投稿コーナー
先号   次号

日本の危機の認識とプロジェクト・マネジメント活用への提言 (12)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 4月号

Z. 3月号は資料が多かったが、最も言いたかったことは何だったのかな?
I. 年度末であったため、結論を出したかったのですが、結論を出すには問題がおおすぎて、まとめきれませんでした。今月はまず、簡単な結論だけ申し上げます。その後に説明不足をおぎないます。
Z. わかった、よろしく頼む。

I. アベノミクスに関し、慎重にその要旨を学んだ。そしてその実態は何かを求めた。
ここで気が付いたことがあった。アベノミクスには、難しい課題が存在していた。私たちはそれを知らずに検討を進めていた。
明確に言うと、アベノミクス実施以前に、財務省は野田政権時に定めた、消費税8%増税を実施する予定でいた。そしてその後ある期間をおいて増税率を高める方式が決まっていた。現段階では、すでに10%増税まで決定していた。

私は野田政権時代の消費税増税をたてにアベノミクスが阻害されるのではないかと心配した。米国も含む多くの経済学者がバブル崩壊後の日本が、消費税増税を進めると、デフレが更にひどくなるという説に同意している。野田政権の消費税増税を指導していたのはもと大蔵省財務官の榊原英資しである。かれは常に円高希望者であったからだ。当時(昭和期)の日本は世界中へ製品を輸出していたため、円高は製造業者の敵であったが、榊原財務官は歓迎していたのを記憶していた。彼の立場からみると、日本はエネルギー源としての石油を安く購入できる円高がすきだった。しかも、日本製品は円高でも日本の言い値で輸出ができたことで円高を恐れなかった。今は時代が違うという思いが私にはある。そこでアベノミクスが活動し始めた時から現在までのいきさつを調べた。

簡単に言うと、アベノミクスが第一の矢を放つと、緩やかなインフレ率が実現し、成果を上げた。2年後に今度は財務省が消費税増税をおこない、アベノミクスの成果が停滞した。
第二の矢でも同じで、最初に成果を上げたが、再度の増税で収益がとまった。そして第三の矢の実施で成果が著しく低下している。

そこで今度は、太原総一朗責任編集:著者榊原英資、竹中平蔵【2時間でわかる!「絶対こうなる!日本経済」この国は破産なんかしない!?】が2010年6月(アベノミクス以前)に出版された。表紙の宣伝文には、目指すはアメリカ型競争社会か、ヨーロッパ型福祉社会か。3年後、消費税は25%になる。この本をよく読んでみた。3人の見識者はそれなりに優れた人々であることがわかった。竹中氏は日本の将来を米国型の経済成長をもとめるか、フランス流の消費税増税派で、「産めよ増やせよ派」の人物が見えてきた。竹中氏は小泉政権時代に総務大臣となって活躍した。竹中氏が世界の経済の先読みをした内容に共感するものがあった。
次に読んだのが榊原英資氏の【これから7年先読み!日本経済】2013年12初版である。これはアベノミクス以降に出版されている。
第1章これから7年はこうなる。
この本はアベノミクス第一の矢の成果、2%の成長に満足し、アベノミクスと次の消費税での下落がすくなかったことを評価している。この本の中で面白かったのは第5章であった。
  1. ①アメリカの景気は回復したが、なりふり構わぬテコ入れのツケが必ず回ってくる。アメリカの抱える最大の問題は「格差の拡大」、1%の富裕層に富が集中していることである。「アメリカンドリームの崩壊、アメリカの分裂」へとつながっていく。
  2. ②国民皆保険のないアメリカで病気にかかったらわかる、医療費の高さ。
  3. ③社会福祉を拡大するオバマ政策が、なぜ、あれほど反対されるか。今のアメリカ人は強かった愛国心が薄れ始めている。
  4. ④オバマ政権を揺さぶる共和党が、ここまで強気でいられる理由。シェール革命で世界最大の原油産出国になるアメリカは、中東への関心を失うだろう。新興市場国に回っていた資金がアメリカに戻るとき、円安・ドル高となる。
  5. ⑤第7章先読み、日本経済 これからの7年を勝ち残る生き方はこれだ!
    日本経済は好調、日経平均株価は2万円近くになる。
    投資の鉄則:資産分散をわすれるな!世界経済の先行きは不透明、右往左往せず、「大局観」をやしなえ。
  6. ⑥日本の歩むべき道は、財務省榊原英資氏および竹中平蔵氏ともども、フランスが実施している20%増税を目論んでいた。榊原氏は在任中(大蔵省財務官)からデフレ主義であった。その理由はどの国も自国の貨幣が高くなると輸出品が高くなるので経済的危機に陥る可能性が生じる。しかし、日本は石油系燃料の輸入量が多く、円高は日本経済にとって幸運であった。理由は簡単で日本製品は質が高く、円高になっても日本の定価で売れる、デフレ万歳派であった。しかし、現在の日本はやはり円安が望ましい環境である。
話は飛んでしまったが、アベノミクスは時の内閣は消費税8%採用を延期させる政策に踏み切った。アベノミクスの成果を求める時、この複雑な課題の処理で、アベノミクスの成果は著しく変わる。この論評では、そこを取り入れて検討を行った。
ⅰ.アベノミクスの実行と評価
アベノミクス側は財務省に8%増税を一時遅らせることを要求した。
そこでアベノミクスが行ったのは「三本の矢」戦略で「第一の矢:大胆な金融政策」、
この政策に対する評価は、日銀の協力を得た金融緩和で円安、株高でアベノミクスの基盤を築いたが、財政政策は一時的な刺激策で評判は今一つ。市場が期待していたのが「道半ば」といわれ続けた3本目の矢、の長期戦略だった。という評が新聞に載っていた。

