図書紹介
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エンド・オブ・ライフ
(佐々涼子著、(株)集英社インターナショナル、2020年2月10日発行、第1刷、315ページ、1,700円+税)

デニマルさん : 11月号

今回紹介する本は、2020年本屋大賞のノンフィクション本大賞にノミネートされている。この大賞は今年11月上旬に発表されるので、この原稿がオンライン・ジャーナルに掲載される頃には、結果が判明している。筆者は、過去に直木賞や本屋大賞の候補作品を1,2冊読んで、大賞受賞の予想を何回かやっている。残念ながら未だ当たった事はないが、結構面白い遊びの読書である。自分では本の目利きの訓練の積りで楽しんでいるが、まだまだで修行が足りない様だ。さて今年で3回目となるノンフィクションほん本屋大賞だが、第1回目が「極夜行」(角幡唯介著、(株)文藝春秋)で、この話題の本の2019年3月号に、第2回目が「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」(プレイディみかこ著、(株)新潮社)で2020年2月号に紹介している。今回の本は、訪問看護でもターミナルケア(終末医療)に関して病院と医師と患者等が体験した実際の医療現場でのドキュメンタリー・ドラマである。著者が知り合った看護師と一緒に出版する予定だった本であるが、その人が途中で亡くなるというハプニングを含めて綴ったノンフィクションである。非常に深い内容であり、温かみのある本でもある。偶然にも、この原稿を書いている時期にNHKが「天使にリクエストを、人生最後の願い」という連続ドラマを放映していた。これは刑事崩れの探偵と看護師が末期医療患者の願いを叶えるストーリィで、死と向き合いながら「人生の意味」を考えさせる内容であった。新型コロナウイルスの感染拡大で将来の先行きに不安を感じつつ、自分の「人生の意味」を考える場となったのは、何かの巡り合わせかも知れない。またまた前振りが長くなったが、本題に入ろう。この本の現場は、京都市北区にある渡辺西加茂診療所(渡辺康介院長)で「患者さまの住み慣れた地域・自宅で療養しながら生活したいという希望を24時間体制で支える診療所」とある。そして院長自ら「地域でいちばんおせっかいな診療所」と呼ぶ機能強化型在宅療養支援診療所とも語っている。そこには300人近い患者の訪問診療を行い、「入院が必要な患者には近隣の高次医療機関と連携し、入院治療から在宅復帰までをお手伝いします」とホームページにあった。その診療所には、医師、看護師、理学療法士、ヘルパー、ケアマネジャー等のスタッフが40名近く働いている。著者がこの本の主人公と交流を始めたのは、2013年からと書いている。そこで著者を紹介すると、1968年生まれで神奈川県出身のノンフィクション作家である。2012年、「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」(集英社)で第10回開高健ノンフィクション賞を受賞している。文庫本と合わせ10万部を売り上げたとあるが、この話題の本でも2013年5月号で紹介している。その時の印象は、凄い仕事に着目した作家だと感心した。そして2014年に『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』(早川書房)では、紀伊國屋書店キノベス第1位、ダ・ヴィンチBOOK OF THE YEAR第1位、となり新風賞特別賞等々の栄誉に輝いたと紹介されている。

ノンフィクション訪問看護        ――訪問看護師・森山文則――
著者は「エンジェルフライト」を書き上げた時、次の本のテーマを在宅医療と決めていた。そこで紹介されたのが、渡辺西加茂診療所であった。著者が最初に訪問看護の同行取材をしたのが、末期ガン患者(37歳女性で食道ガンのステージⅣ)の一時帰宅であった。その時の訪問看護師が、森山文則であったと書いている。その後、患者は「家族で潮干狩りに行く」と家族との約束を強く望んでいたのだ。それは京都から180キロも離れた愛知県の知多半島南端への往復8時間の移動である。車に同乗する担当医師、緩和ケア看護師と森山訪問看護師と運転手の4名に、酸素ボンベ他の医療器機材に薬等々を搭載しての潮干狩りである。当日早朝前に家を出て、昼に南知多ビーチランドに到着、昼食後に潮干狩りを楽しむ。更に、患者は水着に着替えて車椅子で海にも入った。だが帰路の途中で容態が急変して呼吸困難な状況となるも、何とか帰宅したのが21時過ぎである。しかし、暫くして家族の見守る中で静かに旅立った。この潮干狩りの準備から看取りまで同行した森山は「実は、うちらも楽しかった。あの海にご一緒できて、僕らにも忘れられない思い出になり、ありがとうございますと言いたい」と語る。その後も著者と森山とは、「死」をテーマに交流は続いていた。

訪問看護師が末期ガン          ――森山文則のターミナルケア――
この本の主人公である訪問看護師の森山文則について触れなければならない。彼が訪問看護した終末期の患者さんは、200名を超えている。先の潮干狩りの患者さんも含まれているが、一般的には看取りのエキスパートである。その森山が2018年の8月に突然の膵臓ガンのステージⅣを宣告された。時に48歳。著者は、看取りの達人が自分の末期をどう迎えるかを身近で見守る状況となったと言う。渡辺西加茂診療所の「最後の希望を叶える」を実践していた人がどう自分を看取るのか。この本のテーマでもあり、身近な人のリアルな姿である。この詳細は読んで頂いて、それぞれが心に刻んで頂きたい内容である。森山は、「在宅看護は、自分の好きな様に振舞う。ごくありふれた日常を過ごす」と医療も介護も『捨てる看護』を実践して見せた。そして「人は生きてきたようにしか死ねない」と語っていた。

エンド・オブ・ライフ          ――新たな医療提供の方法――
この本の最後の章に「命の閉じ方のレッスン」と主人公の森山が迫りくる終焉までをドラマ風に追っている。病気末期の入院や看護には、在宅医療から終末医療(ガン患者のペイン・クリニックやターミナルケア)等がある。このレッスンでは、森山が経験した自分流の「閉じ方」を演じてみせた。それは在宅医療をやってきたから「大切な人たちと好きな場所に行き、好きなように過ごすという最期を迎えられる」ことを実践出来たという。そして最後に「人生の幕引きを全て自身で整えてきた夫は、この場を皆様の拍手で送り出す事を望んでおりました」と奥様が出棺前の挨拶で述べたと著者はこの本で結んでいた。エンド・オブ・ライフは、新しいエンド・オブ・ライフケアのあり方を、主人公が実践し著者が綴っていた。

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