例会部会
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【第266回例会 報告】

日本ユニシス株式会社 生越 直人 : 6月号

【データ】
開催日時: 2021年4月23日(金) 19:00~20:30
テーマ: 探査機「はやぶさ2」開発での荒療治 ~現場の判断、経営の判断~
講師: 山浦 雄一 氏
山浦技術経営士事務所 代表
~はじめに~
 今回の例会では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)にて約40年、日本の宇宙開発・利用の黎明期・転換期の中で、失敗と成功、基盤構築と発展を経験されてきました山浦氏より、「はやぶさ2」プロジェクトについてご講演いただきました。
 山浦氏にご講演いただくことになりましたきっかけは、PMAJマイスターであられる長谷川氏より、山浦氏の著書「現場の判断、経営の決断 宇宙開発に見るリスク対応」をご紹介いただいたことでした。ご紹介の中で以下のキーワードをいただきました。
  1. - 「未踏への挑戦」と「困難の大きさ」
  2. - 「絶望的な失敗」とそれを乗り越える「再出発への挑戦」
  3. - 困難に挑み苦難を乗り越えた「チーム一丸」の活動
  4. - 現場の「判断」、経営の「決断」とリーダーシップ

 スペースシャトルやロケット等のニュースや映画では、打ち上げから目的地への到着、そして帰還に関する内容をよく見ます。しかし、山浦氏の著書では、打ち上げよりも前のプロジェクト立ち上げ段階からの内容が含まれており、特に経営者の視点の部分に興味を持ちました。そこで、皆様に例会にてご紹介したいと思い、山浦氏にお願いしましたところ、ご快諾をいただけました。

 今回の例会では、山浦氏の著書の中から「はやぶさ2」を中心としてJAXAのプロジェクトの取り組みについて、具体的な内容をご紹介いただきました。

~講演概要~
① 基本事項
 小惑星リュウグウのサンプルリターンを成功させた探査機「はやぶさ2」。

 「はやぶさ2」の目的
  1. - 技術(工学)
    JAXAは初代「はやぶさ」で日本独自の宇宙探査技術に挑戦し、世界初の小惑星サンプルリターンを実現した。
    この実績を踏まえ、より確実に宇宙探査を行う技術を確立する。
    また、宇宙探査を進化させる新しい技術を獲得する。
  2. - 科学(理学)
    惑星が生まれる前の太陽系天体には、地球、海水、生命を作った原材料物質や水が存在していた。
    原始の状態を今も残す「C型小惑星」のサンプルと観測データから、太陽系の起源・進化や、生命の原材料物質を解明する。

② プロジェクト開始までの苦難と前進
 「はやぶさ2」は、2007年の経営審査(合格)を経てプリプロジェクトが始まったが、政策的優先度の高いプリプロジェクト(ライバル)がひしめき、プロジェクト昇格へのハードルが多かった。プロジェクト昇格に向けて「はやぶさ2」に以下の重要課題が設定された。
  1. - 「はやぶさ2」の価値増大(「はやぶさ」との違いの明確化)
     → 価値を高めた代表例:衝突装置(人工クレーター生成)
  2. - 経費削減
  3. - 信頼性向上(「はやぶさ」トラブルの再発防止)

③ 開発段階での苦闘と荒療治
 2011年5月に開始された開発段階では、科学界など身内からの批判、鬼門の技術、不十分な体制など「5つの苦難」が重く、「探査機の打ち上げ期限(2014年11月30日~12月9日)に間に合わない」ことさえ危惧された。

  1. 「はやぶさ2」開発段階:5つの苦難
  2. (1) 打ち上げ期限(天体運航の制約)⇒ 打ち上げ可能期間は2014年の10日間のみ
  3. (2) 科学界からの「やる意義が不明」という批判(本質的な問題提起)
  4. (3) 「はやぶさ」の設計を踏襲する技術制約下での、新規開発と信頼性向上の両立
  5. (4) 事業仕分け時代の政府の厳しい予算査定⇒ プロジェクト初期の資金不足
  6. (5) 上記(1)~(4)の全苦難を乗り越える実施体制が不十分(経験・専門性・数)

  1. 「はやぶさ2」開発段階の措置
  2. - 科学的意義を高める(「はやぶさ2」を批判していた学会長を主要メンバーに招請)
  3. - 実施体制を変革する(ジャパンの「チーム一丸」を実現する)
    (ご講演では、詳細なお話を伺いましたが、レポートでは省略させていただきます)

  1. 「はやぶさ2」開発:達成の鍵
  2. - 経営の努力
     皆が支持・協力する環境の構築(組織間の壁の破壊、変革への賛同者の拡大)
     あるべき実施体制の構築(大胆な人事異動による体制強化・変革の実施)
  3. - 現場の力
     体制変革後の、プロジェクトチーム内および関係者間の信頼関係の強化
     成功への「使命感」、不屈の意志

④ 運用段階での苦難と克服
 タッチダウン1回目:事前訓練で想定済みの事態に対応
  1. - 降下中に「はやぶさ2」の位置情報の誤りに気付いた
  2. - 5時間あれば是正できる、2倍の降下速度で運用可能、と判断した
  3. - これらのトラブルは事前に想定して訓練済み(より厳しい訓練さえ行っていた)

 タッチダウン2回目:失敗リスクと挑戦の狭間での攻防
  1. - リスクが一層高い2回目のタッチダウン実施の可否が大問題であった
  2. - 経営者が実施に疑問を呈した
  3. - プロジェクト現場は、確実に実施できることを検証した
    (経営者が納得できる論理的な説明であった)
  4. - 経営者が、タッチダウン2回目の実施の「意義」と「判断根拠」を明確な発表文により公表した

 「はやぶさ2」運用:苦難克服の鍵
  1. - 周到な準備・訓練・検証(シミュレーション)
  2. - 「ジャパンチーム」内の役割分担、専門能力発揮(総合力)
  3. - タッチダウン2回目の攻防(経営vs現場)と成功への執念
  4. - 卓越した記者対応(説明責任を果たす真摯な姿勢)

⑤ 結び(宇宙探査の意義)
 宇宙探査の「意義」は何なのか
  1. - 科学の進化(発見、解明)
  2. - イノベーション創出、産業・技術の発展
  3. - 若者の啓発、人材育成(STEM教育)
  4. - 人類の共同活動(活動領域の拡大、小天体衝突への備え)
  5. - 国家の価値観や総合的国力の、国際社会への顕示(ソフトパワー)

~まとめ~
 今回の例会では、Webinar(有料)としては大変多くの方にご参加いただきました。
 また、講演後のネットによる懇親会にも多くの方にご参加いただき、直接山浦氏と会話をすることができ、大変有意義な時間を過ごすことができたと感じました。

 紙面の関係で、講演のかなりの部分を省略してしまいましたが、「ジャーナルPMAJライブラリ」に講演資料がございますので、是非ご覧になってください。なお、講演資料を入手するためには、「ユーザID」と「パスワード」が必要になります。
 また、山浦氏の著書「現場の判断、経営の決断 宇宙開発に見るリスク対応」(日本経済新聞出版)に、詳細な内容が記述されていますので、ご関心のある方は是非ご購入ください。

 最後になりましたが、ご講演いただきました山浦氏には、大変お忙しい中、PMAJ 例会部会にご協力いただきましたこと、心より感謝申し上げます。

 我々と共に部会運営メンバーとなるKP(キーパーソン)を募集しています。参加ご希望の方は、日本プロジェクトマネジメント協会までご連絡下さい。
以上

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