PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (125) (事例 民営化事業)

向後 忠明 [プロフィール] :3月号

 前月号では「ありのままの姿」から「あるべき姿」を見出すための行動ということで、会社の現況を調査するためのチームを作り、各人からのヒアリングそして現地視察を行うことにしました。この結果はインドネシアの場合と文化・習慣・環境そして仕事に対する意欲面においても同じようなものでした。

 ただし、このヒアリングの過程で分かったことですが、インドネシアに比較して、さらに困難な状況がこの国の政治状況にあることもわかりました。
 この国はすでに述べたように宗教の違いからくる内戦が継続中であり、反乱分子(タミール・イーラム:LTTE)によるテロ行為なども頻発していました。
 その端的な例としてN社駐在員がそれに関連する事件に巻き込まれた話もありました。
 それは会社近くのワールドトレーダーセンター(30階建て2棟)ショッピングセンターの近くでの出来事でした。
 N社出身の駐在員の話によると、朝の7時頃ドーンと大きな音がして自分の泊っているホテルの窓ガラスが吹き飛んだということでした。カーテンを閉めていたので破片を直接浴びなかったため大きなけがはしなかったが、破片はベッド近くまで飛んできたということでした。
 原因は反政府の暴徒(LTTE)による爆弾テロということでした。
 この事件の顛末はテロリスト5~6名が大型ローリーで乗り付け、制止しようとした警備員を射殺し、ワールドトレードセンター脇で車両ごと爆破したものであった。
 N社駐在員が泊まっていたホテルはそこから50メータの距離であったので爆風をもろに浴びることになったようです。爆心地に面する側だけでなく反対側の部屋の金属窓枠まで吹き飛んだとのことでした。
 被災状況から見て爆薬は500Kgでかなり大きな規模のものであったそうです。
 その結果、3人ほどN社駐在員も負傷したということですが、他の人は運よくシャワー室や階下のトレーニングセンター等にいたので直撃は避けられ無事だったとのことでした。
 しかし、N社駐在員にとっては初めての経験であり、危険を避けて、結局は数名を残して帰国することになったようです。
 このようにスリランカはいまだに宗教間争いにかかわるLTTE のテロに悩まされている状況であり、そのような中でのKさんの業務が本格的に開始されました。
 このような現状の中でスリランカの各地域の電話局を回り、現地職員の歓迎を受けながらの歓談を通して話しあいを行い、上層部への不満や質問など受けました。

 同時にSLT本社でも同じくN社派遣社員や現地人管理職代表を集めて意見も聞いたりしました。
 その結果わかったことや感じたことを前号で取り上げた項目ごとにまとめてみました。

  1. ① 現状の業務のやり方や問題への対応意識
     公務員であったことを考えると現状の業務のやり方を変えるといった意識は弱い感じである。また、問題が生じても問題意識が希薄であり問題の先取りをし、その解決策を検討することもなく、事が大きくなってからその問題に気がつく。このことは期限順守の意識、・責任意識、責任分担の在り方、・計画性のフォロー(PDCAの実態)に問題がある。

  2. ② 組織体制と従業員の意識
     本社においては多くの場合、部・課長は個室に入り、業務指示は秘書を通じて担当に連絡が行くようなスタイルをとる上位下達であり、また、部門間の調整も希薄であり、完全な縦割り業務で現場の実行段階で問題が噴出している。
     会議のあり方については、頻繁に会議は開かれるが、結論の無い話が延々と続き、会議のリード役としてまとめようとせず、どんどん話が拡散していく。議事録も良く書くがフォローがない。(議事録はイギリス統治時代に培われたものでよく書く)なお、問題発生の場合は一応アジェンダを出して会議を招集するが、部長または課長の独壇場であり部下の意見は余り反映されず階級を超えた大胆な発言はない。
     すなわち、階級意識が強く上司は絶対的な権限を持ち、上位の立場の人への意見は言いにくい雰囲気となっている。

  3. ③ 予算管理の在り方
     予算の算出根拠が詰められないため、安全サイドとなり予算も膨らみがちとなっている。査定機能がなく、設備計画などはODAプロジェクトが多く外国政府が作ってくれた計画に従ったものが多く自分で計画するといった意識や技術もない。そのため、必要以上のスペックとなり高い買い物となっている。
     このことは調達にかかわる問題もあるので、コスト査定を重点的に進める必要がある。

  4. ④ 守秘事項への対応
     社内上層部間での会議が終わった時点でほとんどの社員にその内容が漏れている。また、設備建設にかかわる秘密事項も同じであり、ODAプロジェクト国際入札においても例外でなく、入札評価においても種々の外部干渉がよくある。本件は調達にかかわる問題にも関係している。

