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日本の危機の認識とプロジェクト・マネジメント活用への提言 (10)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 2月号

Z. 1月号はテーマが大きかったため、簡単に繰り返してみたい。
I. わかりました。日本国の世界戦略は何かという問いに対し、安倍政権はアベノミクスを提案し、財務省が推奨し、前民主党政権が唱えた消費税増税方針はデフレ政策だと否定した。

 理由は1990年に製造業世界一を獲得したが、日本国政府や経営陣はグローバリゼーションへの対策という課題に取り組むことなく、土地買収による財テクが主体となった。結果は1997年にバブルの崩壊である。2000年以降は破産候補企業の救済等も含めて、経済の成長ができず、日本は先進国だけでなくアジア諸国にも後れを取り始めた。
 この機会に国民は自民党から社民系連合に政権を渡してみた。しかし、国家運営は簡単なものでなく、国民の目から見ても、新政権の運営は薄氷を踏む感がした。
 民主党政権は不幸にも東日本大震災に遭遇した上に、福島第一原発での災害対応と難題に遭遇したが、官僚の支援が乏しく立ち往生していた。この困難な時期に民主党に手を差し伸べたのが財務省であった。財務省の指導で野田政権は消費税増税を成立させ、それが野田政権最後のお勤めとなった。
 これに対し、次期政権の安倍政権はアベノミクスと称する経済活性化の政策をかかげて登城し、財務省が行っているデフレ政策の中止を求めた。

 しかし、財務省は「多額の国債の活用は国を亡ぼす政策であること」と「消費税増税は国民が望んだ法案である」と相いれないことがわかり、ひと悶着があった。
 財務省の主張の①8%増税は国として決めたことであり、実行する義務があるという主張、②日銀法では国債を使用できるのは信頼できる官となっていた。

 しかし、アベノミックス派はグローバリゼーションに対する政策として、世界で通用しているインフレ政策をとるため、米国イエール大学浜田宏一名誉教授の力を借り、世界的に例のない日銀法の改正を求め、アベノミクス実施を成功させた。

 ここで1997~2018年までの欧米労働者の賃金の推移と日本の賃金を示す。
 英国93%、米国82%、フランス69%、ドイツ59%増、に対し、デフレ政策の日本の賃金は8%減であった。
 インフレ政策とデフレ政策に関しては、次号で議論させていただき、消費税増税というデフレ政策と最低賃金法による国民の受ける打撃を説明する。

Z. Iさん、前政権の悪法を改定する権限は選挙の結果実施できるはずだが、まずはアベノミクス側の説明をお願いしたい。
I. アベノミクス実施とそれに対する財務省の対応
国内でインフレ政策とデフレ政策を両立させるとどうなるか考えてみてください。
(1)アベノミクス実施
第一の矢【金融を緩和する】:
  1. ①緩やかなインフレ率2%を採用し、景気を回復させる。
    結果は2%まで上昇しなかったが景気回復に自信を持てた。評価:50%の成功
  2. ②アベノミクスの方針は前政権のデフレ政策により10年間で8%に減った賃金を欧米並みに回復させることが第一の矢の目的でもあった。ここで第一の矢には後始末がある。景気回復で大企業に余剰金が残されていた。余剰金は社員の報酬の増加ができる収益をあげていたので、当然昇給できるものと考えていたが、財務省突然、消費税増税を実施した。
  3. ③このため国民のインフレ気分が阻害され、財布の紐を閉じたことで不景気に逆戻りした。ここで財務省は「消費税8%増はすでに国民との約束事であり、国民が望んだことを実施したに過ぎない。アベノミクスはこの先自由に方針を進めればよい」という内容であった。
第一の矢【金融を緩和する】:
  1. ①アベノミクスは2年後、2度目「緩やかなインフレ政策」お実施し、インフレ率向上で成果を上げた。
  2. ②そこで財務省は時を移さず10%増税を実施した。当然「緩やかなインフレも効果を発揮できなかったが、更に問題が発生した。
  3. ③ここでも大企業は社員の昇給を実施せず、景気の回復はなされないまま、突然のコロナ発生があり、更に財務省のデフレ政策は続いている。
  4. ④ここで重大なことがわかってきた。大企業はコロナ対策もあるのか、グローバリゼーション対策費として、大幅減税を受けた。2,3の書物からわかったことはアベノミクスで社員の昇給に使う予定でいた大企業の余剰金は社員の昇給に使われず、新規投資によるGDP向上にも寄与させず。大企業への減税を実施した。
  5. ⑤国の財務に明るい人の2,3の本を読むと10年間で400兆円強とあった。
  6. ⑥これに対しアベノミクスは苦情を言う権限を行わず、安倍総理の健康上の理由として辞任した。これまでも日本の官僚は政権のわずかな法規違反を蓄積し、切り札としてつかってきた。森友・加計問題への追求、桜見物へ等へのメスが入ると勝ち目がないことは明白である。
  7. ⑦しかしアベノミクスは菅政権に受け継がれているので終わったわけではない。運悪く菅政権はコロナ地策で精一杯で、簡単に勝利は得られない要素を抱えている。
I. 以上がアベノミックスの近況です。

