今月のひとこと
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 PMとPM標準 

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :10月号

 つい最近まで暑い暑いと嘆いていたはずなのに、いつの間にか日が短くなり秋になってしまいました。街のマスク姿は夏を乗り切り、寒い季節に向かおうとしています。インフルエンザの流行が心配されていますが、マスクが定着しているので抑えられるのではないかと密かに期待しています。

 先月の日経新聞「私の履歴書」はアートコーポレーション名誉会長寺田千代乃氏でした。「引越し」専業の会社を日本で初めて立上げ「引越しビジネス」を確立していく物語はTVドラマにもなったほどですので十分に楽しませてもらいました。楽しむかたわらでプロジェクトマネジメント(PM)に触れてもらえないかなと期待していたのですが、残念ながら望みは叶いませんでした。
 「引越し」をプロジェクトだと定義することについては、個別性、有期性、不確実性という基本属性を有していることからも、PM関係者に異論はないと思います。しかしながら、引越しビジネス企業の創業者である寺田氏はプロジェクトであることについて言及されませんでした。同社のビジネスの進め方は、「引越し」を価値創造事業と捉えているとしか思えません。「引越し」に係るタイムマネジメントもリスクマネジメントも行われているのに、プロジェクトかどうかについて触れられなかったのです。
 携っている事業・ビジネスがプロジェクトに該当するかどうかは、実は当事者にとってどうでもいいことなのかもしれません。PMAJが毎年開催しているPMシンポジウムにおいて、江戸時代から続く「京都花街の経営」や「創業500年の酒蔵」に関する講演をしていただいたことがあります。どちらもPM標準が世に出る数百年前からのビジネスですが、講演ではいずれも優れたPMが実践されているとの分析が紹介されました。PM関係者が殆どの参加者は大いに納得されていました。
 同社の「引越しビジネス」を確立していく物語をPMの視点で分析すれば、おそらく「引越し」プロジェクトのPMを磨き上げていく物語になると思われます。編集子の想像ですが、同社ではPM標準を学んでそれを「引越し」ビジネスに適用するというようなことはされず、ビジネスを遂行していく中で創意工夫を重ねていき結果としてPMを実践していたということではないでしょうか。P2MやPMBOK®といったPM標準が現れてまだ数十年しか経っていません。それよりも前の多くの事業において行われてきたPMと同様、「引越し」ビジネスのPMもPM標準に拠らずに行われてきたのだと思います。
 PM関係者の中には「世の中の経営者にPMが浸透していない」といった話をする方が大勢います。PM標準は浸透していないかもしれませんが、PMそのものは世の中の多くの経営者が実践し、様々なところで活用されています。今後も様々な方が「私の履歴書」に登場されると思いますが、その功績に関してPMの視点からの説明があるとより分かりやすいとか興味深いと評価されるようになればいいなと思います。
以上

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