グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第155回)
ウクライナ・ロシア オンラインサーキット

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :7月号

 開発されて40年強の都下の住宅地に住んでいるが、近所のお宅の住人は、この元企業戦士が多い住宅地にめずらしい若夫婦で、5月に第二子が生まれた。最近この子の泣き声が聞こえるようになり、またお祖母ちゃんがお孫さんに会いに来られた。コロナ禍にあっても世の中が動きだした気配をこの静かな場所でも感じる。
 
 コロナ禍で海外の関係先にも種々の反応が出ていることを感じる。昨年秋から今年の6月中旬までに6本の海外向けオンラインセミナーと2本の国際大会参加を行ったが、合計1,200名に達した受講者の国は過酷なコロナ禍にある国がほとんどであるが、受講態度は真剣そのもので、いかにこの深刻な社会危機・経済危機を乗り越えるか、の決意が各人に表れている。
 
 海外の大学院は、多国籍学生に頼る経営大学院(ビジネススクール)などで経済危機と国境封鎖で新入学生が激減し、経営危機に陥り、PM課程も開店休業に近いようだ。筆者が教員筆頭を務め、昨年はオンライン授業を月一程度実施していたセネガルの大学院大学では、40歳代の学長代行が昨年12月に急死し、大学院の維持はできなくなり、無期限休止に追い込まれている。筆者が関係した海外の大学院では、2校が国の命令で他大学に統合され、一校が活動停止(2回目)、と大学は企業と同じようにゴーイング・コンサーンである、という概念は最早通用しない。
 
 リスク予知を行い、ポートフォリオ管理を行っている結果、筆者に海外向けの良い活動機会はしっかり残っている。5月はウクライナ、今月はロシアで、共に両国の全域にむけて発信を行った。
 
 5月15日土曜日 日本時間16:00~21:00 にウクライナ・プロジェクトマネジメント協会主催の年次オンライン大会PM Kiev 2021が開催された。世界で唯一、この大会はほぼ学会で、ウクライナ全域とアゼルバイジャン、カザフスタンのプロジェクト科学研究者50名が参加した。筆者は、冒頭、通訳を入れて30分の基調講演 Phronetic Project Management - Revisit roots of P2Mを実施した。ウクライナでは種々のトピックスで講演や授業をやっており、今年は、混迷の時代にあって、フロネシス(実践知)のPMが必要、の趣旨で話をした。フロネシス(Phronesis)は、オリジナルはアリストテレスの教義の一つで、ソフィア(科学的知識)は社会発展の基礎で重要であるが、フロネシスは、社会の価値を真善美の価値基準に沿って構築するには、科学的知識に加えて実践知も必要であると説いている。日本では、PMAJの前身であるJPMFの名誉会長を4年間お願いした野中郁次郎先生が2006年に唱えられている。また、2017年のIPMA世界大会でクロージング基調講演を行ったベルリン先端科技大の教授でIPMAの副会長である Professor Yvonne Schoperが、クロージング結語で、“これからはフロネシスのPMの時代だ”と宣言された。
 
 スライドのロシア語訳の検証と通訳は、かつてウクライナとロシアを巡業してP2Mを教え歩いた際の相棒であるDr. Olena Sharavaraが務めてくれた。PMAJ三浦さんが世界に発信するNin2の大変熱心なサポーターであり、筆者以上にP2Mに詳しく、セミナー巡業の終わりの頃になり連戦で疲れると、お願いねというと、田中1、Olena4くらいで講義をやってくれた。大会ホストのキエフ国立建設建築大学は世界のPM科学のハブ校の一つであるが、今進めている研究は、世界が変わったなかで、ドイツの大学と組んでのDXの応用、PMスタンダードの再度の棚卸研究とプログラムにおけるStrategic trustなどだそうだ。

