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分かりやすく伝える力

井上 多恵子 [プロフィール] :4月号

 「え~?今話してもらった意図は、この書き方だと伝わらないんですけど、、、」両親に届いた郵便物を代わりに処理する中で、郵便物の送り主と、こんな会話をどれだけ繰り返したことだろう。
 こんなことがあった。海外送金の際に使われている経由銀行の変更について、送金受け取り用に口座を設置している銀行から案内文が届いていた。適切な窓口の方が電話口に出てくるまでしばらく待たされた後、こんなやり取りがあった。「昨年末に届いた手紙を見つけて、電話をしました。『同行案内書を確認のうえ、ご対応ください』と書かれているのですが、同行案内書が見当たらないのでお手数ですが、再送していただけないでしょうか?」「その件については、経由銀行となっていた〇〇銀行に問い合わせてください。」「え~?この手紙にはそんなこと書いていないのですが?この手紙には、『本件に関するお問い合わせは貴行まで』と書かれているのですが、、、」「我々は、本件元々関係ないのですが、経由銀行が変わると言う話を聞いたので、参考までにお客様にお伝えしたまでです」「え~?その意図は、この書き方だと伝わらないんですけど、、、」結局、経由銀行となっていた〇〇銀行に問い合わせをした後、そこから教えてもらった送金元に連絡をして、一件落着となった。
 別件で、別の金融機関に電話をした時のこと。コールセンターに繋がり、求められた一連の情報を伝え終わり、先方が関連手続きを始めている最中に、電話が切れた。少し待っても電話がかかってこなかったので、再度電話。コールセンター代表番号だったらしく、別の方が出て、一から説明するはめになった。「応対品質向上のため、お客様との通話を録音しています」というアナウンスも冒頭流されるのに、なぜ、応対がゼロリセットされてしまうのか。それなら、そのアナウンスと共に、「万が一、応対の途中で切れた場合、弊社の担当から連絡できるよう、お名前とお電話番号を最初にお伝えください」と、なぜ言ってくれないのだろう。これ以上無駄な時間をかけたくないので、今は、私の方から、「もし電話が切れた場合、次にお伝えする電話番号にかけていただけないでしょうか?」とお願いするようにしている。
 「分かりやすく伝える力」は、顧客満足度を高める。「〇〇さん、とっても分かりやすい説明ですね。その説明の仕方は、研修で教わったのでしょうか?」と思わず聞いたケースがある。東電用地(株)〇〇支社 配電用地グループに、電柱敷地料を支払ってもらうために、回答期日を過ぎて、電話をした時のことだ。こんなやり取りがあった。「お手元にある用紙を広げると、横に長いA3サイズになります。左上に住所とお名前があり、その下に水色で網掛けをしているところに数字が書かれているかと思います。それがお客様番号になるので、教えていただけないでしょうか?」「ありました!〇〇です。」「ありがとうございます。ご安心ください。〇〇さんの場合、回答がなかったので、我々の方で帳簿を調べ、その住所にまだいらっしゃることが確認できたので、振込み手続きをxx月xx日に完了しました。3年後に、同様な手紙をお送りしますので、届いたらお手続きをお願いします。」なんて分かりやすく、かつ顧客目線に立った説明なのだろう。「その説明の仕方は、研修か何かで教わったのか」という私の質問に対して、彼は、「いえ。どう説明したらお客様に分かりやすいか、自分で考えました」と答えてくれた。
 「教わったのではなく、自ら考えた」という説明を聞いて「すごい!」と感心した数日後のことだ。私が社内講師をしている研修の受講者アンケートを読んで、大いに反省した。「分かりやすい」「飽きない」など好意的なコメントの中に、「グループワークの説明が分かりにくく、実際にワークをやる際、戸惑った」というコメントがあるではないか!「分からなかったら質問してください」と繰り返し伝えたし、質問しやすい雰囲気も作ったつもりだったが、結果が全てだ。オンラインになってから、全体的な工夫を凝らし、改善はしてきていた。しかし、グループワークの進め方については、なぜか、集合研修の時と同じ説明を繰り返していた。何十回となく説明してきた私にとっての「当たり前」は、始めて聞く受講生には通用しない。ましてや、オンラインでは、グループワークのやり方は、集合研修の1.5倍位丁寧に説明をしないといけないことも、ある研修会社から聞いていた。それにも関わらず、実践していなかった。次回実施する際は、「受講生が迷子にならないようにする」そう決めて、準備したい。
 伝える機会、そして受け手になる機会は、日々仕事でも家庭でも、たくさんある。聞き手、読み手目線に立って、分かりやすいか、考えてみることを積み重ねて、習慣化し、無意識に自然とそれができるよう、心がけていきたい。

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