PMプロの知恵コーナー
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「エンタテイメント論」(156)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :3月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

7 本質
●人、物、金、時間等の経営資源不足を「言い訳(Excuses)」にする事
 前号で以下の事を述べた。
  1. 1 映画「椿三十郎」と映画「座頭市」の映画制作の現場で「FantasyとRealityの共存(同時・同質)」への飽くなき追求がなされた。だから成功し、大ヒットを齎せた。
  2. 2 「日本のTV番組」の制作の現場で上記の共存追求が行われず、「Reality」が欠如している。だから世界で最低レベルの番組に変質した。
  3. 3 本稿では映画やTV番組などに関する「エンタテイメント論」だけを論じている訳ではない。生き馬の目を抜く厳しいビジネスの世界に於ける「経営改革(ビジネス・イノベーションを含む)」や「業務改革」などを背後で「意識」しながら論じている。この意識とは、経営改革や業務改革などにFantasyとRealityを共存(同時・同質)させて、成功して欲しいと云う意識である。
  4. 4 本稿ではPMAJの会員の多数を占めるPM従事者とSE従事者の存在を背後に「意識」しながら本論を展開している。その意識とは、彼らがPMやSEの現場でFantasyとRealityを共存(同時・同質)させて、成功して欲しいと云う意識である。

 著名な黒澤明監督や人気男優の勝新太郎が映画の制作に関わるのだから人、物、金、時間などの経営資源は十分満たされていたと思うだろう。しかし実際はその「逆」であった。彼らはそれらの経営資源が不足する事に「言い訳(Excuses)」をせず、不足を補う方法を必死で知恵を絞って見付け、必死で頑張った。と同時に直面する様々な問題に知恵を出す事で切り抜け、やっとの思いで映画を完成させたと聞き及んでいる。

出典:言い訳 drmichellebengtson.com 出典:言い訳
drmichellebengtson.com

 映画制作の場合に限らず、会社経営の場で経営改革(ビジネスイノベーションを含む)に取り組む社長、業務改革を推進する管理者、PMに従事する社員、SEに従事する社員などは、人、物、金、時間などの経営資源不足を成功しない「言い訳」、失敗した「言い訳」にしていないか?

 「言い訳」をする人物は、知恵を絞れば、アイデアを出せば、経営資源の不足を補える方法がある事に気付いていない人物である。黒澤明監督や勝新太郎の実例を引用するまでもなく、知恵で切り抜けた実例が古今東西、無数に存在する。この事も認識していない人物である。

 その中で有名な実例を紹介する。それはライト兄弟の有人動力飛行機(1903年12月17日初飛行)の成功例である。ライト兄弟は知恵を絞り、アイデアを出し、乏しい経営資源にも拘わらず頑張った。一方ライト兄弟に対抗して、豊富な資金を基に当時最高レベルの学者、技術者達を集めて有人動力飛行機の開発に取り組んでいたグループが存在した(筆者は正確な名前は失念)。 しかし経営資源が不足していたにも拘わらず、知恵を絞りに絞って頑張ったライト兄弟が勝利した。その途端、同グループは開発競争から去った。

出典:ライト兄弟の友人動力飛行機

 物、金、時間などの経営資源の不足を成功しない「言い訳」に、成功に近づけない「言い訳」にする人物に如何なる「解決策」があるのか?

 「言い訳」をする知恵を出せない社長や社員の「意識」を改革し、その上で「優れた発想」を生み出すための「発想訓練」をする。この解決策は、相当の努力、時間、コストなどを投下せねば、実効が生まれない。それよりも彼らに外れて貰い、代わりの人物と入れ替えることである。

 しかし入れ替える適切な社長も、社員もいない場合は、ダメな彼らに任せて大失敗するよりも、その成功への挑戦を早めに諦めることである。

●「夢(志、目的、好きな事、やりたい事などの広義)」を持つ意義
 黒澤明監督も、勝新太郎も、楽しい、痛快な、素晴らしい映画を創りたいと云う「夢」を持ち続け、FantasyとRealityの共存を実現するために「優れた発想(アイデア)」を必死で編み出した。そして更なる工夫を積み重ね、「汗と涙と血」を流す事を厭わず、喜んで流す程の「優れた発汗(行動)」を実践し、「成功」させた。

 映画制作の「夢」、経営・業務の「夢」、その他の「夢」など、どの様な「夢」でもよい。その「夢」を持ち、その実現と成功に挑戦すると、不思議な事が起こる。それは「夢」が持つ驚くべきパワーが生まれることである。この「夢パワー」が生まれた事は、古今東西の多くの史実が証明している。この「夢パワー」を最大限に活用して「夢」を叶える「在り方」と「やり方」を説いたものが「夢工学」である。

 紙面の関係で「夢パワー」の説明は別途とする。現在までに発見されている「夢パワー」は10個である。それは①夢実現パワー、②夢成功パワー、③才能パワー、④失敗克服パワー、⑤やり甲斐パワー、⑥生き甲斐パワー、⑦健康維持パワー ⑧癌・病気克服パワー、⑨生命究極維持パワー、⑩死受容パワーである。

 「夢」を持つ事で得られる「夢パワー」は、「優れた発想(アイデア思考)」をするパワーを生み出す。それだけに止まらず、優れた発想を実現させるため「汗と涙と血」を流す事を厭わず、喜んで流す程の「優れた発汗(行動)」をするパワーも生み出す。その結果、「夢」は叶えられる。

