図書紹介
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アンコンタクト 非接触の経済学
(キム・ヨンソブ著、渡辺麻土香訳、(株)小学館、2020年9月14日発行、第1刷、312ページ、1,700円+税)

デニマルさん : 2月号

今回紹介の本は、新型コロナウイルスの感染拡大で混迷をしている社会現象をトレンド分析したものである。オビの宣伝文には「移動・対面を禁じられた人類は新たなステージへ」「ヒトは、それでもつながりたい」とコロナ感染の防止策から見えてきた問題の本質を書いている。新型コロナウイルスを含む感染症の蔓延を撲滅するには、人の移動や接触を絶たないと人から人への感染を防ぐことは出来ない。これは人類が歴史上から学んだ叡智である。だから都市封鎖のロックダウンや外出禁止等を強制している。それでも簡単にウイルスを抑え込めない状況から、ワクチンが供給されるまで我慢を強いられていた歴史がある。この本は、韓国で新型コロナウイルスの抑え込みに一部成功した事例からアンコンタクトの事象について書いている。著者が本書を執筆するキッカケとなったのは、日頃の研究テーマから現在の危機的状況を見極められた事と外出禁止令で時間的な余裕が出来たからだと書いている。そのポイントは韓国での初期段階の感染防止策がティッピング・ポイント(小さな変化が蓄積した結果、ある時点を境に劇的な変化を起こす現象)になり成果を収めた。それが“アンコンタクト”であると書いている。WHO(世界保健機関)は2020年3月11日、新型コロナウイルスの感染拡大にパンデミック宣言をした。その時点で世界の感染者は107国、11万人強、死亡4千人強(日本は568人、死亡12人)であった。その10ヵ月後の2021年1月末での世界の感染者は9,875万6千人強、死亡212万1千人強(日本は361千人強、死亡5千人強)である。その間、各国は懸命に外出禁止やPCR検査体制の強化と隔離政策で感染防止に取り組んだ。一時期感染拡大が抑え込まれたのだが、第二波(2020年8月頃)から第三波(同年12月)へと拡大が広がっている。そんな中で台湾、中国、韓国、ニュージーランドやシンガポールでは、感染防止に成功している。それらの国々の共通点は、感染拡大初期の段階での徹底した外出制限とPCR検査の拡充と隔離政策等を徹底していたと報道されている。それが「アンコンタクトの徹底」である。そこで今回紹介の本から、新型コロナウイルスの感染とアンコンタクトの本質的な関係を確認してみたい。それが感染防止に少しでも役立つ事であるなら、自分の出来る事として努力してみたい。筆者は後期高齢者であり、新型コロナウイルスに感染したら重症化する可能性が高い。しかし、外出自粛しながらでも出来る有効性の高い情報収集や、情報公開なら自宅でも可能でありトライしてみたいと思っている。本題に戻って、著者を紹介しよう。キム氏は韓国でのトレンド分析専門家で、経営戦略コンサルタント。サムスン電子、現代自動車、LG、SK、Lotteなどの大企業や韓国政府の企画財政部、国土交通部、外交部などで講演、ビジネスワークショップを実施している。著書は「ペンスの時代」「トレンドヒッチハイク」等がある。本書は初の邦訳とある。

アンコンタクトとは?           ――新型コロナウイルス発生――
アンコンタクトとは、非接触、非対面で、人との接触や繋がりを持たない意味で、人としての本来あるべき姿を否定せざる得ない状態である。然しながら新型コロナウイルの発生で、感染防止の観点からのアンコンタクトを与儀なくされた状況であり、不条理な状態の強要である。しかし歴史的には、この状態から人類は、生き延びる術を探って現在に到っている。現実はどうかであろうか。今世界中で新型コロナウイルスの感染防止で目先の不安に慄きつつ、過去の経験からアンコンタクトを貫くべく奮闘している。しかし、現在の発達した科学技術から、インターネットやPC技術を駆使した「つながりの拡張」を新たなトレンドとして模索している。従来からあるテレワーク、リモートスクーリング、リモート〇〇等々。現在のIT産業が志向している人工知能、自動運転、ロボット化、スマートシティ-等の目指す先は、アンコンタクトを超えた新しいコンタクト形態ではないかと著者は纏めている。

ソーシャルディスタンス?         ――パンデミックとの闘い――
新型コロナウイルスは感染症であるが、感染経路は空気感染ではなく飛沫感染であると初期の段階で解明された。WHOは、感染防止の観点から人との対面を1~2メートルの間隔を持つべきと勧告した。それが世界的なソーシャルディスタンスとして、全ての場面で適用された。その結果、欧米での挨拶形態である握手、ハグ、ビズ(頬へキス)等のスキンシップは厳禁となった。ここでも人としての普通のコンタクト文化は制約され、肘と肘のコンタクト形式の挨拶に変更を余儀なくされたと著者は書いている。日本や韓国の挨拶形態は、昔から「お辞儀」であり、感染症には関係無く継続できる生活様式である。もう一つ、日本には風邪や花粉症防止にマスクが習慣化していて、感染症防止や予防に有効性が高いと評価されている。筆者は、こうした結果から日本での感染拡大が抑えられると期待していたのだが。

ディストピア化か?            ――コロナ禍終息後の社会――
新型コロナウイルス感染拡大を抑え込む方法は、ロックダウンや外出禁止の制限等を行い、人との交流や接触を断絶している。いわゆるアンコンタクトの強制である。しかしながら、感染を抑えることが難しく、大きな犠牲を強いられている。著者は、「新型コロナウイルスによって、私たちは強力な統制を経験した。統制の効果を見た政府は、牽制と透明性が十分に確保されない国家において、ディストピアは現実化しやすい」と書いている。ディストピアとは、ユートピアの対義語で自由が制約された全体主義的または管理主導的な社会として使われている。小説「1984年(J.オーウエル著)」で書かれた社会である。著者は新型コロナウイルスがワクチンを含めて制圧された結果、それ以降の社会を憂慮している。先日、筆者は台湾のオードリー・タン氏(デジタル担当大臣)のインタビューを聞いた。台湾での新型コロナウイルスの感染防止では、政策実行の透明性と公平性を配慮して迅速に行った。その結果、国民は安心して政策に従い、その過程で相互の信頼関係が一層増したと語っていた。この国民との信頼関係の積み上げこそが、感染終息への近道ではないかと強く感じた。

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