今月のひとこと
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 手際がよい 

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :11月号

 鈴なりの柿の実は、秋晴れの青い空にも曇り空にもよく似合います。柿の木の枝は折れやすく登ると危ないので、先に二又をつけた竿を伸ばして取るのだと教わりました。熟した柿の実を狙うのですが、当時は未だ小学生でしたので重すぎて、ただ竿を振り回していただけだったような気がします。友人の家は農家で柿の木は広い庭にありました。何かにぶつける心配もなく、大きく熟した柿を狙って夢中になっていました。
 編集子の通勤経路でも柿の木を植えたお宅を見かけますが、しっかり熟した実が収穫されないまま鳥の餌になっていることが多いように思います。柿を植えているお宅に、柿の実を採るのを楽しむような子供がいないためでしょうか。あるいは、危険だからと柿もぎを禁止しているということなのでしょうか。

 料理は、煮たり焼いたり切ったりという動作の組み合わせです。煮物をする傍らで野菜を切る、炒め物をしながら食材を水切りしておくだとか、複数の作業を並行して手際よくこなす能力は女性の方が男性よりも高いといわれます。しかしながら、料理の手順はクリティカルパスを押さえさえすればそんなに複雑なものではなく、能力の差によって巧拙が表れるようなものではないと思います。
 例えば、じゃが芋・人参・玉葱・胡瓜を使ってポテトサラダを作ってみましょう。じゃが芋を茹でるのには10分程かかるので、これがクリティカルパスとなります。最初にこぶし大の大きさのじゃが芋を4、5個、皮を向いて3~5センチ角ぐらいに切って鍋に入れ、被るくらいの量の水を入れます。スプーン一杯の塩を入れ、火にかけます。続いて人参1本の皮を向き、縦半分に切って5ミリ厚に小口切りします。さらに玉葱半分を茶色い皮を取って、繊維と直角の方向で薄切りにします。胡瓜も1本を薄切りにします。
 ここまでくると、じゃが芋がゆで上がってしまいますので、ゆで上がる前に切った人参を投入します。キッチンタイマーがあれば、7分にセットしておいてベルが鳴ったら人参を投入するのです。じゃが芋の茹で始めから10分ほどたったら、串か爪楊枝でじゃが芋の茹で具合を確認します。すっと通るようならOKです。鍋のお湯を捨てます。じゃが芋ごと笊に空けて、湯を切ったらじゃが芋を鍋に戻し、ちょっとだけ鍋に火をかけて水分を飛ばします。フォークでじゃが芋をつぶしたら、切った玉葱を投入し、混ぜ合わせます。さらにお酢と胡椒をたっぷりかけて、混ぜ合わせます。
 こうすると、鍋とじゃが芋の余熱で玉葱が蒸され、甘くなります。玉葱に熱を加えたくなければ、じゃが芋をタッパーなどの保存容器に移して、しっかり冷ましてから投入するといいでしょう。お酢や胡椒も熱いうちに投入するとマイルドになるのですが、メリハリがついた味付けが好みの方は、やはり冷めてから投入すればいいと思います。
 鍋とじゃが芋がすっかり冷めたら、胡瓜とマヨネーズを投入します。冷めるには数時間かかりますので、胡瓜を切るのにあわてる必要はありません。TVなどで、包丁さばきを見せるのに胡瓜をすさまじい勢いで切って見せるシーンが出てくることがありますが、あんな技は必要ありません。また、切った胡瓜はキッチンタオルで包んで水気を取っておいた方がいいようです。
 玉葱の中には、独特の苦みが強いものがあります。その場合には、切った玉葱を水にさらすことによって苦みを取ることが出来ます。水にさらす時間が必要となるので、クリティカルパスは、じゃが芋ではなく玉葱となります。
 材料毎の茹で時間などの知識は当然必要ですが、PMを学んだことがあれば何がクリティカルパスかは直に分かります。味付けを別にすると、PM経験者が料理をこなせる様になるのに多くの時間は必要ないともいえます。では、PMを学んだこともなくクリティカルパスの概念も知らない人が手際よく料理することができるのはなぜでしょうか。数多くの料理経験を経ることによっては暗黙知を得たと考えるのが自然ではないかと思います。少し前の時代では家庭で料理をするのは圧倒的に女性でした。女性であるがゆえに能力が高いということではなくて、何回も料理を行ううちに効率的な手順を暗黙知として身に着けていったのではないでしょうか。
 長い時間をかけなくても暗黙知を覚ることができる人がいないわけではありませんが、形式値化すれば料理の手順を覚える時間を削ることが可能となります。料理の様に何かを創造する手順を学ぶには、先にPMを学んだ方が圧倒的に効率がいいように思うのですが、このことを未だPMを学んだことのない人にどうすれば伝えることができるか、悩ましいところです。
以上

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