図書紹介
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スマホ脳
(アンデシュ・ハンセン著、久山葉子訳、(株)新潮社(新潮新書)、2021年2月20日発行、第9刷、255ページ、1,650円+税)

デニマルさん : 8月号

今回紹介する本の「スマホ脳」のスマホとは、スマートフォンの略称である。別な言い方をすれば、最新の携帯電話で「アイホン(ⅰPhone)」とか「アンドロイド系(ドコモ他、ガラ系を除く)」を総称してスマホである。このスマホは今や、インターネットを経由して世界中の情報発信基地や個人とも接続できる身近な個人用の情報端末である。ここで少し携帯電話(主に日本)の歴史を辿ってみると、1990年代後半から普及し始めて未だ30年しか経過していない。それがパソコンやインターネットの発達と呼応して、誰もがどこでも、いつでも使える便利な生活端末となった。その便利さが我々の社会や個人の生活の一部に溶け込んで便利なツールになっている。その一つの結果として「スマホ脳」があると著者は問題提起している。スマホが人間の脳に与える影響を指摘して、本書が世界的なベストセラーとなり、昨年末に日本でも出版され話題となっていた。そこで今回、本書を取り上げるのだが、何が問題なのか、その問題を解決する方法はあるのか、これから先の問題はどうか等々について本書を紐解いてみたい。スマホの便利な機能等の問題は後述するが、本書ではスマホの使用状況から述べている。「現代人は1日平均4時間、最低でも10分に1回はスマホに触れており、(中略)これが10代の若者となると、その2割は1日7時間もスマホを使っていることになるのだとか。英国の調査では、子供とティーンエイジャーで毎日平均6時間半、米国のティーンエイジャーは毎日平均9時間、インターネットに接続している。」と書いている。因みに「日本での携帯電話(含むスマホ)の普及率は、137.1%(契約数1億7307台)である。2019年のスマートフォンは83.4%となる。パソコンは69.1%で固定電話は69.0%となっている」(総務省、令和2年情報通信白書)。そして利用時間は、「2時間以上3時間未満が21.8%、1時間以上2時間未満が16.9%で、一日平均利用SNSは4.0回、LINEは10.2回、インスタグラムは68.6%が毎日」とある(2020年、MMN調査会社)。現在、世界中で多くの人々が使っているスマホである。大人にも子供にも便利な機器であるが故に、多くの人が多くの時間を仕事以外にもスマホに時間を費やしている。著者は「この10年間、スマホで人の行動変容があった」と冒頭で書いている。行動変容と云えば、新型コロナウイルスの感染拡大によるパンデミックで、人類は行動変容を必要とされた。ソーシャルディスタンスやマスク着用や三密の回避等からの感染防止を強いられている。このコロナ禍で人との接触が限られた状況下では、コミュニケーション手段としてのスマホの役割も見逃せない。ロックダウンや外出規制等で外部との情報手段は、パソコンやスマホ等の機器が必要不可欠となった。自宅待機中でのリモートワークやリモート学習としての役割を果たす一方、情報収集やゲームにも活用され、スマホに依存する時間が多くなっている。こうした状況から著者は、益々増えるスマホ依存による影響に対して、行動変容を促す指摘をしている。

スマホの便利さと問題点         ――生活習慣の行動変容――
筆者は、アンドロイド系のスマホを使用している。そこで改めて、どんな便利な機能があるか調べてみた。操作マニュアルによると、アプリケーション機能も含めると300種以上もある。未だかって使ったこともない機能ばかりである。項目を列記すると、音声入出力、バンキング機能、ヘルスケア(心拍モニター等)、睡眠支援、家電のリモート接続、サーマルカメラ等の計測機接続、GPSナビゲーション機能、指紋・顔等の生体認証機能等々と限りない。
この本で問題にしているのは便利な機能ではなく、SNSやLINEやインスタグラムやツイッター等の人とのコミュニケーション機能と、ゲーム機能を指している。便利な機能があり、楽しく夢中になって際限なく長時間使う事を指摘している。パソコンやゲーム機が流行った50年前にも同じ様な問題があった。今回のスマホとは、どう違うのかが問題である。

スマホが身体を蝕む          ――肉体的・精神的な影響――
本書では毎日スマホを操作する事で、楽しさと安心感が湧き脳内にドーパミンが分泌される。これが常習化することで、条件反射的にスマホ=安心感が脳内回路に定着する。一般的にドーパミンは人間の意欲を向上させるために必要とされるが、メールやチャットやLINE等の相手の返信を期待する方向に働くと、スマホに自分が縛られる事になる。いわゆるスマホの依存度が高まり、恰も脳がハッキングされた様な状態となる危険があると著者は指摘する。その状態を長く続けると、集中力が低下して睡眠障害に陥ってウツにまで発展する危険性がある。このスマホ脳はスマホ依存症を生む原因となる。だからか、アップル社の創業者スティイーブ・ジョブスは、自分の子どもの身近にⅰPAD(スマホ)を置かなかったとの噂があったという。もう一つ身体を蝕むものがある。スマホの画面のブルーライトが脳内のメラトニンというホルモン分泌を活性化させる。その結果、脳が興奮状態となって中々眠れずに睡眠リズムを乱して、睡眠不足を招くと指摘している。スマホを長時間使えば使う程、脳内変化が自然に起きている。本書は、この脳内変化を「スマホ脳」として警告している。

スマホ脳への対応           ――デジタル時代のアドバイス――
スマホは、現在のインターネット社会で欠く事の出来ない便利で必要な情報機器となっている。しかし、知らずに長時間使えば「スマホ脳」に陥る危険性がある。著者は、その対処法を「脳はスマホに適応するのか」に纏めている。その例として、ロンドンのタクシー運転手の話が紹介されてある。ロンドン市内の道路は、複雑多岐で蜘蛛の巣状況である。だからタクシー運転手は、2万の道路と5万か所の建物を記憶して客の要求に咄嗟に応える能力が必要だ。これを普通の人とタクシー運転士の脳内比較をすると、明らかに差があるという。記憶力から集中力や判断力が格段に高く、日頃から自分で脳を使う鍛錬がGPS等の機器に依存しない能力を高めているという。巻末には、スマホ脳を回避する方法が種々書かれてある。これからもスマホを多く使われる方は、本書を読まれて脳内を活性化して頂きたい。

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