グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第151回)
リモート・・・光と課題

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :1月号

 新型コロナウィルス感染予防でもあるが、出かける用事が無いので家に籠っているが、いつになく忙しい日々を送っている。以前、地元自治体の問いかけを引用して、シニアには「きょういく・きょうよう」が必要だと書いたことがある。この言葉は、教育・教養ではなく、「今日行くところがある」、「今日用事がある」、の意味である。筆者の現在は、今日用事はあるが、今日行く、ところはなくなった。
 11月中旬から1月中旬にかけての「用事」は、講演ビデオ2本の収録、インド選抜世界PM大会(バーチャル開催で3日間)での基調講演とクロージングパネル出演、海外産業人材育成協会から発信の、途上国世界全域に向けての3時間のP2Mエッセンス講演2回だ。本番自体は合計10時間であるが、本番に至る準備には最低30倍は必要であるので、土日を含めて1日のうち5時間はシャカリキに働いているという計算になる。
 
 昨今の講演はすべてオンラインライブまたはオンデマンド・ビデオ収録に依るが、この準備にかかる時間は、対面での講演や研修を行うよりも約3割増しという計算になる。つまり、1時間の講演(プレゼンテーション)を行う、とすると、
 
1 ) 講演用のPowerPointスライドを作る時間は対面講演と変わらず、構想に2時間くらい、スライド作成は講演時間の5倍くらいでできる。
2 ) 出来上がったスライドを元にスピーチの構想をつくり、まずは、スクリプト(ノート)なしでプレゼンテーションの基本構成ができるまでに講演時間の10倍くらいかかる。ここまでが基本設計で、17時間くらい。
3 ) 次に、詳細設計に入り、各スライドについてスクリプトを作り、行ったり来たりで、初稿スライドを修正する、これに5時間くらいかかる。論文や記事と異なり、英語の語順などを、聴衆の耳に入りやすいように丹念に揉まないといけない。
4 ) 最後はドライラン・モードで、ビデオ会議ツールを起動し、通しでプレゼンテーションのリハーサルを5回から8回行って、準備完了。
5 ) ドライランは、講演前にあまりに早く仕上げると、最盛期に比べて記憶力が半分程度になっているので、仕掛けのタイミングが大事になる。
6 ) ここにはノーカウントであるが、一発勝負の基調講演を行う場合は、数か月にわたり、文献やニュースサーチが必要な場合もある。

 対面講演であれば、3)は不要で、4)のリハーサルもせいぜい2回程度で済む。講演、研修あるいは授業は、参加者との掛け合いでリズムができて、現場修正力も働く。オンラインの数時間の講演やセミナーでは、参加者との会話ができにくいので、リズムが単調になりやすい。正確に話そうとするので、お行儀がよいが、田中節さく裂とはならない。
 
 そういう中で、日本プロジェクトマネジメント協会に収録の支援をいただいた、客員所属大学向けの教員研修用のオンデマンド・ビデオ収録は良い作品となった。大学の要請によりリカレント教育(社会人大学生の教育)について述べているが、現役の晩年に収録したビデオは筆者が大学の教員でもあることにピンとこない家族にもライブな活動の記録が残せたと喜んでいる。
 
 12月14日から17日まで、インドCEPM主催の第2回World Project Management Forum に出席した。インドはコロナ感染が極めて多い国であるが、主催者Adesh Jain氏の執念、CEPM機構の職員の献身的な準備努力、そして世界のPM Thought Leader達の協力で、750名の参加を以て盛大に終えることができた。
 
WPMF大会のトップページ 上段右から7番目が筆者
WPMF大会のトップページ 上段右から7番目が筆者
 
 筆者は、昨年に続き、というより、出席すれば恒例となっている、開会式直後の60分の基調講演とクロージングパネルのパネラーを務めた。基調講演は734名が聴講した。
 昨年、開会式の海外代表式辞と基調講演を行ったこともあり、今年もその延長ではあるが、77歳になった今、60分のオンライン・ノンストップ・ライブ講演はかなりきつい。今回は、インド以外から、筆者を除いて20名のスピーカーが出演し、そのうち半数は世界的な権威や著名なスピーカーであるが、インドの基調講演には独特の世界が必要であり、主催者も迷って、結局安全牌である筆者にまたお鉢が回ってきた、というストーリーであると理解している。
 
世界5都市を結んでのクロージングパネル 筆者の宝となったのはクロージングパネルだ。主催者Adesh Jain元IPMA会長、1990年代から2000年代までスーパースターであった元米国DODのWayne Abba氏、元IPMA会長Veikko Välilä氏、現在のスーパースター Risk Doctorこと、Dr. David Hilsonと共演でき、大会総括と次年度WPMFに向けての提言を行い、多分現役最後の大舞台となった。
世界5都市を結んでのクロージングパネル

本大会は、単に世界からの講演の集積で世界大会とするだけではなく、参加者間のネットワーキングを促進する、大会の表に見えない主催者ロジスティックスを代行するという趣旨で、米国のバーチャル大会プラットフォーム Whovaを使用した。Whovaは次のような素晴らしいパフォーマンスを発揮した。
  • スピーカーが行うべきアクションにつき、頻繁にリマインダーがでる。
  • セッション情報やスピーカー情報が大変見やすく提供される。
  • 参加者が大会参加登録をすると参加者DBができて、アクセス記録から、スピーカー専用ハブには、セッションに実際に参加した参加者の氏名、所属先、スピーカーへのメッセージのすべてが提供され、更新は大会後も続く。これにより、スピーカーが希望すれば、特定の参加者とのコンタクトが可能となる。
  • 参加者は、自由に自分の興味トピックスンにつきチャットチャンネルを立ち上げることができ、125のチャンネルができた。全参加者は、どのチャンネルにも自由に参加できる。全チャットチャンネルにおける発言数のコンテストもあり、特定時点の上位10名が表示される。
  • 大会主催者とスピーカー全員のコミュニケーションチャンネルが提供され、1対オール、あるいは1対1で密な対話ができる。
 しかし、このプラットフォームには問題があった。バーチャルビデオ会議システムは独自のシステムを持たず、ZOOM、Microsoft Teams、Cisco Webexの3つから選択して組み込む方式をとっており、今回はZOOMを採用した。これで、スピーカーは当初安心したが、実際に大会が始まるとWhovaに組み込またZOOMとWhovaのプラットフォームのエミュレーションがうまく行かず、冒頭の筆者のセッションでは、ビデオも音も聞こえない、音は聞こえるが、画面はアウト、スライドと音は大丈夫だが、スピーカービデオボックスが見えない、などのコメントがでていた。その後のスピーカーもスライドが全く動かない(本人の手元のPCではちゃんと進んでいる)、音声が飛ぶ、途切れるなどあった。そのため、4人目のスピーカーから、講演は直接ZOOM、質疑応答などはWhovaに切り替え、なんとか恰好がついた。
 国内でオンライン会議をやっていると、ほぼ問題なくできるようになったが、海外では、スマホでオンライン会議に参加したり、ChromeやEdge以外のブラウザーを使ったりと環境が複雑になり、バーチャル会議システムのような重いアドオンを使うと問題も起こる、と認識した。
 1月の発信初めはCisco Webexを使用しての発展途上国全域向けとなる。 ♥♥♥

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