今月のひとこと
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 日本でDXが進まない訳 

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :12月号

 ぼちぼちと冬らしくなってきました。ぼちぼちなので、通勤電車の乗客の服装も冬装束一辺倒というわけではなく、まだ夏を引きずっているような人もいます。落ちた銀杏の実が通勤の足に踏まれてぐちゃぐちゃになっているのですが、あの強烈な臭いがマスクのせいで感じられなくなっています。東京地区では、10月~11月末に吹く北寄りの強い風を冬の訪れを告げる「木枯らし1号」と呼んでいます。ここ2年程はなかったのですが、今年は11月の初めに「木枯らし1号」がありました。そのまま冬に突入かと思いましたがぼちぼちなんです。もっとも、冬らしくないと感じる最大の理由は、忘年会の話が聞こえてこないせいかもしれません。

 1年前のPMシンポジウム2019 PMAJ表彰式では、「2025年の崖」を編纂された経産省の和泉憲明氏に来賓挨拶をお願いし、DX(デジタルトランスフォーメーション)への取組の重要性・緊急性について熱く語っていただきました。その後、コロナ禍の影響を受けたということもありますが在宅勤務、オンライン会議とデジタル化が急激に進展しました。デジタル庁発足の動きもあり、遅れていると言われる日本のDXも一気に進むかと思われました。
 そんな折、日本のDXの最大の障壁は「抵抗する中間管理職層」だというショッキングな指摘を目にしました。日本的経営の特徴であり、強みだと評されたミドル・アップダウン・マネジメントを構成する中間管理職層がDXの阻害要因になるというのです。経営TOPは変化の必要を理解しているが、中間管理職層に変革の意欲が見られないとも指摘されています。指摘しているのはDXの権威として著名なIMD(スイスのビジネススクール)のマイケル・ウェイド教授です。日経ビジネス副編集長の広野彩子氏による2019年の取材記事として紹介されていました。詳細は「世界最高峰の経営教室」(日経BP、2020.10.19)をご覧ください。
 ウェイド教授が問題として繰り返し指摘する「サイロ」は、いわゆる「縦割り」がさらに悪化した状態と考えられますが、中間管理職層に限らず一般社員層にも蔓延していると思います。今に始まったことではなく、日本企業が強いといわれていた頃にもそういった傾向はありました。デジタル化が進むとその弊害が際立ってくるということでしょうか。その点は、何となく分かるような気がします。
 困ったなと思うのは、一人ひとりがレベルアップしなければならないとの指摘です。日本の中間管理職層得意の補い合うチームワークが通用しないと指摘されているように感じました。DXだから一人ひとりにデジタルスキルが必須だといわれると「勘弁してください」と音を上げる人がいます。「他の方面で頑張るから、データ処理はお任せします」というような人の居場所はなくなるということらしいのです。企業の業績劣化という形で問題を突きつけられると誰も庇うことができなくなり、「勘弁、お任せ」さんは組織から出るか処遇ダウンを受け入れることになります。
 「DXは日本の企業の在り方を問うている」だと自身の問題とは捉え難いのですが、「DXを進めると中間管理職層が享受していた特権がことごとく消える」のだと分かれば中間管理職層が最大の抵抗勢力になるのは自然の流れです。しかしながら、DXの狙いは社会の幸福のはずです。かつての日本企業がミドル・アップダウン・マネジメントを確立させたように、抵抗のエネルギーを日本固有のDX構築に振り向けることはできないものでしょうか。
以上

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