Z. |
アベノミクスのその後とこれからの日本について問題はないのかな? |
I. |
アベノミクスについて私は危機感をもっています。本日はバブル崩壊後の動きの中から、何が問題かを摘発してみます。しかし、悪さの摘発ばかりでは芸がありません。上昇気流を探すことも任務に加えることにしました。
- (1) アベノミクス以前に平成で起きた危機感を、橘玲著【「上級国民」やっぱり本当だった。みんな薄々気づいている「言ってはいけない」分断の正体「下級国民」】 から引用しました。
- 平成の30年間を一言でまとめると、「日本がどんどん貧乏くさくなった」。理由をGDPで示すと、平成元年(1989年)の一人当たりのGDPは世界2位で、30年後(2018年)には26位になった。また、かつては世界の15%を占めていたGDPも30年後には6%に縮小した。
- (2) 平成で起きたこととその原因:
- ①日本のサラリーマンは世界で一番会社を憎んでいる。理由、世界で一番長時間労働をしていながら、労働生産性は世界で最低である。そのため日本のサラリーマンのエンゲージメント(会社に対する魅力度)が極端に低い。世界のトップはインドで22ヵ国中評価点25%、2位メキシコは19%、アメリカは中位で評価点1%、日本は最下位で評価点―23%であった。
- ②それは日本の経営者に責任がある。1990年以降の先進国の動きは製造業から、サービス産業にシフトし始めた。残念ながら経営者がグローバリゼーションの将来像が読めず、製造業的組織体制を変えることをしなかった。そこで経営者が実施した業務の内容と、その行方を追跡してみた。
- (3) 米国企業の2001年初版【デジタル・ビジネスデザイン戦略】
私はバブルがはじけたこの時期に、米企業と日本企業の経営者のビジョンをしらべてみた。はっきり言えることは米国がこの時期からグローバリゼーションへの突入を意図した動きがあり、それはIT部門の多角的推進であった。その事例集が2001年初版【デジタル・ビジネスデザイン戦略】である。日本の経営を見ると、まずバブル処理が最優先であった。これに対し、米国の経営者はIT改革を実践したが、経営者は自社に最適なIT革新の道をさがし、独自に成果を上げていた。しかし、内容を見ると自社独自の発想で進められていた。残念ながら日本はバブル処理に忙しくIT経営で後れを取ってしまった。今回は米国企業のIT(デジタル技術)の活用事例を紹介することにした。
- ⅰ)米国では1950年にインターネットを世界中に普及させたことで、あらゆる情報を即座に提供することができ、情報収集も活発化した。結果的に情報を大幅に利用した企業がみるみる内に成果を発揮しだした。例えば30万円するパソコン(PC)はメーカーが推奨するソフトを多く内在させて売っていた。そこでデル・コンピュータは、特に必要なソフトは何か調べ、顧客にチョイス・ボードを提供し、必要なソフトだけを選んでもらい、販売を開始したところ、要求が多いことが分かった。デルの1995年での株式価値は1億ドルであった。一方競争相手は株価価値10倍であったが、2年後株価40億ドルで、並び、2000年には株価価値140億ドル、競争相手は40億ドルと大幅に引き話した、画期的な事例である。
これはデジタル・ビジネス・デザイン(DBD)を活用した企業に、多くの利益をもたらした事例であるが、ここでDBDの真の恩恵を紹介する。
- ⅱ)DBDの真の恩恵
- ①事業の意思決定の根拠を「予測」から「認識」
- ②顧客に提供するバリュウ・プロポジションを「不適合」から「最適」へ
- ③社内の情報の流れを、「ラグタイム(遅延)」から「リアルタイム(同時)」へ
- ④顧客サービスのモデルを、「供給者によるサービス」から「顧客のセルフサービス」へ
- ⑤従業員の時間の使い方を、「付加価値の低い仕事」から「能力の最大活用」へ
- ⑥組織を「独立したばらばらな活動の寄せ集め」から情報、考え方、解決法を共有する「統合されたシステム」へ
- ⅲ)デジタルビジネスデザインの出発点
- ①自分の組織が現在直面している最も重要な事業課題は何かを考える
- ②その事業課題に対応しうる最も賢明なビジネスデザインの選択をおこなう
- ③主要な事業活動のうちアトム(アナログ)の管理を伴うものはどれで、ビット(デジタル)の管理を伴うものはどれか定める
- ④どうすればアトムをビットに置き換えられるか