Z. わかりやすい説明ありがとう。なぜ、官僚が時の政権の政策を失敗させる方向を選んだのか理解に苦しむが、誰からも苦情はでていない。
I. それは安倍政権の評判がよいことが原因かもしれません。官僚が時の政権に逆らうことができるのは、後ろに米国がいるからでしょう。今の米国はWASP(白人・アングロサクソン・プロテスタント)の国ではなくなりました。支配者は米国に金を貸す集団です。
Z. グローバリゼーションといえば国境のないインターネットの世界で、誰が支配しても構わない社会が生まれたということか。
I. 強国が他国を支配するという政策をとる国は大きく成長できないと思います。日本の製造業は団結心と、改善で世界を制覇しました。ところが今は金が金を生む経済に代わってきました。株主優先の社会になりました。21世紀になり米国の真の支配者は新しいことに気が付きました。製造業を米国以外の条件の良い国(人口が多く、これから成長率の高い国に狙いを定めて、実現しました。中国に大規模な生産工場を建設し、 米国で生産していた多くの製品、これから発達する技術を使いながら行う産業もふくめて、グローバル資本の米中合弁会社が世界を支配しています。今米国で起こっていることは「民族ユダヤ」と「経済ユダヤ」の戦いで、「経済ユダヤ」が強引な手法で選挙を制し、経済ユダヤの政策進行がかなったところです。
Z. なるほど、ユダヤ資本は「株主資本主義をかかげて奮闘し、世界を支配しているわけだな。
I. 私たちは世界の流れに外れるわけにいきませんが、日本独自の戦略をもたないと、痛い目にあいます。私たちはその目で今回の官僚が行っている独自の政策が国のためになっているのか、世界の流れに沿いながら、日本国民の持つ特異性をどのように生かすか考えるべきと思います。
Z. どうせよというのかな?
I. まず、官僚が進めている政策のやり方と、それによって起こされている問題の理解をすることです。
Z. 官は政策変更を実施しはじめたということか。説明してもらおう。

I. 次に財務省が実施した政策が(消費税を定期的に増税する方式)が正しいか、国債を使って目的を達するアベノミックス(改良)方式がよいか、検討してみます。
【アベノミクスの真相】
ⅰ)アベノミクスの出現:1997年バブル崩壊後日本は経済が低迷し、物価・賃金が下がり続けるデフレになやまされた。大蔵省はバブル崩壊後汚名を防ぐために、デフレ政策を続けてきた。その政策がもとで、デフレスパイラルとなった。ところが財務省は2013年夏、国の借金が初めて1,000兆円を超えたことに驚き、国債の発行の節約と、消費税増税を進めた。この政策により、更にデフレが進み、経済が縮小し、国民の給料が下がる方向に動いた。

財務省が進めるデフレ政策は『江戸時代の松平定信が田沼の政策を廃棄し、厳しい節約を進めた。田沼批判で評判をあげた定信の政策は遊びや音曲等を敵視した。
ところが定信の政策は、これらの節約のため、それに関与する江戸町民の収入が減り、逆に経済全般が疲弊し、定信は最後に罷免された。現代でも経済全般が縮小する方向に動いている。

