第156回関西例会 報告
PMAJ関西KP/安達 正人 : 9月号
開催日時: |
2021年7月21日(金) 19:00~20:30 |
開催場所: |
オンライン開催 |
テーマ: |
「人口減少期の働き方とリモート環境でのマネジメント」
~在宅勤務とリモートワーク、1年過ごしてみて~ |
講師: |
富 光弘 (とみ みつひろ) 氏
/日本電気株式会社 シニアエキスパート |
- 1. はじめに
2020年に始まったコロナ禍によって、半ば強制的に始まった「在宅勤務」。
以来1年半にわたる講師ご自身の在宅勤務による業務経験やお客様の状況などから得られた知見をもとに在宅勤務とリモートワークの現状そして今後の展開についてとても分かりやすく解説していただきました。
多くの方が在宅勤務を経験しご苦労されている中、今回の関西例会も前回に続きZoomによるリモート開催となりましたが、ご講演内容と重なり、リモートワークを考える上でも意義のある関西例会となりました。
- 2. 概要
- 2.1 背景と現状
今後確実に到来するとされている人口減少への対応、働き方改革の一環として政府主導によるテレワークが徐々に進められてきました。しかし、コロナ禍による緊急事態宣言下で私たちはいきなり半ば強制的に始まった在宅勤務によって急激に変化を求められることになりました。
在宅勤務に不可欠であるはずの環境、ルール、リテラシー、マネジメントなどの前提が十分準備されないまま始まってしまったため、これまでに比べ仕事の効率が下がったと感じる方たちが増えています。
また、講演では「テレワーク」、「在宅勤務」、「リモートワーク」の定義を次のように明らかされています。
「テレワーク」はオフィス以外での勤務の総称で、「在宅勤務」は緊急事態宣言によって自宅での勤務を強制的に強いられたものでBCP対策的なテレワーク。一方の「リモートワーク」は、仕事の生産性向上のため任意に働きやすい場所での勤務を目指した次世代のテレワークであるとされており、これまで何気なく混在して使っていた類似する言葉の違いを改めて認識することができました。
前述のように在宅勤務によるテレワークは、実施率が低迷している一方で、働き方改革や人財確保の観点から進められている「リモートワーク」は既に必須要件となっています。
リモートワークを進めるための現状の課題としては、自宅や職場など作業環境下でのITセキュリティ対策、利用者のITリテラシー教育、人事制度の見直し、リモートワークと従来の業務方法との最適なバランス、更に監視ではなく改善に向けた適度な見える化などを挙げられています。
- 2.2 コミュニケーション
前項で紹介されたリモートワークの課題に対し、どのようなコミュニケーションとマネジメントが有効なのかなど、具体的な解説を伺いました。
従来のオフィス勤務での電話や電子メールによるコミュニケーションでは、情報が会話やメールした相手方にしか伝わりませんが、リモートワークの進展にあわせて情報共有のためのテキストコミュニケーションの重要性とポイントが挙げられました。
まず、特にビジネス上のコミュニケーションにおいては、相手に伝わることが最優先となるため、送り手側が受け手側の理解を意識した配慮が必要になります。しかも画一的ではなく、相手の国籍、年代、業界などを考慮して文字や表現を使い分けることも必要です。
更にリモートワークによるテキストコミュニケーションの成熟度を以下のような段階に分けて整理され講演の中では成熟レベルごとに具体例が示されました。
・ 0.0 全くやってない
・ 0.5 ハードウェア環境の整備
・ 1.0 ソフトウェア環境の整備
・ 1.5 ルール・規程の整備
・ 2.0 DX/AIで効率化
中でもレベル1.5では、携帯電話、メール、チャット、Web会議それぞれのルール事例が示されました。
- 2.3 マネジメント
リモートワークをより効率的に行うために、セルフマネジメント、健康マネジメント、会議マネジメント、コミュニケーションマネジメント、リソースマネジメントの5つのマネジメントが示されました。
それぞれのマネジメントのポイントは次の通りです。
- ・ セルフマネジメント :
