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人との関わりから学ぶ力

井上 多恵子 [プロフィール] :9月号

 読書や経験を通じて、一人で学ぶことは可能だ。それらに加えて、人と関わることで学びをより広く深くすることができる。今回は、人との関わりから学ぶ力について、事例を挙げて紹介したい。
 
 読書会で人と関わる
 
 一冊の本を複数名で読み、各々の発見や解釈を共有することで、一人で読んでいる時以上の気づきを得る読書会。私の夫は、大学院の仲間たちとの輪読会に月一回参加している。読書対象はページ数が多い専門書中心で、毎回の準備に相当時間をかけている。しかし、それ以上の価値を得ていると彼は言う。知的レベルが高い人たちとの議論は、刺激的なようだ。

 コーチングで人と関わる
 
 コーチング。自らをコーチングするセルフ・コーチングもあるが、大半は、他者との関わりの中で行われる。一人を相手にすることもあれば、一定数の人を対象にしたグループ・コーチングもある。人は、一人で考えていると、堂々巡りをしたり、狭い範囲で物事を捉えたりしがちだ。それに対し、コーチは、関わる人(達)が新たな気づきを言語化し変わるための行動を起こすために、質問や場合によってはアドバイスをすることもある。その結果、関わる人(達)が堂々巡りのループから抜け出したり、解決の糸口を発見できたりするということが起きる。
 私が参加している100 Coachesコミュニティの集まりでも、関わりによる発見の場面に遭遇した。これから実現したい夢を我々コーチに語ってくれた数々の功績をあげてきた著名なライター。そんな彼に、一人のコーチが問いを投げかけた。”What legacy do you want to leave behind?” (あなたはどんなレガシーを残したいのですか?)レガシーは、自分が生きた証として後世に残していくもの。「そういう観点からは考えたことがなかった」と答えて、その後しばらく皆で話した後、ライターはこう語った。「子供たちに書くことを教え、子供たちの可能性を拓いていきたい」
 私も同様に、100 Coachesコミュニティの集まりで、他のコーチからコメントをもらう機会があった。その時にわかったこと。自分の強みを把握しているつもりだったが、気づいていない強みがまだまだあるということ。自覚していたのは比較しやすいスキルに基づく強みで、あり方についての強みには気づいていなかった。「あなたには周りの人をワンダーの世界に誘う力がある」。意訳すると、「知らなかった!」「ワクワクする!」と周りの人に感じてもらえる何かを見せる力を持っているということ。そんな力が自分にあるなんて、これっぽっちも思っていなかったが、感性豊かな彼女だからこそ、私の中にある小さな芽を見つけることができたのだろう。その芽がどこにあるのか、どうすれば花開かせることができるのかはまだわからないが、あると知ることでスタート地点に立つことができる。

 セミナーで人と関わる
 
 先日ある社外セミナーに参加した。オンラインでファシリテーションをする時どんな気持ちになるか、という質問に対しある方が、「ぽつんと一人ぼっちに感じる時がある」と語った。参加者が本当に聞いてくれているのかどうかわからない、ましてやカメラオフだと聞いているのかさえ、わからない。そんな状況が、「ぽつんと一人ぼっち」という発言に繋がったのだろう。聞いていた残りの参加者が、その方に対するメッセージをチャットに書いた。次々と流れるメッセージを見て感じたのが、皆さんの共感力。「その気持ち、よくわかります」「共感します」「私も同じように感じます」「頑張ってください」などのメッセージを見て、発言した方が言ったのは、「涙が出るくらい嬉しいです」。共感の言葉をシャワーのように浴びる効果だ。
 数か月前から月二回のペースで、社外の方々を対象にワークショップを実施している。コーチングの神様と呼ばれるマーシャル・ゴールドスミス氏の教えを多くの方々に知ってもらうことが目的だ。この場は、私にとって、大きな学びの機会になっている。元々は英語で学ぶことを中心に設計したのだが、二回目からは、マーシャルさんの考えや実際に私が接して感じた彼のありかたも紹介することにした。マーシャルさんの教えをもっと知りたいという期待が寄せられたからだ。その結果、マーシャルさん研究プロジェクトのようになっている。彼が書いた本やブログを読み込んだり、ファシリテーションをしている様を観察したり、彼と接している人たちから彼について学んだりしている。私一人で学んでいるだけだったら、このレベルで彼について研究することは到底なかった。回を重ねるごとに出される期待や質問に応えていく過程で、皆さんと共に私自身も成長していることを実感している。

 以上、今回は人との関わりから学ぶ力について例をもとに紹介した。読者の皆さんも、多様な人々と関わることで、更なる成長のきっかけをつかんでみませんか?

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