 上記は主にマネージメント側に関する一般的な傾向を示していますが、一方の一般社員について述べると彼らは全く管理職を信用せず、組合活動の方にほとんど頼っている状況でした。例えば上層部に意見具申してもほとんどうまくいかないので、意見は徒党を組んで抗議の形でやってくる。
 また、組合のトップは下部組織組合員の無知を利用してマネージメントに対してあらゆる要求をしてくる。
 このためスリランカではSLTに限らず多くの会社では組合との融和が経営上の最も重要な要素となっている。

 以上がスリランカに来てから、社内外の状況を調査した結果の概要です。

 このような状況を見るとほとんどがCAOの役割と考えられ、会社の組織改革の中枢がKさんの肩にかかっているような状態でした。そこで確認された不具合及び問題点を整理し、またその後の業務遂行中において発見したことも含め、CAOは何をどのように進めていくかを分析し、下記のように課題解決の対象として取り上げました。

  1. ① 人事及び労務関係
     スリランカは先に述べたように社会主義政策をとっていたため人事・労務問題は大きな問題であり、特に労働組合対策の成否が会社の盛衰にかかわる問題と考えられ、この対策が第一と考えました。
     特にSLTは管理職組合もあり、この組合長は常に部長を含めた幹部会議などの会社の方針を決める場にも参加しているため、幹部会議の議事内容が一瞬にして下部組織に渡ってしまい秘密も守れない状況となっていました。
     このように人事施策は組織がある限り、政府企業といえどもで、人事システムの改善が今後の検討課題と考えました。そこで具体的な課題解決の対象として下記のようなことが必要と考え、各々下記に示す施策について方針を示し、行動することとしました。
  1. ● 人事評価
     幹部の人事評価を適正なものにするため、まずは幹部(課長、部長、局長、局次長)を中心にこれまでの書類審査だけではなく、人事データを精査し、面接による審査を主眼として行うことで、具体的な業務への態度、考え方そして現在実行している仕事の内容と業務状況を聞くことにしました。
     しかし、幹部だけでも200人以上いるのでCAOだけでは当然無理があり、本件はCEOと共に行うこととし、これを毎年続けることにしました。
     調査の過程でも、あまりにもひどい人事の進め方であることが分かってきたこともあります。例えば人事の時期になると必ず政府高官からの推薦とか脅しに近いものもあり、その結果、無能にも拘らず高位役職になっている人もいました。このようなことの解決においても、適切な能力査定が必要との観点からCEO およびCAOが最終評価の面接を行うことにしました。
  2. ● 昇格基準
     本件は上記の人事評価と深い関係にある。問題は一般社員から管理職になるときに大きな障壁があることが判明しました。
     これまで公務員であった職員の昇格基準では、管理職になるには大学卒であることが前提であり、それも技術系及び財務系のみがその対象であり、その他はどのような学部であっても管理職になれないといったシキタリ?がありました。ましてや大学を出ていない人たちは絶対に管理職にはなれません。
     これが管理職と一般従業員の断絶や組合活動の基になっていると考え、この基準は取り払い、あくまでも業務評価を基準とする方針に見直しをすることにしました。
     同時に人事データの解析も行い、人事評価の結果と照らし合わせを入念に行い、人事データも是正していくようにしました。
  3. ● 調達と不正
     調達と不正は紙の裏表のようなものであり、多かれ少なかれどのような組織にも存在するものです。不正にはいろいろありますが結局は人間のなせる所業です。
     よって、これも人事的処置が必要と考え、以下のような処置をすることにしました。
  • 調達の一元化と契約担当者の定期的移動
  • 常時監視体制の設置と絶え間ない監査
  • 調達手順の作成及びシステムの確立
  • 厳しい懲戒処分とそのシステムの確立
  1. ● 労働組合対策
     スリランカは社会主義体制であったことはすでに述べましたが、どの企業も労働組合対策で悩んでいます。多くのスリランカに進出している各国の企業も組合対策で悩んでいるのが実情であり、中には組合との関係がうまくいかずに撤退する外国企業もあります。
     SLT も例外ではなく管理職組合を含め各団体の労組(32団体)があり、それも政府と強いつながりを持って活動しています。
     上記に述べた人事や調達その他セキュリティーなどの改善策もすべてこの組合の反対でほとんどがだめになっています。
     CEOも労使交渉があるたびにストライキが行われKさんがスリランカに来た時も前CFOやCEOが事務所に雪隠詰めになり、何もできない状態でした。
     このことからも今回のCAOの最も大きな役割はこの組合対策と思っていました。
     以上のことが今回CAO としての課題として、その解決に専念することで、これらの課題解決に動くことにしました。

以降は来月号にて説明します。

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