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グローバルコミュニケーション力

井上 多恵子 [プロフィール] :7月号

 6月25日に開催された日本プロジェクトマネジメント協会の第268回例会で、「オンラインでのグローバルコミュニケーションを上手く進めるための秘訣」と題した講演をした。その際頂いたご質問について講演の中でも回答したが、皆さんの関心が高い点として、改めて説明したい。
 ご質問の一点目は、「英語が苦手なことについて相手にどう配慮してもらったらいいか」というものだ。これについては、①ご自身の英語力を適切に評価する ②相手に分かりやすい伝え方をする ③伝える内容を磨くの3点をご紹介したい。
 まず英語力について。ご自身の英語力に、もっと自信を持とう。ドラマ「ドラゴン桜」(TBSで放映)の中で、英語学習を取り上げていた回があり、こんな描写をしていた。日本人は英語力について聞かれると、「上手に話せません」と英語で答える。それに対し、外国人は単語程度しか知らなかったとしても、「自分は日本語が上手だ。すし、アニメ、、」と、自信たっぷりに答える。多少の誇張はあるにせよ、英語に対する苦手意識を持っている日本人は実際にいる。小さな声でぼそぼそと話し聞き取りづらい方々を私も何名も見てきた。しかし、中学・高校で英語を学んできた大人は、最低限のことは話せる。だから、間違いを恐れず大きな声ではきはき話そう。外資系企業での勤務経験がある私の同僚は、文法的には正しくない表現は交じっているが、はきはきと聞き取りやすい話し方をする。相手も彼女の言うことを理解しようと努め、講演の中でも紹介したフレーズ”If I understand you correctly”(もし、あなたが言ったことを私が正しく理解したなら)などを使って、理解が合っているか確認している。
 次に、分かりやすい伝え方について見てみよう。これは、短文化と構造化によって達成できる。頭の中を整理しないまま、思いつきで複数の文を繋げて話すと、日本語でも分かりづらい。母国語で話していてもわかりづらいのに、発音や文法も怪しい英語でこれをやると、聞き手は益々わからなくなってしまう。要点が伝わるようにするためにお薦めしたいのが、短文と構造化だ。グローバルコミュニケーションで望ましいとされている最低単位の組み合わせは、要点+根拠。例えば、誰かの意見に賛成する場合、最低限まず言わないといけないのは、I agree.(私は同意する)だ。この短い文を言って、誤解されることはまず無い。I strongly agree.(強く同意する)のように副詞を入れることで強弱を伝えることができるが、副詞を思いつかない場合は、まず、同意していることを伝えよう。Maybe(もしかしたら)を多用する人がいるが、これも、避けたい。単に自信が無い場合や、無意識のうちに使っている人もいるようだが、立場を曖昧にしてしまう。だから、maybeは使わず、言い切る方が良い。そして立場をはっきりさせた後、根拠を述べる。例えばオリンピックを開催しないということが主張であれば、Holding it could increase the number of COVID19 infected patients.(コロナ感染による患者数を増やすことに繋がる可能性がある)といったような文を繋げる。最初に背景説明を延々と述べる人がいるが、それよりも、要点+根拠の方がわかりやすい。高度な文章、かっこいい文章は英語が上達していった時のお楽しみにとっておき、まずは、簡単だけれど確実に伝わる文で、意思表示をすることが望ましい。
 そして、三点目の「伝える内容を磨く」だ。ある会社でグローバルな次世代リーダー研修に参加した人が、こんな話を教えてくれた。グループで会社への提案を作成するにあたり、他の参加者が活発に意見を交わし合うのに最初はついていけず戸惑っていた。しかし、落ち着いてよく話を聞くと、内容的にはたいしたことを言っていないということがだんだんわかってきた。だから思い切って、たどたどしいながらも、自分の案を話したという。そしたら、彼が発言する度に、周りが熱心に耳を傾け始めたという。そして最終的には、彼の提案した内容が発表の骨子になったという。その過程で、彼はそのグル-プのメンバーからの尊敬を勝ち取っていった。聞くに値する内容をあなたが持っているか、あなたに理解してもらうことは価値があると相手が確信を得れば、あなたとコミュニケーションができるよう、相手が配慮をするようになる。そのためにも、言語に左右されない内容を磨く努力は欠かせない。
 もう一つのご質問は、「海外の人と話す際禁句があるか?」だった。国によって禁句や避けるべきジェスチャーなどはある。その国の人達と最近接したことがある人に、事前に確認しておくとよい。インターネットで信頼できるサイトを見つけて情報を得ることもお薦めだ。その上で、書籍「ファクトフルネス」にも記載があったように、「アメリカ人は○○だ」など一般化しすぎることのリスクも認識しておきたい。最終的には目の前にいる個人にあわせて伝え方を工夫することをお薦めしたい。

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