理事長コーナー
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うなずき係り

PMAJ 理事長 加藤 亨 [プロフィール] :12月号

 最近、オンラインでのセミナーや講習会に参加したり、講義を依頼されたりする機会が増えてきています。今年の前半は、新型コロナウイルスの感染防止ということで、ほとんどすべてのセミナーや講習会が中止になりました。その反動が来たということなのでしょうか、あるいは、セミナー等を主催する側の、オンラインの環境が急速に整備されたということでしょうか。(PMAJも例外ではありませんが。)
 私も、色々なところで、オンラインで講義を行うことがありますが、画面越しの講義では、受講生の反応が分からず、理解してもらっているのか心配になることがあります。ただ、アンケートの結果を見ると、心配するほど悪くはありません。むしろ、聴くことに集中できるのか、会場で実施するよりも理解度は良い評価を得ることも多いようです。
 それはそれで嬉しいのですが、ただ、講義をして本当に満足感が得られたのか、あるいは、「今日は良い講義ができた」という充実感のようなものを得られるかという点では、やはり会場で受講生を目の前にして講義を行う場合に比べると少ないと感じますし、受講生の側もそう感じているのではないかと心配してしまいます。
 なぜだろうかと考えていたら、先日、あるテレビの番組で、オンラインでも非常に満足度の高い講義であったり、テレビ会議でも非常な一体感をもたらしていたりする事例の紹介をしていました。
 どういうことを実践しているかというと、参加者の中に「うなずき係り」という担当を決めて、講師の話に合わせて、大きな動作で「うなずく」のだそうです。そうすると、そのうなずいている姿を画面で見ているほかの参加者も、自然に一緒にうなずくようになり、それが参加者全体の一体感、満足感につながるということなのだそうです。
 「それって表面上だけのことじゃないの?」と思うかもしれませんが、実はこれは、オンラインで失われてしまう非常に重要な「リズム」を補う有効な手段なのだそうです。つまり、現在のオンライン会議の仕組みは、カメラの位置と画面の位置がずれているので、講師が画面の中の受講生を見ながらしゃべると、受講生からは講師が自分を見ないで話しているように見え、講師がカメラを見てしゃべると、受講生は講師が自分を見ているようにみえるのですが、講師としては受講生が見えないという現象がおきるので、講師と受講生の間でリズムがずれてしまい、共感が得られないのだそうです。実際に会場で目の前に相手が居て話している場合は、話し手と聞き手とのリズム(話したことにうなずいているのを確認しながら話すというリズム)が共鳴して、一体感、満足感が得られるのに、オンラインになるとどうしてもそのリズムがずれてしまい、一体感が得られなくなるそうです。そこで、そのリズムを共鳴する役割の「うなずき係り」の登場となるわけです。
 ギャラリービュー(視聴者がいっぱい並んでいる画面)の中に一人でも、講師の講義内容に合わせて大きくうなずくというリズムを取ってくれる人がいると、自然にその動きに合わせて、他の参加者も安心してうなずけるようになり、結果として全員がそのリズムに共鳴して、一体感が生まれ、満足度が高まるということなのだそうです。
 また、それと同時に、話す側も、自分自身でリズムを取ることも重要で、ともするとテレビカメラの前で気を付けをしてしゃべってしまいがちですが、講義に合わせて手を動かしたり体を動かすことが、自分自身の脳のリズムを活性化させ、言葉がスムーズにでてきたり、流れが良くなったり、分かりやすい話し方につながるのだそうです。
 要は、テレビカメラの前だからと言って身動きせずに正面だけを向いて話すのではなく、身振り手振りを交えて語りかける方が、自分の話もスムーズになり、聞き手のリズムの共鳴も引き出され、満足度の高いコミュニケーションが可能になるとのことです。
 残念ながら、この原稿を書いている段階では、私自身、まだ、この方法で講義を行う機会が無かったので実践できていませんが、次にオンラインで講義を行う際には、身振り、手振りを交えて、リズム感を持って講義をしてみたいと思います。もし、読者の方の中で、視聴する機会がありましたら、加藤は恰好つけているわけでも、ラップしているわけでもなく、受講生とのリズムの共鳴を引き起こし、満足感を高めるための必死の努力をしているのだと思って、ぜひ、温かく見守っていただきたいと思います。

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