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技術開発・挑戦のきっかけ
あるWGの打上げで、他の組織のメンバーより、「沖縄の漁業が遠洋化・長期化・高齢化しているので、安全確保のため安定した遠洋海上無線通信を開発できないか」との相談を受けた。1000㎞を超える距離の無線通信は、既存の衛星回線通信や短波帯域アナログ音声通信技術では、海上特殊事情に対応できないし、単純デジタル化でも解決できず、新たな技術開発が必要であった。
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技術開発・実証のプロセス
技術開発・実証に向けて、研究開発を開始し、プロジェクト化した。実証実験を成功させるために、無線局免許取得準備、周波数の選定、受信局の設置、船舶局実験船の確保などの準備を入念に行った。開始してから、約1年半間に及ぶプロジェクトであった。
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技術開発
必要な技術は、ワイヤレス通信技術とセンシング技術であり、二つの技術の融合が重要であった。また、幅広い技術と法制度のクリアが鍵であった。最初はプロジェクトを中心に富士通関係者で取り組んでいたが、プロジェクトが進むにつれ、省庁、無線機器メーカーなどの企業、大学等が集まり始めた。あらゆる業界のあらゆるステークホルダーとの協調により、課題がクリアになっていった。ステークホルダーから賛同を得るためには、目的の明確化と広い効果の想定が重要であった。
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プレ実証
実証実験前には、沖縄の海洋で、調査船や漁船に乗りこんで、通信の検証を行った。プレ実証では、あらゆる状況・「想定外」をも想定する力の必要性を感じた。そのうえで、それでもおこる「想定外」は 現場の工夫と技術力で乗り越えるしかない。
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実証実験
技術開発しても実際に使えなくては意味がなく、実証実験が重要である。船に乗り込んで、船酔いと不規則な睡眠時間に耐えながら実証実験を重ねた。通信の技術実証はできるだけ実用環境で行う方針のもと、船舶の現場に実機を搭載して、操業中に運用した。
第一に、船舶位置情報の描画に成功した。漁船の場所や動きが分かることにより、長期に漁に出ている人の家族に安心感を与えることができるなどの効用がある。第二に、新方式の天気図コンテンツ配信に成功し、これまでの常識を覆した。第三に、津波の計測と実測に基づく予告技術等を開発した。災害の多い日本にとって意義深く、目的別にカスタマイズすることにより、急速に応用先が広がっている。 |
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まとめ(メッセージ)
プロジェクトの経験に基づき、二つのメッセージを語られた。
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向き合い方を知れば新たなスタイルにも対応できる
・あらゆるリスクを想定する力が必要
・判断力と判断速度が必要
・自律的に稼働できるチーム作りが重要
・権限の付与と行うべき職務への集中
・広範囲でかつ高い技術力が求められる |
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人のつながりと多様性を重視すべし
・計画と予測が難しいからこそ多様性が重要
・フラットな組織間はリーダが信頼と信用でチームを接合
・プロジェクト推進中にステークホルダーが増加することがある |
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