これに対し、「新3本の矢」に問われる具体策(2015年9月25日)を発表された。
第2次安倍内閣が発足したのは2012年12月。この間、株価は2倍になり、企業の業績も過去最高水準に回復してきた。
だが「円安が輸出増に」「企業業績拡大が設備投資増加に」「雇用増が消費増に」という好循環は明確でない

アベ・クロ相場第2幕 待ち受ける試練(9月13日)
  • アベノミクスで目指す好循環の輪はまだ弱い
  • 設備投資▲2.7%(4~6月)▲はマイナスの意味
  • 最高水準の企業業績:経常利益 20兆2881億円、内部留保354兆円(15年3月)
  • 円安:消費▲0.2%(マイナス)、賃金+0.3%(7月)
  • (注)企業業績、設備投資(期間調整済み)は財務省法人企業統計調査前期比。
  • 消費は総務省家計調査、実質での前年同月比。賃金は厚生省統計調査、前年同月比。
  • 企業経営者らの間では、金融政策以外の2本の矢の効果を高く評価する声は少ない。
  • オリックスシニア・チェアマンである宮内義彦氏は日経電子版の経営者ブログで次のように評している。

『成長戦略に欠かせない規制緩和は進まず、財政の健全化に必要な社会保障費などの削減も、ほとんど手が付けられていない。利害調整が難しい施策後回しとなり、金融緩和だけが先行している』
『今の経済を支えているのは日銀による異次元の金融政策と、それに触発された一部民間部門の元気、回復が加わった結果です。要は日銀による一本足打法が当たったのです』

金融緩和の「一本足打法」、その行く末は(宮内義彦氏の経営者ブログ、7月24日)

「新」3本の矢 希望と夢と安心―――

新たな3本の矢は、2020年に向けた経済成長のエンジンーーー。
首相はこう位置づける。では新しい矢はどんなものか、もう少し具体的に見よう。

新たな3本の矢は(1)希望を生み出す強い経済、(2)夢を紡ぐ子育て支援、
(3)安全につながる社会保障―――の3項目。
首相は「長年手つかずだった日本社会の構造的課題である少子高齢化の問題に正面から挑戦したい」と意気込みを示した。
新たな3本の矢と首相発言のポイント
新たな3本の矢(目標)
  1. ①希望を生み出す強い経済:GDP600兆円
  2. ②夢を紡ぐ子育て支援:出世率1.8%
  3. ③安心につながる社会保障:介護離職ゼロ
首相発言のポイント
  1. ◎アベノミクスは第2ステージ
  2. ◎「1億総活躍」プランを作成
  3. ◎50年後も人口1億人維持
  4. ◎デフレ脱却は目の前
  5. ◎17年4月の消費増税は予定通り
  6. ◎内閣改造・党員人事は骨格維持
  強い経済=20年のGDP600兆円に

14年度に490兆円だった名目GDPを2割増やすため、女性や高齢者、障碍者らの雇用拡大や地方再生を本格化して「生産性革命を大胆にすすめる」とした

子育て支援=合計特殊出生率を1.8に回復

子育て支援では、現在1.4程度の出生率を1.8まで回復させる目標を掲げた。子育てにかかる経済的負担を軽くするための幼児教育の無償化、結婚支援や不妊治療支援に取り組む。
子育て支援では、保育園に入れない待機児童をゼロにすることや、幼児教育の無償化拡大なども目標に掲げた。

社会保障=介護離職ゼロに

家族らの介護を理由に退職せざるを得ない「介護離職」をゼロにした。これらを20年に向けた「日本1億総活躍プラン」としてまとめ、「50年後も人口1億人を維持する国家として意思を確定したい」と語った。