家庭での節約と、デフレ政策での節約は大きな違いがある。
家庭での節約のケース:
☆Case1. 我が家の節約:1,000万円の貯金がありました。今は不景気なので家計を節約しました。家族は毎月収入が入っており、不景気になって節約したため、貯金が増えました。「経済の原則でいうと通常インフレの場合、お金の価値が下がるので、必要なものを早く買った方が得です。不況になると、物価が安くなり、買い物をすると明日は安くなっているので貯金した方が得になり、家庭は貯金がたまり損をしませんが、それが長く続くとデフレスパイラルといって経済が崩壊します。次に起こるのは銀行の破産で共倒れとなります。
☆Case2. 企業が新しい事業を始めます。景気が上向くと企業は生産をあげる政策を行います。このため収益が上がり、社員の昇給も実現できます。デフレになると、景気動向を眺めて、企業は仕事を減らしますから、企業の収入は減り、リストラの危険があります。企業にとってデフレは首切りの対象者が増えることもあり、長引くと倒産します。
☆Case3. 不景気がながびくと、民間では新しい投資は危険でできません。そこで国は景気対策として、国家事業をおこします。例えば公共投資です。この場合は2月号図1的な動きをとります。出典:三橋貴明著【日本をダメにした財務省と経団連の欺瞞】

ⅰ)図1.国は1,000億円の橋梁建設投資を企画します。
  1. ①日本政府は国債を発行し、市中銀行Aから日銀当座預金を借ります。
  2. ②日本政府は借り入れた日銀担当預金を担保に、材やサービスを生産した企業への支払いを市中銀行Bに指示します。
  3. ③日本銀行が政府と市中銀行の決済を、日銀当座預金で実施する。政府の日銀当座預金が、市中銀行に移る。
  4. ④日本銀行が新たに日銀当座預金を発行し、市中銀行が保有する国債を買い取る。上記の一連のプロセスにより、政府の実質的負債(いわゆる国の借金)を増やすことなく、民間の企業や家計において銀行預金という「財産」が増える。
  1000億円の公共投資で橋梁を建設案件の国債と金の流れ
   読者の皆様しっかり理解されたでしょうか!
国が重い腰を上げて、景気対策を考えると、 Case3のように国の借金もなしに橋も建設できてしまうという話です。これを要約すると

  1. ①国は橋を建設することに有意義を感じ橋の建設を企画します。
  2. ②予算がないと橋はできない。そこで国は国債を使って完成しようと考えた。
  3. ③政府は国債を発行して、市中銀行Aから日銀の当座預金を借ります。
  4. ④政府は日銀から借りた予算で橋の費用をすべて支払うことを市中銀行Bに命じる。
  5. ⑤次は日銀が政府と市中銀行の決済を日銀当座預金で始末する。
  6. ⑥次に日銀が新たな日銀当座預金を発行し、市中銀行Aが把持する国債を買い戻す。
  7. ⑦残ったのは橋という便利な公共施設が活躍し始めたーーーということです。
ここにはすべて負債関係がなくなったのです。
それは何でしょうか。橋梁建設に関与した人が、自分の持つ能力を発揮し、能力に見合った報酬をもらい、公平なる評価でえた成果が橋の完成に寄与し、人間が価値創出を実現した。そして公平な人間評価が行われたことで、優れた成果物が生まれたということです。そこには人間への尊厳が感じられます。

Z. 上記の方法で、橋という国の財産が残り、同時に国民はそれに見合った現金が渡される。そして日本のGDPが増えることで、経済の拡大が達成された。なぜ、GDPの増加に官僚が反対するのか?私は日本の政治・経済の動かし方に対するレベルの低下に恐ろしさを感じる。
I. その通りです。日本では官僚の天下りが常識のように書かれていますが、天下りとは生産性のない仕事の典型で、世界に向かって恥さらしではあれ、誇りになる事柄ではありません。報酬に不満があるなら、日本の官僚の実質的定年が早いわけで、卒業後国際機関で働けば昇給は確実で、自分にも、日本にも大きな貢献ができるはずです。それが最近の私の履歴書で、国際機関で働く日本人がへり、私が最後の日本人となってしまったと書かれていたことに驚かされました。
Z. 日本の優秀な官僚が日本を大いに宣伝するべきである。最近の韓国の戦時中の慰安婦問題、戦時中の強制労働への要求、すでに解決した問題を繰り返し、私は理解していないと、事実を無視した話を国際機関に持ち込み、欧米での新聞に書かれて恥ずかしい思いをしているのに、なぜ国際機関で反論しないのか? なぜ、日本人に対し、官僚への尊厳を示し、国際機関でへりくだっているのか説明してほしい。

3月号は日本企業の組織の在り方に関する評価をしてみます。

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