今月のひとこと
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 席を譲る 

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :7月号

 どうやらオリンピック・パラリンピックは開催が濃厚になってきて無観客にするかどうかの議論が続いています。ウイルスも心配ですが、暑さの備えは大丈夫でしょうか。選手の皆さんはそれなりの対策を講じていると思いますが、スタッフはどうなのでしょうか。炎天下でもマスクを外せないというようなことになるのでしょうか。想像するだけで息苦しくなってしまいます。

 通勤電車に人が戻ってきました。余程の深夜にならなければ、優先席を含め座席は全て埋まっています。マタニティマークやヘルプマークを付けた人が前に立っても、座席を譲ろうとしない人が多い状態は相変わらずです。
 優先席の出始めは「シルバーシート」と呼ばれていました。席を譲られた年配者が「年寄扱いするな」と怒るというケースが相次ぎ、席を譲ることをためらう人が増えたという解説を読んだことがあります。マタニティマークやヘルプマークは「席を譲ってください」の信号ですから、席を譲ることをためらう必要はないはずですが譲る人が少ないのはなぜでしょうか。マークの認知度が低いという説明を聞いたことがありますが、本当にそうなのでしょうか。
 かつて、イギリスに1週間ほど旅行したことがあります。郊外の寄宿先からロンドン市内の観光名所まで電車で出かけていました。通勤時間帯に重なり混んでいましたが、必ずといっていいほど座席を譲られました。譲っていただいた方にケチをつけるわけではないのですが、親切で譲ったというのではなく義務を果たしたといった感じを受けました。イギリスは紳士の国です。ひょっとすると彼らは幼い頃から「年配者には席を譲る」という躾(しつけ)を受けていたのではないでしょうか。もちろん、イギリスにも優先席があるので、全ての国民が「席を譲る」行為をしているわけではないのでしょうが、そう思えてなりません。
 日本の親はわが子に「年配者には席を譲る」という躾をしません。そう断定はできないかもしれませんが、そのような躾をしている場面に出会ったことがありません。逆に駄々をこねる子供を席に座らせる場面を見かけることがよくあります。周囲の大人たちも、子供が静かになったことに満足するだけで、躾をしない親を非難しません。人との争いに繋がるような行動(駄々をこねて騒ぐ)はやめさせるが、争いに繋がらなければ何をやってもいいと親も周囲の大人も考えているのでしょうか。
 親も周囲の大人たちから年配者や妊婦に関心を払わないという姿を見せつけられ続けたのであれば、マタニティマークやヘルプマークを見ても席を譲らないのは当たり前です。
 我が国のあるべき将来の姿(to be)として、年配者や妊婦に座席を譲るという行動が当たり前に行われる社会の実現を願うものですが、小手先の親切推進運動などでは変わるはずもありません。イギリスの紳士が見せたように、日本でも座席を譲ることが「人として当たり前の行動」あるいは「マナー」といった形で定着させる方策はないものでしょうか。
以上

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