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自分を褒める力

井上 多恵子 [プロフィール] :6月号

 「井上さん、あなたは誰かの成長を願って、粘り強く物事をやり遂げることができる人です!」これは、昨日参加したワークショップで私が宣言した内容の一部だ。自分自身に呼びかける形で「○○さん、自分自身を褒める内容」をまず言った後、その理由と未来の自分自身への期待を一人ずつオンライン上で全員の前で発表した。そして、その発表に対して、聞き手一人ずつからチャットで自分を褒める一言メッセージをもらった。
 参加者の共通項は、同じ研修会社の研修を修了したということだけで、ほとんどの人が初対面だった。そのことが、人前で自分を褒めるという慣れないことに挑戦するハードルを下げてくれたのかもしれない。職場の同僚が聴き手だったら、「井上さん、あんなこと言っているけれど、実際は違うよね」と思われたらどうしようという感情が働いて、正直な気持ちを言えなかったかもしれない。今回はそのリスクが無かったので、今一番気になっていて自分がコントロールできるけれど正直コントロールできる自信が無いことをテーマに選ぶことができた。選んだテーマは本の執筆で、想いは本の執筆を完遂させたいということ。「誰かの成長を願って粘り強く物事をやり遂げることができる人、なぜなら以前、投げ出したくなることがあっても、3冊共著本を書き上げたから。だからこそ、きっと今回も大丈夫」といった内容でメッセージを構築した。
 今回効果的だったと思うのは、全員に対して発表する際に、「私は」を主語にせず、「井上さん」と自分に呼びかける形を取るよう指示されたこと。これまで自己PRの世界をずっと探求してきたこともあり、「私は○○という実績がある。私には○○という特性もある。だから、私は○○ができる」という形で自己PRをすることは、私は得意だ。そんな私にとって、自分で自分を第三者的に褒めるというやり方は始めての体験で、とても新鮮だった。話しながら、幽体離脱したような自分がいて、第三者として自分に語り掛けている感覚になった。自分から離れて自分のことを見てみる。そうすることで、自分を客観視する手助けにもなりそうだ。
 他の人の発表を聞いていた時も、発表者のことをより応援したいという気持ちになった。なぜだろうと考えて気づいた。一つは、発表者を褒める一言メッセージを書くよう指示されていたので、「良い点を見つけよう」という意識で聞いていたこと。もう一つは、自己PRに対して人が潜在的に持っている「あの人、私がと言い過ぎじゃない」というネガティブな感情が生まれる余地が無かったのではないかという点。もし二つ目の点もあり得るとしたならば、一般的に自己PRに苦手意識を持ち、他人のPRを聞くのも出過ぎた杭として良しとしない傾向がある日本人にとっては、自分を第三者的に褒めるというやり方は効果的と言えるのではないか。
 10名強の聞き手から贈られた褒め言葉の数々。他の人へのメッセージと区別ができるよう、冒頭に褒める相手の名前を書くというルールになっていたこともあり、全てのメッセージに自分の名前が入っている。自分の名前入りで浴びる応援のシャワーは、自分自身を応援した喜びと合わせて、私の心に響いた。そのおかげで昨日は一日中元気な気持ちを維持でき、夜になっても、うたた寝することなく本の執筆に専念することができた。夕食後はエネルギーレベルが下がりうたた寝をしがちな私が、だ。もらったメッセージを今読み返してみても、エネルギーがチャージされるのを感じる。「いのうえさん、意思の強い方ですね!」そうか、私ってうたた寝をするし意思が弱いと思っていたけど、強い一面もあるんだ。「その粘り強さで、次々と目標を達成できることを応援したくなりました」知らない人にも応援してもらえるって、なんて素敵!「ねばりつよさが垣間見れました。見習います!」おー、見習われる対象になったのだとしたら私、すごくない?
 私以外の方々に向けて書かれた応援メッセージも改めて読んでみて思った。皆さん、褒める際の言葉の使い方が上手い!終了した研修を通じて褒める力が磨かれたのだろうし、土曜日の午前中に2時間費やして修了生向けイベントに参加しようという意欲が高い人達だけのことはある。数々の心に響いた表現の中で、どこかのタイミングで使ってみたいと特に思ったものは、「未来へのエネルギーを感じた」だ。ワクワク感と希望が伝わってくる。
 副産物的に気づいたことがある。応援メッセージは、その人の心に響いた点なので、その人とコミュニケーションをする際に含めることができる効果的だということ。例えば、話が具体的で状況が目に浮かぶ、結論への流れがシンプル、熱意があり表情も明るい、エビデンスがあり説得力を感じるなど、その人を魅了する話し方のヒントになる。
 自分を第三者的に応援し他者も応援する力を引き続き磨いていきたい。

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