- ⑤どうすればビット・エンジンを生み出し、ビットを電子的に管理できるか
- ⅳ)ビジネスデザインの八つの主要次元
次 元 |
質 問 |
顧客選択 |
★どういった顧客を対象にサービスを提供すべきか |
顧客に対するユニークな バリュー・プロポジション |
★なぜ顧客は自社の製品を買ってくれるのか |
社員に対するユニークな バリュー・プロポジション |
★なぜ彼らは自社で働いているのか |
価値の獲得/利益モデル |
★どのようにして収益をあげるのか |
戦略的コントロール/ 差別化 |
★どのようにして利益と顧客関係を守るのか |
事業領域 |
★付加価値を付けるために何をすべきか |
組織のシステム |
★どのような組織の構造と企業文化をつくりだすか |
ビット・エンジン |
★システム内の情報をどう管理し、配賦するか |
- (4) 先の見えない社会の中でDBDを採用した米企業の大躍進の事例
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Z. |
この項のテーマはある日突然素晴らしい世界が広げられた感じがする。左側を説明して欲しい。 |
I. |
わかりました。しかし、私もこの話にワクワクしていますが、日本の現状をみると、がっかりします。このことを含めてお話しします。
実践事例 A : 顧客をいらだたせる伝統的ビジネスデザインからの解放
2000年の時代に自動車、家電商品を買ったときに、メーカーが決めたレシピに従った製品を買わねばならなかった。これら商品はいらない付属品まで添付して価格を決めていた。ところが米国人は真摯の気質がある。賢い商売人は世の中の変化を考える。ここで起こった変化とは何でしょうか? |
Z. |
部品の開発とか、簡素化だろうな?! |
I. |
直接的にはその通りですが、世の中の大きな変化は、一にインターネットの普及です。次にPCの発達で個人が発信できることです。
そこで頭の良い企業が製品の簡素化を図った。それは顧客個人に、自分用の製品を買うための要求を求め、商品を安価にして提供したことである。万能機能を載せたPCから、個別要求を取り入れると、製作が煩雑となり、コストがあがると思っていたが、類似の要求がかなりあり、それを一つのグループとしてまとめると、それら商品のトータル売り上げが数十倍に伸びて、経営的成果を獲得したという話である。ここで重要なポイントは個々の顧客との取引が容易にできる「チョイスボード・モデル」を生み出すことが可能になったことが成功の要因でした。日本でしたらどうでしょうか?
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Z. |
プライドの高い日本の大企業が応じることはありえない。また、官僚システムは一度獲得した権力範囲を捨てることはしない。それが彼らの特権であり、収益に関係するからだな! |
I. |
おっしゃるとおりです。 では種明かしをします。
大企業があげる収益は無駄と思われる部品を含めて万人向け商品を構築しますが、生産コストが最低になるところを狙って競争価格を作り上げています。(実のところ日本人は万能機能があると、使わなくても買ってしまう習性がありますから、日本では上記の展開は起こりえません)。
ところが今や日本でもインターネットの普及で、顧客のPCの不要部品ぬきで商売しても成り立つよう工夫されているようです。
実践事例:Aケースはデル・コンピュータの事例です。
デル・コンピュータは1995年の株主価格は1億ドルで、ライバルのコンパックは10億ドルでした。1998年ではデル、コンパックが45億ドルで並びました。2000年ではデル130億ドル、コンパック40億ドルと逆転しました。
実践事例 B : 「10倍の生産性」の現実 : 適切なビット・エンジンの選択と管理
DBDは生産性の向上や事業実績の可能性の定義を変えてしまう。
これに比べて、日本の組織は成功した実績を重んじ、時代が変わっても優れた実績を変えようとすると、組織内が混乱し業績があがらない。そのため、変化のなさをいまだに信奉している。
生産性の向上は「用いられた資源」に対する「生み出された価値」の割合で図られる。
1780年から1820年は蒸気の利用が成果をもたらし、1880年から1920年は電気の利用が成果をもたらした。デジタル化(アトムをビットに取り換える)革命はパソコン革命の到来から20年を経た今ようやくデジタル化がもたらす生産性の恩恵が得られた。
