PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (128) (事例 民営化事業)

向後 忠明 [プロフィール] :6月号

 前月号ではデング熱で入院したところまで話をしました。
 入院中でも頭から仕事のことが離れず、ゆっくり休むこともできず、会社からくる決済や報告等の対応にかかりきりでした。

 それでも点滴などにより、二週間ほどすると体も楽になりやっと退院することになりました。
 すぐに会社に戻り仕事にとりかかろうと思い、懲戒処分コミティーの開催を考えCEO の事務所に行ったところ、なんと!CEOもデング熱にかかり、同じ病院に入院していることがわかりました。
 びっくりして病院に行き今後のことを話しましたが、やはり二週間以上の入院が必要ということで、「CAOにアドミ関係をすべて任せる」とのことでした。
 そこで初期の予定通り不正問題にとりかかることにしました。まずは入院中におけるCIAの調査報告書を見ることにしました。

 この報告書によると最も悪質で問題だったのは背任/横領であり、それも部長クラスに多く、特に調達、ファシリティーマネジメント部(社内の電気通信以外の備品や器材調達)、そして建設本部の建設業者との結託などがありました。
 残業時間についてはシステム運用部門に多く見られ、200時間を超える残業の申告もありました。
 その他、警備部門にテロリストへの協力と思われるものもあり、CIAには慎重な調査をするようと注意を促しました。
 業務放棄関連については、地方局や郵便部門に多く、設備メンテを理由に行先不明や郵便については遅配や未送付のクレームが多く発生しているとの報告もありました。
 その他細かいことは数知れず日本では全く考えられないことが毎日起きているようであり、この改革は一朝一石ではすむようなものでないと考えました。スリランカ人の気質としては仲間内のことは余りしゃべらないし、ましてや率先して報告してくるような人達ではないです。よって、この分野の仕事は従業員からの報告は来ることはないと思っていました。
 このような経緯から第三者のコミティーを作りCIAといった秘密のクルーを作りました。いろいろなことが報告されようになったのもこのためと思い、早速第一回のコミティーを開くことにしました。

 その他のルートとして、空手部員との懇親を通じて、上記に示すような不正問題も聞くことができ、社内には確実に多くの問題もあることを確認できました。
 このようなことから、懲戒処分コミティーといったプロジェクトを立ち上げたことは正解であったと思いました。

 この労働問題も不正問題もCAOのプロジェクト的発想の通常業務においての「問題発見とその解決」といった思考からの考え方であり、あらゆる分野でもこのような思考は応用可能であることが分かりました。

 プロジェクトは要件が決まってない本件のような内容の事柄でもあたり前のことと考えず固定概念を捨てて、あらゆる選択肢をもって物事や事象を認知し、絶えず知性を働かせ行動するといったことが大事だということです。
 このような事象はどのような業種、業界でも発生することであり、プロジェクトマネジャ―を志す人だけではなく経営者にも必要な思考方法と考えます。

 さて、話は少しずれましたが、CIAの報告に従ってコミティーを開き、今後について弁護士の意見を聞きながらその対応について話をしました。
 まずは調達、ファシリティーマネジメントの各部については処分を下す前に証拠集めが必要であり、CIAにはより詳細な証拠を見つけるように指示しました。
 その結果、業者との癒着を示す内容のメールや電話、そして部下達からのヒアリングで明確になり、調達部長の懲戒解雇を行い、新しい部長を任命しました。
 懲戒解雇は、旧公務員であった彼らにとっては懲戒免職であり、このような処分は初めてのことでSLT社内に大きな影響を与えました。
 もう一方のファシリティーマネジメント部長については不正を行った金額もそれほどでなかったが停職処分として会社出仕の制限を与えました。
 この原因はオフィス環境にも問題があり、課長及び部長以上は個室を持ち秘書もつけていましたが、密室の中で外からは何をしているのかよくわからないことも一つの要因であったと思われます。
 オフィス環境も劣悪でかつ非効率であることを考え、これをきっかけに順次オフィスのリノベーションを行うことにし、個室は部長以上でそれもガラス張りとしそれ以外はオープンスペースとするようにしました。
 この結果、職員の目を気にしてか、または意識も変わったのか不明であるが、不正は少なくなりました。

