理事長コーナー
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東京オリンピックとワクチン接種の対応で見えた日本の弱点!?

PMAJ 理事長 加藤 亨 [プロフィール] :7月号

 COVID-19のワクチンを接種してきました。5月初めに予約したのに、1か月半も待たされましたが、接種は非常にスムーズで、15分の経過観察時間も含めて、40分で全て完了しました。現場のスタッフ、医療従事者の方々の努力に、心からの感謝とエールを送ります。
 ところで、先進国で最低と言われて来た日本のワクチン接種率も、ここ1か月で急速に改善しています。(5月24日 6.23%⇒6月24日 20.21%)
 本当に日本は、決断は遅いですが、決まった後の改善は得意ですね。
 一方で、開催を1か月後に控えた現時点でも、東京オリンピックを実施すべきかどうかという点について、国民の合意が得られていないように見えます。
 この、「決断が遅い」、「合意形成が出来ない」、というところに日本の弱点が現れているように思います。それは、「ビジョンを決断できない」「ロードマップを描けない」「したがって、ステークホルダーの一丸となった合意形成が得られない」、まさに『プログラムマネジメントができていない!』、ということの現れだと私は考えています。

 6月25日にテレビ東京の「ガイアの夜明け」という番組で、日本と他国とのワクチン政策の違いについて特集をしていました。この中で印象的だったのは、各国、各都市が、明確な目的、目標を設定してワクチン接種に取り組んでいて、その結果、政府と国民や市民が一体となって進んでいる姿でした。
 ハワイでは落ち込んだ観光収入を回復させるための「経済回復計画表」を明確に示し、感染者が何人になればどこまで規制緩和をするかを明確な基準を設定し、ワクチン接種の打ち手を確保するため、薬剤師による接種などの様々な方策を取り入れ、ホノルル全市をあげて進めていました。市が「早く普通の生活に戻ろう」という方向性を明確に示し、市民とともに同じ方向に向けて進んでいるのが印象的でした。
 タイでは、国が主導し、プーケットに7月1日からマスクなしで観光客を入国させるため、プーケットのワクチン接種率7割以上を達成しようという方針を示して進めていました。その実現のため、ホテルもショッピングモール関係者全員に先行して接種を実施し、全島民に「この痛みの後に幸せがやってくる」と呼びかけ、体育館を使って一斉接種を実施していました。島民も一丸となってワクチン接種に協力していました。
 イスラエルでは、「ワクチンを打つことで国を再生させる」という目標を首相が示し、2020年12月に首相自らワクチンを打ち、「皆さんも健康のためワクチンを打ってください。」と国民に呼びかけ、その結果、現在までに人口の6割がワクチン接種を完了し6月からすべての規制が解除されています。この実現のため、2020年5月から、ワクチンの調査を開始し、ワクチン接種後のデータ提供を条件に製薬会社と優先提供の契約を結び、早い段階でワクチンの量の確保を行っていました。もちろん、この政策も、多くの国民から支持されていました。
 イギリスでは当初、「集団免疫を確保するため、多くの国民がコロナに掛かればいい。」という発言から多くの犠牲を払うことになりました。その後方針を大転換し、2020年5月に、ジョンソン首相自身が、バイオ業界に人脈のあるベンチャーキャピタリストに対して、「人々が死ぬのを止めてくれ」という明確な依頼を行い、その結果、現時点で国民の6割以上が2回目のワクチン接種を完了し、5月10日に感染による死者の報告件数がゼロとなりました。実施に当たっても、5歳刻みにいつ接種をいつ完了するかを明確に定め、それを計画通りに進めて、国民の安心感を醸成する作戦も同時に進めています。また、打ち手を確保するため昨年10月に法律を改訂して、研修を受ければ一般の人でも接種ができるよう法律を改正し、今年1月からボランティアへの研修を開始し、ワクチン接種に遅れが出ないように備えていました。

 もちろん、それぞれの国や都市によって人口も違えば、システム化の状況も違います。
 しかし、もし昨年、東京オリンピックを1年延期せざるを得なくなったとき、「安心安全な形でオリンピック実施する」というお題目だけでなく、例えば、「その実現のため、2021年6月末までに全国民の7割にワクチン接種を完了させる」、というビジョンを決定し、その実現のため、ワクチンの量的確保、接種できる打ち手の確保、会場の確保などの課題を特定し、その対応として必要な法改正とシステム整備、優先順位の基準と実施計画を「ロードマップとして示し」、「この計画を実現するために一丸となって頑張りましょう」、と国民に論理的に説明し、協力依頼をしていたら、この段階になって政府のおひざ元の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長から「普通であれば開催しない」というような不協和音が出る事態は避けられたのではないでしょうか。

 「パンデミックの後には、それまでに起きていた変化が劇的に加速する」ということが歴史の教訓に示されています。COVID-19からの復興が見え始めている今、日本の弱点を克服し、復興のビジョンを決定し、そこに至るロードマップを明確に説明し、国民の合意のとれた復興計画を実施していくことが出来なければ、ニューノーマルの世界の劇的に変化する時代に、日本はプレゼンスを示せないのではないかと私は危惧しています。
 PMAJが今期の主要課題としてプログラムマネジメントを設定しているのは、まさに日本の弱点である、「ビジョンを決断できない」「ロードマップを描けない」「ステークホルダーの一丸となった合意形成を得られない」という点を克服するために、『プログラムマネジメントを実践する』ことが重要だと考えているからです。
 おそらく100年に一度というような、サステナブルリカバリーが本格化する激動の時代に向けて、ビジョンが決断でき、ロードマップを明確に描けて、ステークホルダーの一丸となった合意形成を得て、力強い持続可能な復興を遂げる日本であるため、PMAJは最大限の貢献をして行きたいと心から願っています。

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