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「エンタテイメント論」(161)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :8月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

7 本質
●「カネで買えないモノ」と「残りの35年間」
 前号で「カネで買えないモノ」を話題にした。これは「100年人生タイム・テーブル」と密接な関係があるためである。

100年人生タイム・テーブル
 「カネで買えないモノ」を本職の他に既に持っている人物は、65歳の定年後、死ぬ迄の35年間、その「モノ」を糧として衣食住を十分に満たす生活を可能とするだろう。またその「モノ」が本稿で説く「エンターテインメント」の要素を持っておれば、やはり其の「モノ」を糧として楽しい人生をエンジョイする事が可能であろう。もし持っていない人物は、「今、其処で(Now and Here)」行動を起こし、持つ事を薦める。残りの35年間は、想像以上に長いのである。全ては此れからである。定年がまだまだ先の若い人物もNow and Hereで行動する事である。人生、無駄なモノは一切ないからだ(デック思考の考え)。

 総じて考えてみると、世の中で「カネで買えるモノ」は、数多くある。と同時に「カネで買えないモノ」も数多くある。前号で本職の他に「カネで買えないモノ」を持っている人物は、欧米社会で尊敬されると述べたが、昔の日本社会では尊敬されていた。今は違う様だ。

●巨万の富の持ち主とクールなジャズピアノ演奏
 本稿が「エンタテイメント論」であるので、本職の傍ら、「カネで買えないモノ」を手に入れる実例として、多くの日本人がカッコ良く、クールと感じる「Jazz Piano Trio演奏」を取り上げてみる。

 さて巨万の富を持っている人物は、「カネ」にモノを言わせて、先ずジャズピアノをクールに弾ける様に指導できる「先生」を世界中から探し、世界一高いレッスン料を払って雇う。次にジャズ演奏の基礎となる「ジャズ理論書」を世界中から集める。更に世界中の最も優れたジャズ演奏家の「レコード(CD、You tube)」を収集し、いつでも聞ける体制を作る。その上で「本職の合間又は本職より優先」させてジャズピアノレッスンを受ける。

 しかしピアノを一人で弾けるだけでは半人前の半人前。最も難しい演奏形態である「トリオ演奏」をベースマンとドラマーとで合奏する訓練をする。それでやっと半人前。次は、ジャズ・ライブハウス等の観客の前で演奏し、失敗と成功を重ねる「本番練習」をする。その結果、観客の本物の拍手を得る。この時、やっと一人前になる。と同時に「カネで買えないモノ」を手にする。

 巨万の富の持ち主だから本番練習も、本番出演も可能な「ジャズ・ライブハウス」や「劇場」などを丸ごと買収するだろう。しかし客まで買収はしないだろう。何故なら「偽の拍手」を受ける事になるからだ。

出典:ビル・エバンス・ジャズ・トリオ演奏
出典:ビル・エバンス
・ジャズ・トリオ演奏
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 ちなみに日本の長唄、三味線、日本舞踊など「芸事」を習う場合、その発表会では、芸を披露する出演者が仕出し弁当付きで観客を発表会場となる劇場などに招待する伝統がある。「偽の拍手」を承知で行う伝統で儲けるのは家元、劇場、仕出し弁当屋だけ。習う生徒は「カネで買えるモノ」を手にするだけ。日本の伝統芸能は、エンタテイメントの本質を理解せず、「カネで買えないモノ」を後世に伝える努力をしなかった。その結果、衰退の一途を辿り、現在に至っている。

●巨万の富の持ち主が「カネで買えないモノ」を手に入れるには
 巨万の富の持ち主は、先生の力、ベースマンやドラマーの演奏支援などを得ても、結局は自分自身の頭、手、足、体を使って、「本心、本気、本音」で以下の事を実践する事が最低限度、必要となる。
  1. 1 理論書を徹底して読み込む事、
  2. 2 ピアノを徹底して弾く練習をする事
  3. 3 多くのレコード(CD、You tube)を徹底し聴き込む事
  4. 4 ジャズピアノ・トリオ(ベース、ドラム)でアンサンブル演奏を徹底して行う事
  5. 5 ジャズ独特のリズム、和音、音階を徹底して体に沁み込ませる事
  6. 6 即興演奏(アドリブ)が出来る徹底して練習する事
  7. 7 ジャズ・ライブハウス等の客の前で演奏し、成功と失敗を徹底して経験する事
  8. 8 客から本物の拍手を得られるまで何度も徹底して出演を重ねる事
  9. 9 ピアノの音が徹底して好きな事。アンサンブルの演奏音が徹底して好きな事、即興演奏をする事が徹底して好きな事、観客の拍手が徹底して好きな事である。

 上記の様な「簡単な実例」を取り上げても、「カネで買えないモノ」を手に入れる事は大変である事が分かる。しかしその「モノ」が「徹底して好き」であれば、誰でも手に入れる事が出来るであう。「好きであるコトが才能そのものである」と云う事である。「大好き」であれば、カッコ良い、クールなジャズピアノ・トリオ演奏が可能になり、「カネで買えないモノ」を手に入れる事が出来るのである(夢工学の理論)

