投稿コーナー
先号   次号

高速シミュレーションをする力

井上 多恵子 [プロフィール] :12月号

 「コルブの経験学習に、もう1ステップ追加すると、もっと上手くいきそう!」経験学習をベースにした私なりの新しいフレームワークの仮設を言語化できた時、「私も成長したな」と感じることができた。フレームワークが何なのかすら知らなかった時からスタートして、学んでも、活用できないままでいた時代があった、その後、社内講師として問題解決やロジカルシンキングなどを繰り返し教えるようになる中で、私自身がフレームワークを活用して思考の整理などに使い始め、成果を実感し始めた時代、そして、今回、複数のフレームワークを組み合わせて、私にとって役立つ進化版フレームワークを考えることができた。
 
 追加した1ステップを紹介する前に、まずは、コルブの経験学習の説明から始めよう。PMC講習会のテキストにも入っているが、経験から学びその後の行動を改善するための考えだ。何らかの経験をした後、経験しっぱなしにするのではなく、下の図に記載の通り、何が起きたのか、上手くいった原因は何か、上手く行かなかった原因は何か、を内省する。そして、他の場面でも応用できるように、その気づきを俯瞰して捉えて抽象化する。そして、他の場面で試してみて、結果を見てまた内省するというサイクルを繰り返していく、というものだ。例えば、ある役員にプレゼンをするケースで、事前に念入りに準備したにも関わらず、会心の出来栄えにならなかったとする。何が起きたのかを振りかえってみて、○○役員から資料の中で漏れている要素を指摘されたと言う事実を把握できたとする。それがなぜかを考えてみると、○○役員が関心を持っている社会への貢献の要素が欠けていたことに気づく。それを抽象化して一段高いレベルで考えると、相手の視点で考えていなかったことが原因だと気づく。その気づきをもとに、次回プレゼンをする際は、「相手目線で考えよう」と心に決める。そして、プレゼンをする機会がまたあった時に、「相手目線で考える」ことを試みるという一連のサイクルだ。
 
コルブの経験学習  
 私の場合、これだけだと上手くいかないことが多い。なぜか?プレゼンをする機会があった時に、「相手目線で考える」ことが落ちてしまうことがあるのだ。それを防ぐために今回考えたのが、「高速シミュレーション」だ。プレゼン資料を作成し、いざプレゼンをする前に、一瞬立ち止まって、「○○役員にこの資料で今考えている形でプレゼンをしたら、○○役員はどんな反応をするだろうか」ということを頭の中で高速にシミュレーションをしてみるのだ。そうすると、例えば、「あっ、こんな質問が出そうだ」と気づくことができたりする。「次はこうしよう」と決めたことを思い出せなかったとしても、シミュレーションをすることで、潜在意識に入っているものを引っ張り出すことも可能になる。
 
 「高速シミュレーションをする」ための練習の機会は、身近にたくさんある。例えば、在宅勤務が日常化した家庭内。3月以降、私と私の夫は基本在宅勤務で、普段は同じ部屋で仕事をしている。同じ部屋にいるのだが、下の図のように、長方形の右先に小さな正方形がついたような形に部屋がなっているため、座った状態だと、お互いが何をやっているのかはわからない。
 
コ長方形の右先に小さな正方形がついたような形に部屋がなっている  
 一定のプライバシーが保たれているというメリットはあるのだが、この部屋のレイアウトにより、弊害も生じている。例えばこんなことがおきる。オンラインでのセミナーを聴き終わった時点で、気分転換に夫に話しかける。すると夫から、「会議中!」と冷たい声が一言かえってくる。その度に、後悔する。「そうだった。夫は会議中かもしれない。どうしてそんな簡単なことを忘れたのだろう」と。「どういう状況か」という内容が毎回異なるものを「忘れないでいる」ことに頼ろうとすることが、間違っているのだ。そうではなく、「高速シミュレーション」を毎回すればいい。声をかける前に考えるのだ。「今声をかけたら夫はどんな反応をするのだろうか」と。すると、彼が会議中というケースを思いつく可能性がでてくる。
 
 仕事でもそう。仕事仲間からのチャットやメールを読んで、瞬間湯沸かし器のように、頭上に湯気が立つことがある。そんな時、「目には目を。歯には歯を」と勢いにまかせて、相手のできていないところを責めたり自己防衛したりするためのメッセージを送り、悪い方向にエスカレートすることが何度かある。そんな時も、「このメッセージを今送ったら相手はどんな反応をするのだろうか」と。シミュレーションをすることで、逆効果になりかねない行為をやらないという選択肢も見えてくる。
 
 経験学習の最後のステップに、高速シミュレーションを追加してみることを今後も継続して実施し。そうすることで得られたメリットを事例と共に、この場でまた共有したい。

ページトップに戻る