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グローバル人材力

井上 多恵子 [プロフィール] :1月号

 今回は、「多様な国籍の方々と一緒に、仕事を通じて成果を出していくために必要なマインドセットと行動・スキル」についての私の見解を共有したい。先日社外の人事担当者や海外事業担当者向けに、グローバル人材について話す機会がありまとめたものをベースにしている。以前日本プロジェクトマネジメント協会の例会でも同様なテーマで語ったことがあり内容は一部重複するが、その後の経験や学びを踏まえて、より進化・整理している。
 英語力がどんなに高くても、「マインドセットと行動」が備わっていないと、グローバル人材としては通用しない。その観点から、押さえておきたいのは、「マインドセットと行動」と「スキル」で、前者には、以下の2点が特に大事だと考えている。
1. 多様性を受け入れて、その場面(コンテキスト)に合った適切な行動をする。
2. パッションに基づいた積極性、ハングリー精神と、継続学習意欲を持ち続け、それらを活かして実践する。
 まず、1.の中にある「多様性を受け入れる」。「ダイバーシティ」という表現がよく使われるが、実はこれだけでは不十分で、「インクルージョン」も備わっている必要がある。「ダイバーシティ(多様性)」はあくまでも、女性・外国籍・障害者や女性管理職の方々が全社員の何%を占めているのか、といった数値的なことしか示していないからだ。実際には、数値目標を達成して終わりではなく、マイノリティと言われる方々も含めて、その組織に所属するメンバー全員が、「自分は受け入れられている(インクルードされている)。ありのままの自分でいることができる。」と感じることができて初めて、多様性が生きてくる。そのためには、『プログラム&プロジェクトマネジメント標準ガイドブック』の「多文化対応」の章でも書かれているように、「相互の違いを受容し、その前提の上で関係性を築く」=自分と異なるものを排除するのではなく、受け入れる姿勢が大事だ。
 さらにそのためには、「好奇心を持ち、自分のバイアスを認識」することも不可欠だ。「こういう場面で日本人が一般的に取りがちな行動と、違う点は何か。どういう背景からこういった行動を取っているのだろう」といった問いを自分に投げかけることができる好奇心。英語だと、”I am curious.”などと前置きしてから、「その背景を教えてもらえませんか」と言ったりする。「バイアス」というのは偏見で、「脳のショートカット」とも呼ばれている。わかりやすい例で言うと、特定の国の外国の方をステレオタイプ化して、「○○人だから△△という行動をするよね」と考えることだ。ざっくりと捉える時には便利な考え方だが、自分が今接している特定の人が、必ずしもそういう行動を取るかどうかはわからない。一度思い込んでしまうと、その枠からなかなか出ることができないので要注意だ。バイアスはなくすことはできないと言われているので、「自分に何らかのバイアスが存在している」ことを認識した上で、それによって影響を受けているかもしれない自分の見方や考え方を調整することが求められる。
 1の「その場面(コンテキスト)に合った適切な行動をする。」というのは、例えば、インドに行くなら女性は肌をなるべく見せない服装をする、仕事の役割がどうアサインされているのかを知り、例えばコピーを取る役割の人がいれば、自分でやる方が早い場合であっても、その人にお願いをするといった行為だ。
 2の「パッションに基づいた積極性、ハングリー精神と、継続学習意欲を持ち続け、それらを活かして実践する。」についても見てみたい。「パッション」は「自分が何をやりたいのか」という熱い想いだ。それを「Why=どういう背景でそういう想いを持つようになったのか、何を実現しようとしているのか」といったことと合わせて伝え、周りの人々を巻き込む。コロナ感染の状況を踏まえて、普段感情を表に出さないドイツのメルケル首相が、感情を込めて国民に訴えたのも、その一例だ。
 「積極性」の典型的な例は、会議の結果を左右する重要な一員として、「会議の場で自分の意見を積極的に述べる」ことだ。「ハングリー精神」は、他国と比べると安全で平和で経済力もある日本に生まれ育つと身に付けづらいものではあるが、グローバル人材としては醸成したいものだ。例えば北欧の人達が上手に英語を話すことができるのは、「英語ができないと、良い仕事になかなかつきづらい」という事情があるからで、英語学習への必死さが違う。そして、「継続学習意欲」。60歳を過ぎたら上がりなのではなく、例えば私が数年前に参加した人材育成の国際会議では、目を輝かせてセッションに精力的に参加している60歳を過ぎたアメリカ人を何名も見かけた。
 これらに加えて、共通語である英語についても、「実践的な英語力」が求められる。これについては、またの機会に詳しく触れたいと思う。

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