▲10倍の生産性を可能にする秘密:
- ①これまでは、ほとんどの経済活動で、ビットがよい結果をもたらすと思われた場合もアトムを用いていた。今、アトムをビットに置き換えることで、多くのコストが排除できる
- ②デジタル化することでアトムを操作する前に、きわめて有用なビット(顧客の真のニーズに関する情報など)を集めることができる。結果として、アトム(在庫や工場の余剰生産力など)をビッド化することで、莫大なコストが消滅する。
- ③デジタル・イノベーターは極めて効率がよく、並み外れた速度で価値を生み出す
▲成功への鍵―デジタル化による「資産」の効率向上、デジタル化による「コスト」の削減、デジタル化による「サイクルタイム」の迅速化がはかれる。生産性の向上はすべての企業にとって、容易に成果をあげることができる。日本でも全社員の努力によって、膨大な成果を上げる方式を見出し、実行して欲しい。
実践事例 Cケース : GE : 世界一の企業が推進するデジタル化戦略
- ▲ジャツク・ウェルチの洞察:1994年ウェルチは「私にはパソコンなど必要がない」と述べていた。「それで何をすればいいのかわからないからね」。しかし現在のウェルチほどDBDへの転換に熱心な擁護者はいない。ウェルチの考え方によれば、ウェブは事業を完全に変えてしまうと言っている。
彼がデジタル化のへの直観を得たのが98年の休暇シーズンだった。その時彼の家族はクリスマスの買い物に没頭していたが、ウェルチは家族が一歩も家の外に出ないことに気が付いた。買い物はすべてオンラインで行われていた。突然、インターネットの実際的な力と、それがGEの事業に果たしうる役割が明らかになった。94年のPCは電子計算機であった。98年までにそれは通信や業務処理を行う装置になっていた。
99年1月将来像を4つの構想として示した
①インターネットと電子商取引
②グローバリゼーション
③サービス
④シックスシグマ
その中でインターネットと電子商取引を最高位に位置づけた。
- ▲GEの事業課題
ウェルチは新しい発想で経営を見直した。
すべてを詳しく検討し、自社のビジネスデザインにまとめた
ⅴ) ビジネスデザインの八つの主要次元
表12-1 GEの新たなDBD
次 元 |
質 問 |
顧客選択 |
★幅広い業界や顧客をまたがる |
顧客に対するユニークな バリュー・プロポジション |
★ソリューション★選択
★取引の利便性、★顧客の生産性
★ITA (情報、ツール、実行) |
社員に対するユニークな バリュー・プロポジション |
★クロトンビル
★ジャック・ウェルチの助言(3000人のトップ・マネジャーに対し)
★全社的なアイデアやツールの有効活用 |
価値の獲得/利益モデル |
★多くの構成様素:製品、サービス、ソリューション、ファイナンシング
★繰り返し発生するサービスからの収入
★デジタル化された生産性の向上 |
戦略的コントロール/ 差別化 |
★GEソーシャル、アーキテクチャー
★顧客とCEOの密着な関係
★取引先とGEをつなぐネットワーク
★シックスシグマの品質 |
事業領域 |
★関係企業★総合的な顧客ソリューション
★情報サービス★投資事業(GEキャピタル) |
組織のシステム |
★協調やチームワークといった文化
★社内マーケティング・システム
★常に変化とリインベントを志向する姿勢 |
ビット・エンジン |
★顧客とサプライ・チェインの電子的なつながり
★遠隔診断★eマーケットプレイス |
米国企業は競争の激しさから、先の先まで検討したDBDが書かれていた。
GEの次にIBMの新たなDBDも検討したが、IBMはハード製造会社から今やソフトを検討の企業になっており、その実力はすばらしいといえるが、紙面の都合で割愛した。
総括:訳者のあとがき
DBDで何が達成できるか
- ①戦略的選択肢の可能性の拡大
- ②最も効果的な方法で顧客の満足度の向上
- ③差別化を実現させる新たなバリュー・ポジションの実現
- ④社内人材の貴重な時間を低価値な仕事から解放
- ⑤10倍増の生産性向上の実現
- ⑥収入、利益そして企業価値の増大
私たち日本企業が10年間で上記のような発想で、仕事を進めただろうか。
6月号は日本企業の10年間の成長を覗いてみよう。 |