グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第150回)
遠隔研修の壁を越える試み

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :11月号

 新型コロナウイルス禍で、読者も様々な局面でオンラインツールを使用して仕事を行っていると思う。日本プロジェクトマネジメント協会(PMAJ)では、マネジメントの決断が早く、大変円滑な移行ができて、オンラインセミナーや大会をサクサクと実施しており、参加者増を得ている。成功例の最たるものである。
 筆者は10年ほど在宅ワークを行っており、アクティブシニアライフを続けようとするとオンライン会議システムを使用せざるを得ない状況になった。
 昨年まで、フランスの大学院の学務やIPMA世界大会のプログラムコミティーメンバーの月例会議では、この種ツールのパイオニアであるSKYPEを使用していたが、あまり使い勝手がよくなかった。特にドキュメントの画面共有が少し複雑であるのと、接続環境が微妙であった。2010年代にはすでにCisco Webex Meetingsや、そこからスピンアウトしたZOOM Meetingsが進化していたことは知らなかった。もともと、対話型教育や研修を重視する筆者はオンライン教育に疑問をもっていたことも、この知識不足の理由である。
 現在は、ZOOM、Webex、Microsoft Teamsがユーザー獲得を競っているが、テレビ会議と文書の画面共有しか行わないほとんどのユーザーにとっては、3つとも使い勝手はほぼ同じであり、この点は救いである。
 筆者はZOOMで海外向けオンライン授業を行い、財団法人である協会の公的な海外向けオンライン研修はMicrosoft Teamsで実施済み、そして、これからもう一つの公的研修ではWebexを使用することになる。 TeamsとWebexは、単なるテレビ会議のツールではなく、事業体内の各種のプロジェクト用の展開プラットフォームとして使用すると、価値が大きくなるようだ。ビジネスではセキュアな環境でのメッセージ交換と文書共有を中心としたプロジェクト・チームワークツールであるSlackなどがあり、これらは、主体者のポリシーや選好でどれを使用するかが決まるので、企業の枠を超えて業務を行うプロジェクト関係者、特に年配者には、混乱の種でもある。

 10月中旬に、PMAJが受託した、一般財団法人JCCP 国際石油・ガス協力機関主催のアジア、中東、アフリカ、中南米14か国の石油公社により選抜された28名の管理職者向けに5日間のオンライン・ライブ研修を行う機会を得た。JCCPの研修コーディネーターは真のプロジェクトマネジャーで、周到な計画と、Microsoft Teamsで素晴らしいオンライン研修システムを構築され、同協会となる初の本格的な2週間オンライン研修が無事実施された。
 研修の開始時間は、参加者が一番多い、中東諸国の朝9時近辺として、日本時間の午後3時とした。これでアフリカ東部、中東、南アジア、東南アジアの諸国は無理のない時間帯となったが、メキシコとペルーの石油公社から参加の3名は現地時間で午前1時から4時となる。当初Teams上に録画した前日分の研修内容を把握してもらい翌朝にライブでQ&Aその他のフォローアップを行う案を主催者が提案したが、ライブで参加したいという強い希望があり、全世界同時進行のオンライン研修が実現した。

石油公社管理職者向けオンラインライブ研修
石油公社管理職者向けオンラインライブ研修

 2週間の間、急な業務都合で、数時間席を外す参加者が若干いた程度で、28名は皆勤であった。筆者は、研修参加者が顧客側でその反対側の元請けEPCコントラクターに42年間勤務していたので業務知識や言語は完全に共有できているという特別な環境が幸いして、質問や意見は頻繁に出てきて、対面研修と同等の双方向セッションが確保できた。当方の課題設問に対しては、個別演習で回答回収や、生の回答や意見を集約して板書共有まではできたが、バーチャル参集の28名であり、研修トピックスの多さゆえに時間不足もあり、分割チームによる演習は行わず、次回への宿題とした。その代わりに、参加者から提出されたプロジェクトマネジメントの課題について全員で討議する3時間セッションを1つ設けた。
 
 研修参加者の国のほとんどでCOVID-19 の感染は依然進んでおり極めて不安な環境であろうが、各自の研修参加の迫力は、筆者を30年前の現役時代に連れ戻してくれた。全員の誓いは、今度は対面でアドバンス・コースをやりましょう、ということであった。この研修の直前に筆者は喜寿を迎えた。喜寿でもできるオンライン研修!である。
 
 来月に同種研修をもう一回、年が明けてからは別のP&PMグローバル研修を世界に向けて行うことになっている。 ♥♥♥

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