在宅勤務では、服装や場所などの環境を変えるなど自分なりのルーティーンを決めて気持ちの切り替えを図る。
- ・ 健康マネジメント :
ストレスなどメンタル面への配慮が必要。
- ・ 会議マネジメント :
リモートと対面(リアル)の特色の違いを理解し使い分けること。意見交換は発話の重なりを重視し対面が望ましいが、情報共有のための会議は共感を求めないのでリモートでも問題がない。(それ以前にまず会議そのものが本当に必要なのか要否を検討することが重要。)
- ・ コミュニケーションマネジメント :
就業時間外や休日のメール送信はしない。朝会の定期開催や社員旅行の復活などリアルとリモートのバランスを考える。
- ・ リソースマネジメント :
リモートワークができない人とできる人を区分し、課題ごとの対応を行う。(そもそもやる気のない人は論外。)
- 3. 今後へ(リモートワークはDXのひとつ)
デジタルトランスフォーメーション(DX)は、一般的に「最新のデジタル技術を駆使した、デジタル化時代に対応するための企業の変革」という意味合いのビジネス用語として使われています。リモートワークはまさにデジタル技術を活用した企業活動の変革の一端と言えます。
これまでは情報を持っていて必要な情報を必要な時に報告できる人が評価されていましたが、DXの世界では共有された情報を活用し判断できる人が評価されるようになります。
【組織に与えるリスク】
リモートワークの普及に伴い、様々なビジネスリスクが顕在化してきます。
これまでは社内のシステム環境の管理や保全は、情報システム部が一貫して行っていましたが、リモートワークによる業務環境の変化によって、単なるシステム環境だけでなく、人事、法務、採用、R&Bなどの面でも制度やルールの見直しが迫られています。
働く世代の人口減少やそれに伴う働き方改革によって、従来通りの採用ができない、副業・兼業への対応ができない、人材流出が止まらないなどにより組織が維持できなくなる懸念があります。
リモートワークを使いこなせない「絶滅危惧ビジネスパーソン」=負け組になってしまわないために、全員が「デジタルネイティブ」に変化していくことが求められます。
【P2Mとの関連付け】
これまで解説されてこられたリモートワークにとって必要なマネジメントは、P2Mにも深く関連しています。
プログラムマネジメントにおいては「コミュニティーマネージメント」および「場のデザイン」に関連付けされます。
また、個別マネジメントでは、「プロジェクト組織マネジメント」のうち、「プロジェクト組織デザイン」、「チームビルディング」や「プロジェクト人材の育成と資質」に、更に「関係性マネジメント」や「コミニケーションマネジメント」に関連付けされます。
- 4. まとめ
コロナ禍によって半ば強制的に始まった在宅勤務ですが、BCP対策的な面では一定の効果はありますが、仕事の効率面では十分な効果は発揮できていません。しかし、働き方改革の一環でもあるリモートワークでは仕事の効率を上げていかなければなりません。
「リモートワークを成功させるための方程式」は次の図のように、コミュニケーションに係るルールを整備したうえで、ハードウェアとソフトウェア環境を整備しスキルアップを図ります。更に現状を取り巻く危機感(リスク)を改善する「変革へのマインド」が不可欠な要素となります。
- 5. おわりに (感想)
コロナ禍によって多くの方が在宅勤務を余儀なくされたのではないかと思いますが、本日の講演で在宅勤務とリモートワークは本質的に異なること、リモートワークは人口減少や働き方改革の一環であり、我々が能動的に取り組んで行かなければ負け組となることなどを学ばせていただきました。
今回の関西例会もコロナ禍が起因ではありましたが、オンラインでの開催によりリモートワークが推進され、さらに地域に影響されずどこからでも参加が可能となるなど、大きく変化しました。
最後のまとめで示していただいた、「リモートワークを成功させるための方程式」のポイントである「変革へのマインド」を持ってリモートワークを進めていきたいと思います。
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