 一般職員の業務放棄や不効率な業務執行態度は変わらず、例えば郵便配達員のロッカーチェックをしたら多くの未配達の郵便物が隠匿されていたり、途中でどこかに捨てたりして行方不明になったりしていました。過剰残業については200時間以上が相変わらずであり、その数も多く、これらについては各部の責任者の監督不行き届きということで厳重注意をしました。
 その後も週に一回の報告を義務付けるとともに業務改善の提案とその計画と実行を求め、一か月ごとにその進捗をCAOに提出し、全社幹部会議(本社、支社、局の部、課及び局長以上の幹部社員と役員との合同会議)にて報告するように義務付けました。
 その他、遅刻や職員食堂での始業時間後の朝食そして就業時間中の居眠り等々職員としてあるまじき行為であり、探せば切りがなく、彼らに対する意識改革を何とかしなければならないと思いました。
 遅刻対策はIT部門に指認証システムを構築させ、入社時間にすべての職員に時間内での指紋による確認をさせたり、就業時間内の行動についてもCAO 自身が社内循環を定期的に行ったりしましたが焼け石に水でした。
 そのためこれまで特に規定していなかった社内就業規則を制定することにし、総務部にその指示を出しました。
 いまさら社内就業規則と思われるがこれまでなかったことが不思議であり、公務員規定では民営化前にはあったと思われるが、以降はほったらかしになっていたことがわかり、その分野のコンサルタントを雇い総務部の責任で早急に作成することにしました。
 特に社内就業規則に示されるルールや規則を守らないような行動を取った場合、それなりのアクションを取る規定も入れるように指示しました。
 この社内就業規則について一部の組合が反対しましたが、すでに空手での交流でほとんどの組合とは良い関係になっていたのであまり大きな問題となりませんでした。

 このように従業員の不正問題に対しては厳しい処置を行いましたが、組合との関係が以前のようなものではなくなっていたので意外とうまく進めることができました。

 しかし、これまでの職員の不正問題に対する会社の厳しい処分(調達部長の懲戒解雇やファシリティーマネジメント部長の停職処分)、そして従業員に対する社内就業規則による各種処分が原因かどうか不明であるが、以下のような事件が発生した。

 スリランカは以前にも話をしましたがLTTE といったゲリラと政府軍が内戦を起こしていて、このころは北部戦線で政府側は劣勢になっていて、多くの負傷者や脱走兵が出てきてかなり苦戦していることでした。このような情報は日本大使館との定例会議で仕入れることができました。
 そのため、当社(SLT)としてもこの近くの電話局の職員がどうなっているか心配し、休みの日も電話で確認したりしていました。

 その電話の後に今度は本社職員から電話があり、「人事本部長が自宅近くで銃撃された」といった報告が入りました。
 びっくりして早速入院した病院に行き安否の確認をしましたが、重症であったが死亡することなく救急治療を受けていました。
 運転手も撃たれたようでよく見るとプラスチックの船形の容器に寝かされ治療を受けていました。まるで戦場での治療のようで本人は血だらけでその中に寝かされていました。
 運転手は意識があったので状況を聞くことができました。
 それによると、会社から自動車で帰宅の途中、自宅近くの道路の車の前に障害物があったので自動車を止めた時、いきなりボンネットに人が乗ってきて、拳銃を本部長に何発か打ってきたとのことでした。
 運転手はその流れ弾に当たったとのことでした。

 この事件の前にはファシリティーマネジメント部長の自宅の屋根に手りゅう弾が投げ込まれたこともあり、この時は幸い家族も外出していて大きな事件になりませんでした。
 しかし、このように身近なSLTの社員周辺 で爆弾騒ぎや銃撃事件が発生することから何らかの手を打たなければならなくなりました。
 このことは会社としても見逃すことができないので、徹底的に本件究明することで市、警察との協力と警察を退職した警察トップ経験者と北部戦線退役准将をCAOのアドバイザーとして雇うことにしました。
 事件の原因は警察の調査でも無理であったが、SLT内部の人間が絡んでいる様子もあり徹底的に本件究明する態度を示す意味で、懸賞金を出すことお考え、その旨を職員に回覧、周知しました。
 警察の調査ではこのようなことを実行する犯人は軍の脱走兵がアンダーグランドのギャングとして活動しているのでその部類との話でした。
 そのため、警察に対しては、今後SLTの社員には手を出さないように協力、要請しました。また、警察官をSLTの従業員になって潜伏させ聞き取り調査などもするようにお願いしました。

 (スリランカ警察はギャングとの持ちつ持たれつの関係があるとの情報も得ていたので)

 この事件はN社本社にも伝わり、当面SLT内部のN社派遣社員への行動に注意するよう指示があり、特にその中心となっているCAOには「その身辺に気をつけろ」との指示があり、通勤時の経路を毎朝変更するようにと伝えてきました。それと同時に防弾チョッキも本社から送られてきました。
 このようなことからCAOの活動はこの事件への対策に多くの時間を費やすことになり、銃撃された人事本部長の退院後の処置についてもかなり時間を割くことになりました。

 後でわかってきたことですが、この銃撃は警察の内定ではいわゆるコントラクトキラー(契約による殺人請負者)によるものである可能性が大きく、本人が死ぬまで命を狙うとのことであり、退院後の問題をどうするか考えなければならなくなりました。

 以降は来月号とします。

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