Z. 初回のアベノミクスの第三の矢は漠然としたものであったが、理想的な発想に基づいている気がする。Iさんの考えはどうかな。

I. 私は評論家ではありませんが、世の中に出てくる評論は結果が重視されます。アベノミクスは失敗でしたということも簡単にいえますし、今までできなかったことを、ここまでやってくれたという評価もできます。日本人は優れた国民ですが、見えていないものに興味を起こしません。ここで最大の問題はグローバリゼーションとは何かという決定的な論戦が必要なはずです。しかし日本人は一番大切な「問題を課題化して、結果まで突き詰める」ことをしません。
私はここで第二次世界大戦前に行われたこと、戦時中に行われたことを事例にとりあげて議論します。
皆さん、日本は第二次世界大戦の前に、どのような準備で開戦に踏み切りましたか。
英国首相チャーチルが日本人論を話しています。「日本人はまじめで駆け引きがない。我々の要求を一方的に聞いても我慢し、ネゴもせず商売につきものの駆け引きがない。そして切羽詰まると爆発してしまう民族だ」。
私も同感です。日本人は島国でアジアの小国家だと今でも謙虚に考えています。自分の能力を知っていないのです。
下記は日本の防衛範囲の広さです。その広さを活用することが大きな再建につながるきがします。
ここで現在の日本の領土の範囲を示します。
最南端は沖の鳥島北緯20.25度、最北端択捉北緯45.33=25.08
最西端与那国島東経122.56度、最東端南鳥島153.59=31.03
以下はアラスカ、ハワイを覗いた米国の領土範囲です。
最南端フロリダ北緯 25。     最北端メーン45。    =20
最東端シアトル西経125。    最西端 メーン67。    =58
日本の防衛範囲はかなり大きいのです。本当は「日本人がこの大きさを利用することもできる筈です。

 以下に財務省の戦略を覗いてみます。これは本に書かれている部分と書かれていない部分を、種々の情報を取りまとめ、自分なりに考えた結論でもあります。

ⅰ)1997年バブル崩壊後何をしたか
  1. ①大蔵省は傘下のゼネコン10社を救済した。
    米国なら3社残して合併でグローバリゼーションに備えた企業の育成を図る。
    そのためには未来に向けた戦略を基に、グローバリゼーションに有利な形の企業組織を立案する。
  2. ②大蔵省と救済されたゼネコンは傘下の実践的現場作業をする中堅企業の救済をしなかった。(ゼネコンは実作業をせず、作業は傘下の中堅企業がする仕組みになっている)。そのため東日本大震災後の復旧工事が思うように進まなかった。復旧工事の予算が余った)
    米国なら最先端技術、最先端建機を作らせ、中国、ベトナム等アジア系諸国の国家建設に貢献させたはず。
  3. ③大蔵省は製造業世界一になった時点で、まず最初に、21世紀に一番活躍する、デジタル化経営に踏み切るべきであったが、国内官僚組織の覇権で満足し、自分の省内でもデジタル化に熱心に対応しなかった。
  4. ④財務省となり、自国のグローバリゼーション戦略に有力なデジタル室を作り、情報収集、発信の在り方を研究したが、物まねの領域でしかなかった。PMAJシンポジウムで、役所の給与のデジタル化方式を参加者に披露するところだったが、調査の結果各部それぞれ独自のシステムでスタートしたため、論理性に乏しかったのでご披露は中止した。
  5. ⑤財務省は傘下の公共事業を一体となって実施するため、200兆円規模の天下り事業の体制を確立した。
  6. ⑥財務省はきれいごとを言っているが、アベノミクスが手順として決めた、大企業の余剰金から社員の昇給、経済発展のためのイノベーション的投資はおこなわず、財務省の発想で、大企業への減税に使われてしまった。
  7. ⑦その結果わかったことは、国民は本人の税金より、1.3倍高い消費増税を義務付けられている。反対に大企業はほぼ無税に近くなっている。このため、リスクの高い、イノベーションへの意欲に欠け、新しい事業が停滞している。
  8. ⑧この事実が国民にもれると、若者に生きがいを与える勇気を提供できない。財務省が将来20%税率が望ましいと、消費税に執着するのは、大企業の停滞と官僚組織の既得権益の保持に問題がある。アベノミクスの第三の矢に成果が出にくいのは既得権益排除が難しいからではないか。
  9. ⑨大企業への減税が10年間で400兆円となっている。
  10. ⑩日本の最低賃金法は米国と並んで世界で一番低い。財務省は外人向けと返答しているが、これからの日本の若者は職を探すときに、その金額ならXX人を雇用するといわれると、日本人から、外来人に変身するしかない。
  11. ⑪既得権益の保持はデフレ政策に陥り、江戸時代に経験のある名君の誉れ高い松平定信の緊縮財政は失敗し、ますます、不況が広まり、定信が罷免された。定信はデフレ経済方式を採用したが、元禄時代は宵越しの金は持たない庶民が生活を謳歌した。
  12. ⑫日本国の上層部全体が小さな国内で何をすればよいかきめかねているのではないか

Z. 日本の領土は広いな。希望を大きくしないと、昭和人に叱られそうだな。
I. 日本の広さに驚いてはいけません。これからの商売は一人ではじめても、日本中、いや、世界中に情報がひろがり、一夜にして億万長者になれる時代です。国民に希望を与えることが肝要かと思います。

以上

ページトップに戻る