例会部会
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『第264回例会』報告

例会KP 増沢 一英 : 3月号

【データ】
開催日: 2021年1月22日(金)
テーマ: 「ソフトウェア品質崩壊はどこから来るのか?」
~マネジメントが変われば、現場は変わる!~
講師: 岸良 裕司 (きしら ゆうじ) 氏/Goldratt Japan CEO

◆はじめに
 今回の例会は、長年に亘り産業界の改善努力が続く、ソフトウェア品質崩壊の問題に切り込みます。講師の岸良様は、本当の成果を生むためのマネジメント手法を、分かりやすく解説され、産・官・学の多数のリーダーや企業から支持されています。今回はどのような視点で解決策をお話しいただけるのか、とてもワクワクします。セミナーは、やっぱりリアルに、という講師のご提案で、顔出し、口出し、アリアリの会議形式で始まりました。

◆講演内容
 経産省の、2005年・組み込みソフトウェア産業実態調査以降、ソフトウェア開発の問題がハイライトされて久しいのですが、未だ解のない状態です。品質トラブルの1/3、納期とコストのオーバーランの50%、がソフトウェア開発のトラブルに起因していると言われています。

 どんな対応策が考えられるのでしょうか

 業績が上がらない分野を改善することは、経営者の喫緊の命題ですが、業務改善の投資効果と期待業績が一致しないのは一般的です。
 「3か月以内に立て直せ」というTOPの至上命令が下り、ふとした気付きからTOCを導入したO(オー)社では、ひと月ちょっとのサムライ育成教育を経て、3か月で開発提案が倍増し、納期 は大幅に短縮でき、見事に至上命令を達成しました。嬉しい副産物として、業務起因のメンタルヘルス事案がゼロになり、文字通り「月曜日が楽しみな会社」に変革を遂げました。
 投資効果と期待業績の不一致には、業績評価の見誤りによる、的外れの改善があります。結果、「的外れの改善は、むしろダメージになる」結果になります。本当に改善が必要な部分を導き出す「プロセス」が必要なのです。
 システム開発の今日の状況は、開発テーマが増加して、リソースが不足し、社外開発が増加しています。それが、コスト、品質、納期の問題多発をひきおこし、会社が破綻するスパイラルに陥っています。リソース不足が発生した時点で、現場はWBSのチケット(タスク)を消化するのに手一杯。現場は疲弊し、繰り返し(イテレーションではありません。見切り発車とリワークです)が発生し、納期のターゲットなど与えようもない。外注ベンダーは儲かるけれど、会社は破綻の構図ができてしまいます。
 えてして、マネジメントは、会議や口出し、チェック、そして、走りながら考えるのを好みますが、盤石の準備(フルキット)にはなっていない。これらが、現場のタッチタイムが10~20%という驚きの実態に、大きく影響している要因です。

 プロセスで現場の問題が明確にできるのでしょうか

 「WIPボード」が紹介されました。現場の仕事の状況をチームとマネジメントで共有しようという活動です。各担当者の、やり残し、未着手、中断中、のタスクの一覧で、チームのタスク進捗表ですが、優先度や事前準備の確認、必要なヘルプの内容とヘルプ先をマネジメントと共有できることが重要です。WIPを使用したB社の例では、30年掛かると言われる開発を3年に短縮、タッチタイムを大幅に改善しました。また、M社では、WIPを、お助けボードと組み合わせ、「みんなで助けてミーティング」を考案、「現場を助けるマネジメント」の醸成と、現場の自律化(Top-Downからの脱却)にも繋がっています。
 さらにM社では、現場のマネジメントが最も注意すべきは、「PDマネジメント」だと言います。PDCAのCとAは、チェックしやすくて、チェックする側はとても心地よいのですが、現場は手遅れになり、作業時間も大幅に阻害されます。間違いなく現場のモチベーションが激減します。目指すべきは、現場とマネジメントが、事前に作業内容を共有(フルキットの準備やODSCなども含めて)した上で作業に取り掛かる、「PDマネジメント」の手法です。それにより、自分の作業にだけ集中する、ロックアウトタイムを設けることも可能で、現場のモチベーションが向上します。

◆まとめ
 数々の作業状況の管理のお話を伺いましたが、どの場合でもマネジメントが忘れてならないのは、未来志向の考え方です。「あと何日かかりますか?」、「助けられることは何ですか?」、「今の問題は何ですか?」、という3つの問いかけです。マネジメントと現場の情報共有が重要です。同じ環境、風土のもとで、会社組織内で発生した改善の流れは、自分からチーム、チームから全社へと伝播していくとのことです。

◆執筆者所感
 幾つもの事例に基づいた、情報の共有と共助、そして、業績の改善、という、理解しやすく説得力のあるお話でした。とても、元気の出る講演だったと思います。同時に、当たり前のことがなぜできないのか、いや、やればできる! WIPボードの効用を考えましょう、そして、会社の風土を変えていきましょう。
 岸良様、楽しいお話、大変ありがとうございました!

 例会では、今後も引き続きプロジェクトマネジャーにとって有益な情報を提供してまいります。どうぞご期待ください。

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