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「エンタテイメント論」(158)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :5月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

7 本質
●100年時代の到来
 厚生労働省は、「人生100年時代」を見据えた「経済社会システム」を創り上げる為の「政策グランドデザイン」を検討する「人生100年時代構想会議」を平成29年9月に設置した。そして同会議で同年12月に「人生100年時代構想会議・中間報告」を、翌年6月に「人づくり基本構想」を夫々まとめさせ、発表させた。

 この報告と構想を契機に、日本の多くの経済研究所、経営研究所、大学、企業などは、所謂「100年時代到来論」を次々発表し、現在に至っている。この事は周知の通りである。

出典:100歳カップル
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●100年時代の未来予測
 日本人の平均寿命は、戦後、伸び始め、「人生60年」~「人生70年」~「人生80年」~「人生90年」となった。そして最近、遂に「人生100年」と言われるに至った。「2007年以降に生まれた子供は、その半数の平均寿命は107歳になる」と云う予測が出されている。その他に様々な寿命予測も発表されている。この事も周知の通りである。

 更に日本人の平均寿命の未来予測と共に、「人生未来図」も様々な経済研究所、経営研究所、大学などから発表されている。

 さて我々は、「人生100年」と云う長さをどのように受け止めるべきなのか? 昔の「人生60年」の時代と比べて「人生100年」の時代は、その長さが6割増となった。ならば我々はその増加分を「命の恩恵」、「命の特権」と考えるべきなのか?

出典:人生サイクル
出典:人生サイクル
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 日本人の多くの人は、増加した長さの年月を思うと、その間の生活に不安を抱き、長生きを「困難」を伴う人生ではないか?と受け止める。最近、その不安や弱みを付け狙ったTV広告、You Tube広告、メール広告がやたらに目に付く。

 例えば、「100年時代を見据えた」と云うキャッチコピーの殺し文句で「自動投資信託」、「自動株式投資」、「スマホに依る米国富裕層が活用している自動利殖法(ウエルスナビ)」、「持ち家売却&持ち家居住継続契約」などである。また「毎月数千円を投資すれば確実に100万円を稼げる。もっと投資すれば1000万円は固い」と云う様な「詐欺勧誘」まで存在する。

 そもそも「そんなに儲かるなら、人に勧めるより、自分自身で儲けること」である。詐欺勧誘は別として、自分自身は何もせず、人に勧めて投資させ、その過程で仲介料などを稼ぐ。しかし儲かる保証は一切せず、最初から投資リスクが存在することも明確に言わない。金融の素人を相手にする100年時代に便乗した一種の悪徳商法である。

 もし「本心、本気、本音」で投資したければ、投機目的でなく、10年、20年のスパンで考える投資をすること。更に先月号で取り上げた「ポートフォリオ・コンセプト」で投資をするべきであろう。個人の貴重な資産を「甘い宣伝」に乗って、全て失う様な「愚」は、絶対に避けるべきだ。「世の中にウマい話など存在しない」のである。

●100年時代を生きる方法
 人生100年の長寿を「恩恵」、「特権」として主張する日本の学者や識者は、「100年時代を如何に生き続けるか?」に関して、ある見解を示している。それは「Wish List(やりたい事を書いたリスト)」を作成し、前向きな姿勢で長寿の生活を送れと説いている事である。

 聞き慣れなれないが、新鮮且つ前向きな響きがする「Wish List」の事を知り、多くの人が「Wish List」を作ろうと考えを巡らせる。

 しかし考えを巡らせば、巡らせるほど、100歳までのお金や家をどうするか? 親や配偶者の介護にどう備えるべきか? 日々何ができるのか? 安全、安心、安定、の生活基盤をどの様に構築するのか? と益々疑問が湧き、不安が高まり、本来の「Wish List」を作れなくなる。皮肉な事である。

出典・Wish List
出典・Wish List
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 しかし経済的に余裕がある富裕層の人物や生活に不安がない人物は、「Wish List」を作れる。例えば、親を旅行に連れて行く。昔の友に会いに行く。夫婦で海外のロングスティを楽しむ。英語を体得し、外国人の友人を作り、国際色豊かなホームパーティーを開く。新しい趣味を獲得し、楽しむなどである。

 「Wish List」は無駄か? 必ずしもそうではない。その内容が些細なものであっても、高齢者が何をしたいのか? 何を叶えたいのか?が分かれば、高齢者対策に役立つ他、高齢者向け商品やサービスのアイディアの種になり、その開発に役立つ。

 もし100年時代の課題や問題に興味がある読者は、以下の資料が参考になるだろう。それは厚生労働省「平成27年簡易生命表」における「特定年齢までの生存者割合」、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口推計(2015年時点の100歳以上人口は約6万人)」、東京大学高齢社会総合研究機構編/ニッセイ基礎研究所編集協力「東大が作っ高齢社会の教科書~長寿時代の人生設計と社会創造(東京大学出版会、2017年3月発刊)」、一般社団法人高齢社会共創センターの「高齢社会検定試験テキスト」等。

●筆者の「人生未来設計」
 筆者は、若い頃から今まで、時に触れて、単なる「人生未来設計」でなく、積極的な行動を伴う「人生未来設計」を行ってきた。

 筆者の未来設計の目的は、資産蓄積・運用、土地取得・活用、教育資金確保などの所謂「家計基盤」の形成だけでなく、自分自身の可能性を拡大する為に必要な「専門技術」が何かを明らかにし、その技術の獲得を計画した。