5月・6月の発信でカバーした地域
5月・6月の発信でカバーした地域
ロシアセミナー 田中側
ロシアセミナー 田中側

 先月のウクライナPM大会での講演に続いて、今月はロシア日本センターの、ロシア連邦ヨーロッパ地区の3つの拠点が各々主催する、同一内容の3.5時間のオンラインセミナーを自宅から(3回)実施また。3.5時間にはロシア側で用意した通訳の時間が入っているので、田中のネット講義時間と質問回答時間は80分くらいであった。ロシア語への通訳は、スキルが非常に高い通訳が行っても日本語の1.3倍程度かかるので要注意である。
 
 ロシア日本センターは、日本の外務省(実際は在ロシア連邦日本大使館)とロシア大統領府が共同で運営するロシアの若いビジネスマン向けのMBAプログラム相当の高度人材育成プログラムで、言語は日本語(講師側)とロシア語で運営されている。田中が委託された科目は、「中小企業向けプロジェクト開発とプロジェクトマネジメント」と題し、プロジェクトを組成する方法とプロジェクトマネジメントをネット90分で教えるという難解な課題であった。この案件は、ロシアPM協会 SOVNET のAlexandr Tovb会長が主催者と筆者を繋いでくれて実現した。
 
 参加者は、シベリアから西のロシア全域の都市から3か所合計で350名くらいであったようだ。結果として、
 
  1. 1) ロシア語の教材スライド50枚とスクリプト(スピーチ原稿)を当方で英語からGoogle翻訳で作成して提出したが、ロシア語は田中のロシアでの元教授仲間にリビューをして貰い、完璧なものができた(通訳と日本センタースタッフ)、ここでセミナーは6割方成功である。
  2. 2) 講義は、通訳の時間を入れて、+1分、+1分、-1分とほぼオンタイムで終えることができ、研修のタイムマネジメントの正確さで主催者に驚きを与えた。
  3. 3) 質疑応答(通訳時間を入れて各回30分)では、三回合計で23問の質問がでたので、一問平均1分30秒くらいで回答したことになる。
 
 このセミナーの特徴は、90分(1スクール時間)で、プロジェクト経験が概して浅い中小企業の若手ビジネスマンにプロジェクト開発(プロジェクトの実施決定前の段階)とプロジェクトマネジメントの両方に的を絞って教える、受講者は大学卒レベルであるが、業種は多岐にわたる、ということで、一般的なPMセミナーのやり方はそのままでは使えないので、構成を一から行い、教材はほとんど新規に作った。
 
 受講者の質問は、極めてレベルが高い質問から、はっとするような、通常のPM研修では出てこないような質問まで種々であった。海外向けPMセミナーではPMに関する質問がでてくると考えると完全に足をすくわれるので、これも要注意。受講者の業界が多ければ多いほど、PMのプロには厳しい問題がでる傾向がある。
 
 オンラインセミナーの接続環境は、主催者とはZOOMオンラインセミナー、受講者にはZOOM Webinarで行ったが、全く問題なしで、国内でオンライン会議をやっているのと同じグレードであった。
 
 ロシアセミナーの筆者の影の軍師は、オーストラリアの名門RMIT大学のPM専攻のPh.D.で現役を引退した先生(女性)であるが、この人は、筆者が2013年に初めて会った際にモスクワの州立大学の戦略PMO長(兼教授)であり、完璧にP2Mプログラムマネジメントを応用した大学の戦略を作っていたことに大変感銘を受け、以後、大学で一緒に教えたり、一緒にセミナーをやったりと、種々コラボをした。
 
 海外でP2Mを含めてPMのセミナーを行う際には、当該国のプロジェクトマネジメント協会の利害と反しないこと(できれば仁義を切ること)、当該国に親身にサポートしてくれる人を有すること、が円滑に案件を進めるポイントである。筆者については、この二つの国にTeam Tanakaを有している強みがある。
 
 今年はロシアシリーズがまだ続き、9月21日のIPMAサンクトペテルブルク世界大会の開会式でSOVNET親戚代表でVIPスピーチを行う使命を受けている。
 

現在のPMは錬金術がごとし Dr. Gulnara Sharavora作

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