例会部会
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『第261回例会』報告

中前 正 : 11月号

【データ】
開催日: 2020年9月25日(金)
テーマ: 「不確実性の高い時代に資する起業家的な思考と行動」
講師: 北陸先端科学技術大学院大学 准教授
姜 理惠 氏

◆はじめに

コロナ禍に見舞われたことにより、私たちの生きる世界では、これまで以上に将来の見通しが立てづらくなっています。

各種プロジェクトやプログラムに携わっている皆さまにおいても、外部環境の不確実性がますます高まっていることと思われますが、現場をあずかるマネジャーやリーダーはこれにうまく対処し、ビジネスを成功に導く必要があります。

その際、多くの起業家や新規事業担当者が持つ「開拓精神」や「突破力」のようなものがヒントになるのではと考え、このたび、「アントレプレナーシップ(起業家精神)」の研究をされている姜理惠氏を講師としてお招きし、その知見や応用のポイントなどをお話しいただきました。

◆講演内容

講演の前半は、「起業家とは何か」というテーマで進行しました。

まず、現代はVUCA(Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguity)の時代であること、そんな中で優れた起業家が意思決定手法として実践している「エフェクチュエーション理論」の注目度が高まっていること、そしてイノベーションは辺境でこそ生まれるという説明がありました。そして「不確実性の高い時代こそ、起業家的な思考・行動が必要である」という提言がなされました。

次に、起業家に関する日本と世界の違いについて、さまざまな調査データとともに説明されました。日本の起業家活動水準は世界最下位レベルであり、その要因として失敗に対する恐れが高いことや、事業を興す機会であると認識することが少ないことなどが挙げられました。

続いて、人間の思考パターンを成長型(Growth)と固定型(Fixed)に分けて考察するマインドセット理論、さらに『AGER 2015』という調査報告から、「起業志向群」に属する人々と「サラリーマン志向群」に属する人々の違いが紹介されました。両志向群のパーソナリティ的な特徴に始まり、持ち合わせている「マルチプル・インテリジェンス(多重知能)」の違い、何か行動を起こす際に妨げとなる「メンタルブロック」が占める割合、起業意識と海外経験の関係性などが説明されました。

そして最終的に、下記の6項目を、起業家の特性として挙げられました。

<起業家とは>
Growth Mindsetの持ち主
失敗に対する恐れが少ない
事業機会を認識する機会が多い
空間的知能、対人性知能に優れている
メンタルブロックを回避できる
海外経験が豊富

講演の後半は、「ベンチャーの成功のカギ」がテーマとなりました。

まず、ビジネス活動を、内にこもってじっくり深化する「クリエイティビティ」と出会いやコミュニケーションを求めて発散する「イノベーション」という二軸で捉えた時、「両利き(Ambidexterity)」の姿勢でいることが大切だという説明がありました。

また、前出の「エフェクチュエーション理論」の詳細な説明もありました。同理論において、熟練した起業家はこれまでビジネスで当然視されてきた合理的意思決定を採らず、以下の5つの行動原則を採るということです。

<エフェクチュエーションの行動原則>
1. 「手中の鳥」
手元にあるリソースで何ができるか考える
2. 「許容可能な損失」
耐えられる損失の範囲内で最大限の投資をする
3. 「クレイジーキルト」
リソースや機会を柔軟に組み合わせる
4. 「レモネード」
使えないリソースで何ができるか考える
5. 「飛行中のパイロット」
統制できることのみに集中する

さらにダイバーシティや女性活用などの説明が続いた後、ファミリービジネス(同族経営)に関する研究が紹介されました。ファミリービジネスには事業継承(後継者選び)の難しさなどの課題はあるものの、オーナー企業ゆえリスクのある投資がしやすく、イノベーションが生まれやすい環境であること、そしてそこにアントレプレナーシップを推進してビジネスを成功に導くヒントがあるという説明で、講演は終了となりました。

◆講演を聞き終えて

講演を聞き終えて、私はアントレプレナーシップ、とりわけ上述の起業家6特性は、今後プロジェクト・マネジャーとしてさまざまな場面で意思決定していく上で欠かせないものになってくるだろう、そしてそのためにも、自身のコンピテンシーとして日々磨いていきたいと思いました。今回参加された皆さまは、どのような気づきがありましたか?

例会では、今後もプロジェクト・マネジャーにとって有益な情報を提供してまいります。引き続きご期待ください。

※ 例会にご参加された方より「グラフィックレコーディング」をご提供いただきました。下部に掲載いたします。
第261回例会「グラフィックレコーディング」

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