図書紹介
先号   次号

還暦からの底力  ――歴史・人・旅に学ぶ生き方――
(出口治明著、(株)講談社、2020年6月29日発行、第8刷、247ページ、860円+税)

デニマルさん : 12月号

今回紹介する本は今年の5月に出版されると評判となり、6月末には8刷もの増刷となっている。筆者が購入した8月ではアマゾンランキングで上位の人気であった。この本の人気の背景に題名「還暦からの底力」からのインパクトではないかと思われる。4,5年前から、政府やマスコミは人生100年時代を強調していた。確かに、日本は世界でも超高齢化社会のトップグループの長寿国である。平均寿命は、女性87.45歳(世界2位)男性81.41歳(世界3位)である。これを健康寿命と対比すると女性が74.79歳、男性が72.14歳、(2016年)となる。この差は健康で生きて居られる平均的な目安で、長寿で健康でいるのが理想の姿であるが、実際は長寿=健康とはなっていないのが現実である。この点に関して、著者は皆さんと考えたいというが、年齢に関係なく働き続けた方が健康で長生き出来るとも書いている。この人生100年時代を具体化すべく安倍政権時代に、人づくり革命基本構想から幼児教育無償化、介護職員の処遇改善、高齢者雇用の促進等が発表された。そして「働き方改革」でより具体的な指針が明確化された。その中で高齢者の雇用については、「継続雇用の延長、定年延長の支援」が示されている。しかし著者は10年以上も前から、いやもっと前から実践していて、現在でも現役で活躍している実績がある。その生き方や考え方が、本書のエッセンスである。さて一般論で還暦と現役リタイア年齢と人生100年時代とは、どう関係するかが問題となる。還暦は60歳で、現在のリタイア年齢が仮に70歳と仮定しても残りは30年近くある。この30年もの長期間を肉体的、経済的にも今まで通り生活する事は難しいと著者はいう。その為の人生100年の生き方を、学生時代から社会人となっても長期的に考えて行動すべきで、それが「還暦からの底力」で、歴史・人・旅から学ぶ生き方を本書に纏めて書いている。それでは、著者の歩んできたキャリアを追って参考にしてみたい。1948年(昭和23年)の三重県津市生まれ、現在72歳で現役の大学の学長である。学長だから教育畑を歩まれたと思いきや、普通の保険会社のサラリーマンからの転身であるという。大学を卒業して生命保険会社に入り、44歳でロンドン現地法人の社長に就任。その後本社の部長を経て、56歳の時点で退職。インターネットの生命保険会社を設立し、60歳でネットライフ生命の社長となり、10年後に現在の立命館アジア太平洋大学(APU)に転職している。時に70歳である。その転身は国際公募を経ての学長就任である。その理由について「人生は川の流れの様なもので、運命である」と書いているが、そこまでに到る著者の人生観が滲み出ている。それが副題にもある「歴史・人・旅に学ぶ生き方」であると思われる。それと著者は大変な読者家で、1万冊以上も読書されたという。読むだけでなく、50冊近くの著作も出されている。その著書のジャンルは、歴史からビジネスや人生哲学等と幅広い分野である。そこで「還暦からの底力」とは何か、言葉を変えると「還暦までの底力を蓄えるために成すべき事は何か。その生き方とは何か」を参考に、自分流の底力を蓄える方法を見てみたい。

これからの生き方(その1)       ――年齢フリーの在り方――
著者は先の平均寿命と健康寿命を改善する方法(健康寿命を延ばす方策)が、定年制度を撤廃して「年齢フリー」として終身働くことであると書いている。それを過去の歴史から医学的にも明らかになっていると種々の事例も紹介している。一つは伊能忠敬が家業を後継者に譲り天文学を学び、日本地図の測量を始めたのが50歳を過ぎてからの例。人生50年と言われた時代での事例ある。現在では、マレーシアのマハティール前首相が政権に返り咲いたのが90歳を超えてからだ。著者がマハティール氏と会食した事が書かれてある。年齢に関わりなく活躍出来るのは、目的や成すべき信念があるからか。年齢フリーの考えが結果として、健康で長生きする事になると著者はいう。本書では一石五鳥のメリットを書いている。1つは健康寿命が延びて介護負担が軽減される。2つ目は介護軽減によって医療・介護・年金の経費削減となり、財政負担が軽減される。3つ目は、年齢フリーなので年功序列から業績序列の評価体制となる事が期待される。4つ目は定年が無くなる考えから、それぞれの目標や考え方を見直し、100年の生き方と働き方に合った人生を歩む必要性が出てくる。(これは今後の大きな課題だと思われると筆者は考える。)最後は、労働力不足の日本にとって色々な面で有効な方策であると指摘している。確かに年齢フリーの在り方は、「働き続けることが健康で長生きする」方策であるが、誰もが100年時代を生きる方法を考えたい。

これからの生き方(その2)        ――性別フリーの必要性――
この本で著者は、先の年齢フリーと合わせて性別フリーを書いている。性別フリーを現在では「ジェンダーフリー」とも言われている。いわゆる男女の性差別による働き方、特に賃金や処遇面での差別を無くすべきだと書いている。国連等の政治・経済・教育・健康分野での諸統計からも、日本の社会の遅れが顕著である。このグローバル時代の環境下で性差別があることは、時代の流れに逆行している。その結果、日本は長期的衰退しているという。経済発展だけなく、少子化がもたらす問題の一つの遠因に性別フリーがある。女性が安心して働き、子供も産み・育てる環境に乏しいのが現状である。男女共同参画法が制度化して20年、家庭での家事労働の分担や男性の育休等々、性別フリーの実践も含めて還暦の底力となる。

これからの生き方(その3)        ――仕事フリーのチャレンジ――
本書は還暦を超えても働き続ける事が、これからの100年時代の生き方だと書いている。だから仕事フリーとは書いていない。しかし、ここで云う仕事フリーとは、仕事が生き甲斐とする考えを改めるべきであるという。一般的には「人生で大切なことは、好きな事をする時間である」と言われている。好きな事は趣味であったり、仕事をする事も、ノンビリ過ごす事であったりする。つまり自分の時間を思った通り、自由に使える自分である事ではなかろうか。そう成る為に、普段から考えて置くことで、著者は「還暦からの底力」が、歴史・人・旅に学ぶ生き方だと書いている。今からでも遅くないと思っている方、考えてみて下さい。

ページトップに戻る