぜひ、ご参加ください。

デジタルの日記念 DX講演動画 (pmaj.or.jp) (2021年10月10日~10月31日)
PMAJ特別講座「DX成功のための組織アジリティ向上」
 ~DX時代に生き残る企業になるための取組~ (2021年10月8日)

PMAJ特別講座 「DX人材育成シリーズ」講座 1 (2021年10月15日)
産学官連携PMセミナー~DXを先導する人材~ (2021年11月12日)
PMAJ特別講座 「DX人材育成シリーズ」講座 2 (2021年11月19日)
 (加藤のオンライン名刺)
加藤のオンライン名刺

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