 また「自分がやりたい仕事」を明らかにし、過去に獲得したまた今後獲得するであろう知識、専門技術、経験などを基に、勝手気ままに、楽しく「転職計画」を描いた。この様な「未来設計(夢工学では計画設計と定義する)」がその後の筆者の人生に意外や大きい効果をもたらした。

 筆者個人の事を書いて恐縮であるが、参考になればと敢えて個人情報の一部を開示することにした。
出典:より良き未来
出典:人生行路の選択
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出典:人生行路の選択
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 筆者は、ある日、突然、米国系の著名な某エグザクティブ・リサーチ会社のヘッドハンター(リクルートなど就職斡旋と一線を画する社長職、役員職の斡旋ハンター)から連絡を受けた。その誘いを受けた時、上記の「転職計画」と完全にマッチした。定年の遥か前の52歳の時、某企業の役員ポストを捨て、ヘッドハンターを起用していた某企業に転籍した。

 その後、上級職員を探していた某県知事から直接スカウトされ、同社を辞め、公務員試験を経て某県三役の「理事」になった。55歳の時である。更に経営経験のある民間人の教授職を探していた某学長から直接スカウトされ、某県理事の官僚職と兼務で某大学客員教授になった。その後もいろいろなスカウトを受け、転職した(省略)。

 これらのスカウトは、全て先方が筆者に仕掛けたもので、筆者にとっては「偶然」のものである。しかし「人生未来設計」として描いていた内容に極めて近似していたので、迷う事なくそのスカウトを受諾する事が出来た。勿論、筆者の家族の賛同と支援があった事も重要な「鍵」となった。

 以上の経緯で筆者は、「産官学」の全く異なる3分野の職を経験する事が出来ただけでなく、現在も「産官学」の3分野の仕事を「現役」として遂行する事が出来ている。今にして振り返ると「人生未来設計」で描かれた通りには実現しなかった。しかしそれに近い結果が生み出された事に心から満足している。

 「人生未来設計」が効果を発揮した事も然ることながら、それ以上に筆者を信じ、スカウトしてくれた人達の好意と決断によって「現在の筆者」が存在しているのだと確信している。スカウトしてくれた方々に今も深く感謝している。

 本稿の読者に声を大にして言いたい。先ずは、自らの「人生未来設計」を勝手気ままに、楽しく、大胆に描くことを薦める。次に、その「詳細設計」を、例えば「夢工学」を参考に、描く事を薦める。「Wish List」を作成するより、実効果があると思う。

●標準的サラリーマン&ウーマンの人生全体予想図
 表記の「人生全体予想図」を自分や友人などの今までの人生を参考にして描いてみた。

 標準的サラリーマン&ウーマンは、現役で大学入試合格なら22歳又は23歳で大学を卒業する。そして官庁、会社などに就職する。社会人になり、7~10年ぐらいで一人前に働ける様になる。その後、65歳で定年となり、定年後の人生を歩み、100歳で死去する。このシナリオに依る「人生全体予想計画」の中から「タイムチャート」の部分を紹介する。

標準的サラリーマン&ウーマンの人生全体予想図
 昔は、今と違って、大企業でも若くして部下10~15名を配下に持つ「管理者」になった。筆者も、勤務先の新日鉄合併前の富士製鉄では、入社後6年目に10数名の部下を持つ「掛長」になった。途端に「残業手当」がなくなり、「掛長手当」を貰っても実質減収になった事を今も何故か覚えている(八幡製鉄も同じ)。

 「掛長」は誤字ではない。元・官営「日本製鐡」では「係長」と使わず、「掛長」と使った為である。GHQの財閥解体で日本製鐡は八幡製鉄と富士製鉄に分割された。しかし分割された両会社とも「掛長」の名前を残してGHQに対抗した様であった。

 筆者が何の目的でゴタゴタと述べているのか? それは人生全体予想図を見れば、「驚くべき事」に気付くだろう?と云う事である。それは、例えば管理職になってから定年までの期間が凡そ「35年」、定年から死去するまでの期間が「35年」で同じであると云う事だ。

 「過去は一瞬にして過ぎ去る」とは文学的、感傷的表現である。よく考えて見て欲しい。リアルに過去を思い出せば、もの凄く長い期間であったはずである。その過去の長き期間が、これから死ぬまで続く期間と同じなのである。この認識が無い人物は、今後の「35年間」を「幸福な人生」にする事は難しくなると考えるのは筆者だけではないだろう。

 しかも「気付く」だけでなく、死去するまでの「35年間」を「如何に働くのか?」、「如何に生活するか?」、「如何に意義ある人生を送るのか?」を考えなければならない。

 筆者の問題提起は、①筆者自身に向けているだけでなく、読者の中の②定年後の人物、③定年を10年以内に迎える人物、④定年を10年以上先に迎える人物、⑤定年など眼中にない程、若い人物の全てに向けたものである。

   次号以降で「Wish List」の効用より効果的な「問題解決策」を述べたいと思っている。この問題解決には「エンタテイメントの本質」と「エンタテイメントの効用」が広く、深く関わっている事を「予告」しておく。だからこそ、今月号の冒頭に、いきなり「100年時代の到来」と云う「エンタテイメント論」と一見関係がない様に思われる「サブ・テーマ」を掲載し、その中身を解説したのである。
つづく

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