 なお欧米社会で「カネで買えないモノ」がどの様なものであれ、それを持っている人物が「高い尊敬」を得られる背景には、巨万の富を持った人物や富裕層の人物などが「本職」の他に「カネで買えないモノ」を手に入れていると云う事実が存在するからである。

●「カネ」で買えるモノ、買えないモノの論議
 堀江貴文が大成功した全盛時代、朝日新聞の見出しに「世の中に金で買えないものなんて、あるわけがない」と彼が言ったと報道され、有名な「ホリエモン節」の一つとされた。その結果、「そういう奴は支援できない」という「反ホリエモン」の風潮が広がった。

 堀江は、例の事件から解放された後、某インタビューで「違うんですよ、あれは。僕は一言もあんなことを言ってない。あのフレーズは朝日新聞が付けたタイトルです。取材した記者がそうしたかっただけですよ。読者を反発させたかったんでしょうね」と冷静に語った(引用:APIO2013年7月号)

 バーナード・ショー(1856~1950 アイルランドの劇作家、ノーベル文学賞受賞)は、語っている。「貧乏への恐怖をあなたの人生に支配させてしまうと、その報酬として食べていく事はできる様になる。しかし生きる事はできなくなる(You are going to let the fear of poverty govern your life and your reward will be that you will eat, but you will not live.)」

●カネを幾ら払っても買えないもの
 「カネ」を幾ら払っても絶対に買えないものが世の中に数多くある。エンタテイメント行動(趣味、道楽、芸事、習い事、芸術的創造など)がその1つである。

 これを手に入れる事とは、その行動を体得し、楽しめる様になる事である。これにはカネが掛るだけでなく、自ら努力と時間を投下しないと絶対に手に入らないものだ。この場合の時間とは、1年や2年ではない。最低でも5年から最長なら20年以上掛るものだ。

出典:堀江貴文
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出典:堀江貴文
出典:George Bernard Shaw
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 「カネ」に纏わる議論は尽きない。巨万の富を持った人物は、何でも手に入れられると思われている。しかし実は「カネで買えるモノ」と「カネで買えないモノ」が何かを誰よりも正確に、具体的に、実感を持って認識している人物である。皮肉な事である。

●「カネで買えないモノ」の定義
 筆者は、巨万の富とは全く無縁の人間である。従ってカネで買えるモノと買えないモノが何かを正確に、具体的に、実感を持って認識できないし、それを語る資格もない。

 それでも筆者は前号で「カネで買えないモノ」を語る資格もないのに語り、おまけに本号でも「分かった振り」をして書いてしまった。しかし書いた以上は、何かを書かないと収まりが付かなくなった。誠に申し訳けないが、「開き直って」て「厚顔」にも「カネで買えないモノ」とは何かを抽象的、逆説的に「定義」した。読者からの厳しい加筆、否定筆、削除筆を期待する。

出典:百万ドル紙幣
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 「100万ドル紙幣を何枚、使っても、買えないモノ」とは、以下の事をする事で初めて手に入るものを云う(上記のピアノ習得と一部重複)。
  1. 1 相当の期間を掛ける事(数年から数十年)、
  2. 2 相当の労働・労苦を投下する事(毎日、毎晩)、
  3. 3 相当の工夫(アイデア)を生み出す事(優れた発想又は天才的発想)、
  4. 4 相当の費用(カネ)を投入する事(数百万円? 数千万円? 数億円? 矛盾しているがカネを掛ける必要がある)、
  5. 5 相当のレベルの「夢」を持っている事(夢=カネで買えないモノを手に入れたい強烈な情熱、恋人を想う情などの総称)
  6. 6 相当の期間、「夢」が実現にするまで「夢」を持ち続ける事(途中で投げ出さない)、
  7. 7 相当な協力・支援を、その「夢」に共感、同感、同調した人物から受ける事(一人では「夢」を叶える事は出来ないから)など(以下省略)

●筆者の「35年人生」の最初10年と今後の25年
 さて筆者は、語る資格を別として100年人生を論じた。しからば読者は「あんたは、今後35年間、何を、どうする気なのか?」と問うだろう。筆者は既に81歳なので35年間の内の10年間は過ぎている。従って10年間の実績を含めて残りの25年間ついて読者からの質問に答えねばならないと考えている。でないと「100年人生論」を話す「説得力」を欠く事になる。

 しかし筆者の「個人情報の詳細」を開示する事はご勘弁願いたい。また開示した内容によっては筆者が「自慢話」をしていると誤解される恐れもある。是非誤解しない様に願いたい。この2つの条件を前提として開示する。

●筆者の生存性(後、何年生きられるか?)
 筆者は2021年3月で81歳。過去に病気での入院歴はゼロ。直近の癌検診、糖尿病検診等で全て異常無し。災害や交通事故で死なければ、統計的には今後20年生存可能。

出典:長寿
出典:長寿 dreamstime.com
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 しかし筆者自身は、長くて後10年と覚悟している。何故なら筆者と同年齢や近接年齢で、悠々自適の生活をして、元気一杯であった諸先輩や諸同輩が次々と死んでいるからだ。

 筆者の今後の25年間についての生活の「糧」や人生の「糧」となる「カネで買えないモノ」については、紙面制約から次号としたい。

つづく

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