図書紹介
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塀の中の事情 刑務所の中で何が起きて居るか
(清田浩司著、(株)平凡社、2020年5月15日発行、初版1刷、441ページ、1,200円+税)

デニマルさん : 10月号

2020年の重大ニュースを語るには数ヵ月早いが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大で世界的パンデミックとなった。現在、コロナ感染者が世界全体で31百万人超え(97万人強の死者)、日本でも8万人強(1.5千人強の死者)<2020年9月末現在>であり、未だに終息してない状況にある。一日も早いワクチンや治療薬の開発・実用化が熱望されている。そのコロナ禍で、我々は今までの社会生活から家庭生活まで大きく変わったと云っても過言でない。テレワーク、リモート会議、ソーシャルディスタンス等と三密(密集・密接・密閉)回避と飛沫防止のマスクに手洗い・ウガイの実施等々が日常生活化した。これらによって今まで普通に行われていた生活が普通でなく、ウイズ・コロナの新しい生活様式が必要とされている。そんな中、今年の7月に警察庁が2020年上半期の刑法犯件数を発表した。それによると「窃盗犯罪(店舗荒らし、空き巣等)と街頭犯罪(ひったくりや路上強盗等)が大幅に減少し、全体として対前年比で15%も減少した」という。関係者は、コロナ禍での外出自粛や学校の休校等で在宅時間が多くなった事が関係していると話す。筆者もこの自粛期間中は自宅に籠って読書と趣味の音楽の練習に時間を費やした。その中で読んだ本に、今回紹介の本があった。そう云えば30年以上も前に「塀の中の懲りない面々」(安部 譲二著、文藝春秋)から、刑務所内の知らざる世界を興味本位で読んだ記憶がある。その本との対比を今回書く積りはないが、時代と共に「塀の中の生活」も大きく変わっている様に思われる。そこで今回は、著者が紹介の本で書いている「塀の中は社会を写す鏡」とは何かを探ってみたいと思う。普通の人では殆ど知る事のない塀の中の社会は、こうした本からの情報がベースとなる。本書から刑務所に関する幾かのポイントとなる内容をご紹介したい。先ず、日本にある刑務所は、北の網走から南の沖縄刑務所まで77ヶ所もある。地域ブロック別に分かれて設置されているが、それぞれ機能別に明確な区分がなされている。一般成人男子と女子と少年院に分かれ、一般成人男子も刑期と健康上の状況に応じて区分されている。更に、社会復帰促進センターや東日本矯正医療センターと言った病院機能をもった施設もある。どこの刑務所も高齢化と再犯化による長期服役者の問題が深刻化しているという。それと国際化した人間社会は、犯罪者も国際化して外国人の服役者も多くなっている現状がある。これらの問題に日夜対処しているのが、刑務所で働く刑務官である。以下に特徴的な刑務所を紹介したい。受刑者は刑務官に従って服役し、社会復帰を目指す努力が成されている事例が書かれている。然しながら、一般社会では服役者を簡単に受け入れる状況に乏しい。それに加えて、刑期満了者が一般社会に馴染めず、再犯を繰り返すことが多くあるのも現実である。過去の統計では犯罪の内容にもよるが、万引き等の窃盗罪では再犯率が5割近いと言われている。この本でも紹介さているが、社会の厳しい受け入れに満足できず、再犯を犯して刑務所での生活の方が居心地良く、自分の終の棲家としている者も居るとの話もあった。刑務所は受刑者が罪を償い、次の人生に再出発を準備する場所であるが、中々思う様に事が進んでいない現状もある。著者は、長期間の刑務所取材を通じて問題の深さを抉り取った。

LB級施設             ――ランク分けされた刑務所――
先に紹介した刑務所に約4万人強(2019年4月現在)の受刑者が収監されている。因みに、女性が3.5千人強である。その刑務所の分類概要を紹介したが、実はもっと細かく受刑者の刑期や年齢や心身の健康状況や服役態度の状況を見てランク分けしている。それをアルファベットで表記して、刑務所関係だけが理解しているランクがある。この本では、LB級受刑者と呼んでいる。Lとは懲役10年以上の長期刑で、犯罪を繰り返す可能性が高い犯罪者をBとしている。だからLB級といえば、一般の受刑者に比べ刑罰も重く訳ありの服役者である。中には無期懲役刑の人も含まれているので、その刑務所全体は重苦しい雰囲気であったと書いている。そんな刑務所でも年一回の作業部署別対抗の運動会が開催される。その時は、服役者が徒競走や縄飛び競争や玉送り競走や最後の対抗リレーに夢中になる。刑務官は運動会の安全を守り、服役者が一体となる裏方としての役割を果たしている。「運動会を通じて、お互いに労わり合える気持ちになれば」との刑務官の温かい言葉が印象的であった。

塀の無い刑務所           ――特殊技能を養成する施設――
刑務所は題名にある通り一般社会から隔離された塀の中の世界である。しかし、本書には、三つの塀の無い刑務所が紹介されている。その一つである松山刑務所「大井造船作業場」を紹介してみよう。受刑者は服役期間中に何らかの懲役をする。基本的には刑務所内の作業場だが、例外として一般企業の工場で作業をする事が認められている。諸々の条件があるが、その作業場で溶接やフォークリフト運転等の仕事を一般の作業員に交じって働くのだ。当然、国家試験の資格を取得した受刑者や特殊技能の技術を養成・取得する方法として実施されている。ここの受刑者は、その特殊技能の仕事が普通の人と遜色なく出来れば、刑期満了後に専門技術者として自立する事が可能となる。本書には、そこで作業をしながら服役している30名強の受刑者を紹介している。厳しい作業環境だが、展望ある塀の無い刑務所である。

病院である刑務所          ――受刑者の命と健康を守る施設――
病院機能を持った刑務所を先にチョット書いた。この医療刑務所(総合病院)は2018年4月に開所されたが、それ以前は、全国に四ヶ所ある医療刑務所に送られて医療処置が施されていた。しかし、通常の刑務所では処置できない重病者や手術等を必要とされる受刑者は、総合病院機能のある東日本矯正医療センターで対処される手順らしい。そして昨今の病院の医師不足は、ここでも同じ状況にあると書いてある。医師の処遇条件は、国家公務員としての給与であるが、患者が受刑者と特殊である事からキャリアアップにならない等々の不満があった。2015年に刑務所医師不足の特例法が施行され、待遇面が一部改善された。それと働き方改革で兼業の認可等で問題解決の先が見えたと書いてあるが、どうだろうか。

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