 「夢工学」は、「ドリーム・パワー(夢)」、「インスピレーション・パワー(アイデア・発想)」、「パースピレーション・パワー(発汗=行動)」の3つの存在が成功根源的要因となると説く。Success Power = Dream Power+Inspiration(Idea) Power+Perspiration(Action) Powerである。しかしIdeaとActionを生み出すのはDreamである。従って「究極の成功方程式」は、「夢」が唯一の要因となる。Success = Dream 「夢こそ、すべて」である。

Success=Dream+Idea+Action

●映画会社の存立を決める2つの「成功の方程式」
 映画会社の存立を決める要素は①映画制作の良否、②映画事業の良否である。①に関する「成功の方程式」とは、「Fantasy+Reality」の共存(同時・同質)である。②に関する「成功の方程式」は、前号で予告したもので、以下で解説する。

 筆者は、この2つの「成功の方程式」を知った時、自社で脚本から立ち上げ、映画を完成させ、世界的ヒット映画を数年に一度生み出し、毎年確実に収益を実現する「真の映画事業体」としての映画会社は、日本から何故消滅したか?その原因を悟った。多くの日本人は、東宝、松竹、角川などの映画会社が今も存在している事を知っている。しかし本物の映画会社は既に存在しない事を知らない。

 筆者がこの事を悟った20数年前も、今も、日本の映画界の企業人(社長と社員)は、誰一人も悟っていない様だ。悟った人物がいたとしても、その人物は日本の映画会社の再生・発展に挑戦していない。映画を愛する筆者は、この事実を本、雑誌などでその都度、指摘してきた。勿論、PMAJオンライン・ジャーナルで現在連載中の「エンターテインメント論」に中でも、その前に連載していた「夢工学」の中でも指摘してきたと記憶している。

 繰り返しであるが、現在の東宝映画会社は「映画を企画~撮影~制作~配給~収益確保する映画事業を本業とする会社」ではない。「完成した映画を配給する会社」であり、自社所有の劇場等の「不動産を活用運営する会社」である。

●鬼滅の刃(無限列車編)
 人気漫画の原作を劇場版アニメーション化した「鬼滅の刃(無限列車編)」は、2020年10月公開から73日間で観客動員数は2400万人、興行収入は325億に達し、それまで歴代1位を誇った2002年7月公開の宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」の316億円を超え、国内上映映画の歴代1位になった。

出典:鬼滅の刃(無限列車編) kuroteiro.com/wpcontent/uploads/2020/10/B4ai.jpg
出典:鬼滅の刃(無限列車編)
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 ちなみに歴代3位、タイタニック、262億円(1997年12月公開)、4位、アナと雪の女王、255億円(2014年3月)、5位、君の名、250億円(2016年8月)、6位、ハリー・ポッターと賢者の石 203億円(2001年12月公開)、7位、もののけ姫、201億円(1997年7月公開)、8位、ハウルの動く城、196億円(2004年11月公開)、9位、踊る大捜査線THE MOVIE2・レインボーブリッジを封鎖せよ、173億円(2003年7月公開)、10位、ハリー・ポッターと秘密の部屋 173億円(2002年11月23日公開)である。

 劇場版「鬼滅の刃(無限列車編)」を制作した会社は「ufotable社」である。2000年、東京と徳島に拠点を構えるアニメ制作会社。テレビアニメの元請け作品を制作する。脚本~演出~作画~CG~美術~撮影などアニメ制作を自社で行える体制を持つ「本物のアニメ会社」である。

 本来なれば、東宝映画会社などの日本の伝統と実績を誇る映画会社こそが世界に誇る日本の映画制作とアニメ制作の事業を手掛け、立派な本物の映画会社、アニメ会社に成長しているべきであった。そうならなかった最大の原因は、①映画の企業人(社長&社員)の企業家意識が欠落していたこと、②映画ビジネスの2つの「成功の方程式」を知らなかったこと、③知っていても実践しなかったことなどに在る。

●MCA社・社長「シドニー・シャインバーグ」と筆者の面談
 筆者は、既述の通り、「MCAユニバーサル・スタジオ・ツアー・プロジェクトの総括責任者」として部下と共に様々な事に挑戦していた。

 その挑戦課題のコア(核)は以下の質問への答えを見付けることであった。
  1. 1 MCA社は、ハリウッドのテーマパークを如何にして成功させたか?
  2. 2 MCA社は、今後、フロリダ・オーランドのテーマパークを如何に成功させるか?
  3. 3 MCA社は、新日鐵と共に本テーマパークを如何に成功させるか?
  4. 4 MCA社は、本テーマパークを根底で支える「映画事業」を如何にして成功させてきたか?
  5. 5 MCA社は、今後、如何に映画事業を成功させ続けていくか?

 筆者は、開発チームに命じて、世界中のテーマパークや遊園地などを実地調査させる一方、ハリウッドの映画会社、映画企画会社、音楽制作会社などを調査した。そして部下と共に、新日本製鐵のパートナー会社であるMCA社の本社に乗り込んだ。

出典:シドニー・シャインバーグMCA社・社長
search/images;_ylt=sidney+sheinberg+mca+president+images photo_150503488.click 出典:S.スピルバーグ(左)とS.シャインバーグ   
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出典:シドニー・シャインバーグMCA社・社長
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出典:S.スピルバーグ(左)とS.シャインバーグ
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 筆者は、部下と共に、MCA社の映画の企画、制作、その裏方などの活動を詳細に調べる一方、ハリウッド映画界で多大な影響力を持つ人物で、スティーブン・スピルバーグ監督を育て上げた人物である「MCA社・シドニー・シャインバーグ社長」と面談した。

 筆者と同社長との面談内容、同社長がスティーブン・スピルバーグ監督を育てた事などを次号で解説する。また前号で「予告」し、本号で「以下で解説する」とした「成功の方程式」は、申し訳ないが、次号で解説する。

つづく

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