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フィードバックをする力

井上 多恵子 [プロフィール] :3月号

 “No Rules Rules: Netflix and the Culture of Reinvention”は、 “NO RULES (ノー・ルールズ) 世界一「自由」な会社、NETFLIX”という本の英語版で、日本語版と合わせ、経営者の間で話題になっている。インターネット上で動画配信サービスを提供しているネットフリックスの創業者・CEO、リード・ヘイスティングス氏と、経営学者エリン・メイヤー氏との共著本だ。多くの企業で必要とされている様々なルールがネットフリックス社には無い(「ノー・ルールズ」)理由と、その代わりに徹底していることについて、豊富な事例と共に紹介している。  その「普通じゃない点」に驚きを感じながら、そして、彼ら自身が抱いていた思い込みや失敗を共有するオープンさと、人を魅了する文章力に惹きこまれて、数日間で読み上げた。一気に読み上げる中で「自分も実践したい」と一番強く感じた「フィードバック」について、共有したい。
 同社では、効果的なフィードバックをするためのガイドラインとして、Aを頭文字とする4つの決まりで示される“4A Feedback Guidelines”を持っている。1. Aim to assist(支援することを目的とする) 2. Actionable(受け手が行動できるフィードバックとする) 3. Appreciate(感謝をする) 4. Accept or discard(受け入れるか、受け入れずに放棄する)だ。
 まず、一番目の Aim to assist(支援することを目的とする)。あなたがこれまで受けてきたフィードバックには、どんなものがあっただろうか。役に立ったものもあれば、的外れだったもの、相手の憂さ晴らしとしか思えないようなもの、否定的なものもあったのではないだろうか。ネットフリックスでのフィードバックは、「受け手を支援する」ことを目的にしている。私が提供しているフィードバックはどうだろうか。職場では、「これから伝えようとしていることは、相手のためになるのか」と、できるだけ自分に問うようにしている。しかし、家庭では、夫に対して、「なんで電気をつけっぱなしにしたの」「なんで大葉を買い忘れたの」「私が夢を語っている時に、なんでもっと応援してくれないの」など、夫のためにならない文句に過ぎないものが多い。あなたはどうだろうか。相手のためのフィードバックになっているだろうか。それとも、自分が望むように相手に行動してもらおうとしていないだろうか。
 二番目のActionable(受け手が行動できるフィードバックとする)も効果的だ。前述した「なんで大葉を買い忘れたの」も、「他のもっと大事なことに集中して考えることができるように、買い物リストを作ったから使って」と言うことで、相手は行動しやすくなる。「私が夢を語っている時に、なんでもっと応援してくれないの」も、「我々の年齢になると、周りの人を支援することをより求められるから、その練習も兼ねて、『応援しているよ』とだけ言ってくれるだけでいいから」と言い換えてみたい。そうすれば、夫も、自分には理解し難い私の夢についてまともに返答しないといけないという重荷を感じることもなくなるだろう。職場では、特定の業務についての経験が浅い人に対しては、Actionableにすることが特に大事だ。
 三番目のAppreciate(感謝をする)。フィードバックを受けた人は、それが役に立つか立たないかに関わらず、有難く受け取り、感謝の気持ちを表現する。この時前提になっているのは、一番目のAim to assistでなされたフィードバックであることだ。最後に、四番目の Accept or discard(受け入れるか、受け入れずに放棄する)。フィードバックを受け入れるか否かは、受け取った本人に委ねられている。このことを関係者が理解していれば、物事は円滑に進む。この本の影響もあり、私は、伝え方を変えるようにした。「○○という目的に照らして、あなたが納得した点だけ反映して」と一言言い添えるようにしている。例えば、こんな感じだ。「あなたの実績を聴き手の心をできるだけ動かす形で伝える目的に照らして、私の提案は話の順番をこう変えること。納得できる部分があったらトライしてみて。」
 ネットフリックスでは、 フィードバックは、「最も効果的な時に実施する」となっている。本では、誰かがプレゼンテーションをしている最中のQAや休憩時間中に、プレゼンテーションのやり方についてフィードバックがあった事例が挙げられている。これにはびっくりした。私も上司からは、プレゼンテーションの最中に指導を受けたことはある。しかし、同僚や社外の人からは受けたことは無い。しかし、ネットフリックスのやり方は理にかなっている。例えば、研修講師の際、終了後のアンケートで、「早口すぎた」と言われても、その回の受講生にとっては、時既に遅しだ。とは言え、遠慮の気持ちからその場で言いづらいのも理解できる。次回は、1時間程たったら、質問を私の方から投げてみようと思う。「私の話し方について、3択で手を挙げてください。1.遅すぎる 2. 適切 3. 早すぎる」オンラインだと手はもっと挙げやすい。少しずつ工夫を重ねていきたい。

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