例会部会
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【第260回例会 報告】

PMAJ例会部会・KP 増沢 一英 : 9月号

【データ】
開催日: 2020年7月17日(金) 19:00~20:30
テーマ: 大型電波干渉計「アルマ望遠鏡」~国際プロジェクトの運用と最新成果~

講師: 菊池 健一 (きくち けんいち)氏
自然科学研究機構国立天文台 主任研究技師

【第260回例会 報告】
~はじめに~
 宇宙の彼方を探ることは、宇宙の過去を探ることです。アルマ望遠鏡は「太陽系や生命誕生の実証材料を宇宙に探る」という使命を負って設立されました。
1983年:発案
2001年:日米欧3者共同の建設決議
2003年:着工
2011年:観測開始
観測開始後の運用予定:30年間+α

 講師の菊池様は、国立天文台でアルマプロジェクトのプロジェクトコントローラーで、PMS資格も保持しています。アルマプロジェクトの運用と、国際天文学プロジェクトの流れと成果、そして、展望や今後の課題についての、大変興味深いお話を伺うことができました。

~講演概要~
1. アルマ望遠鏡の概要
 チリ共和国、標高5,000メートルのアタカマ砂漠に建設された、「アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計」の略称、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array = ALMA、です。
 アルマプロジェクトは、日本(東アジア)、欧米諸国、チリ共和国の国際共同により建設、運用されており、ミッションは『惑星系の形成・諸天体の歴史・宇宙における物質進化の解明』です。

アタカマ砂漠は天体観測の最適地である
天体観測は、特に水蒸気による空気の揺らぎの悪影響を受ける
アタカマは年間降水量100mm以下で、世界で最も乾燥した場所の一つ、
平坦地が広い、
治安が良い、

学術プロジェクトとしての規模: 小規模ではないが、特大規模でもない
建設費:約1,500億円
年間運用経費:数十億円、
日本の費用分担:建設費と運用費用それぞれの25%を負担
加えて、Q&A時の質疑応答でのご説明の通り、建設時にも難しい挑戦が数多くありました。

アルマ望遠鏡は、最高水準の総合システムである
超高精度の鏡面を持つ多数のアンテナ
最新の受信機システム、
相関器システム、
データアーカイブシステム、
 ミリ波、サブミリ波の波長の電磁波を観測し、画像を鮮明に処理する能力は傑出しています。これには、日本の高度な自動制御と精密加工の技術が結集されています。

2. アルマプロジェクトの成果
 約8年半の運用で、アルマ望遠鏡は、多数の高品質な観測結果を提供しています。12,297件の観測提案(後述)数、1,858件の国際共著論文数、高いTop 1%とTop 10%の論文割合、は傑出しています。アルマプロジェクトの目標と主な成果は以下の通りです。

科学目標1 太陽系以外の惑星系とその形成の解明
若い星を取り巻く惑星誕生領域を詳細に観測できました
うみへび座TW星はハッブル宇宙望遠鏡やすばる望遠鏡でも観測されていましたが、中心星付近の円盤軌道サイズはアルマプロジェクトが初めて観測しました。

科学目標2 銀河形成や諸天体の歴史の解明
131億光年、132.8億光年先の銀河に酸素、132億光年先の銀河に酸素と塵を初めて観測しました。遠方の天体からの酸素や塵の微弱な電波の観測に大きな威力を発揮しています。

科学目標3 膨張宇宙における物質進化の解明
星形成領域や惑星誕生領域で、多様な有機分子を観測し、化学組成を明らかにすることで、生命関連分子の検出でも大きく前進しました。

   これらの成果は、電波天文分野のみならず、医学的計測技術、超高速情報通信、等の分野への展開が期待され、人材の育成にも大きく貢献しています。

3. 天文学の目指すもの
 より遠く(=過去)を、より細かく、そして、これまで観測できなかったものも観測することで、以下のような、更なるミッションの達成を目指しています。

宇宙の歴史を明らかにすること(未観測の132億年前から138億年前に発生した物質が確認できれば、宇宙の発生を探る糸口になります)
宇宙を成り立たせている物理法則を解明すること(ブラックホール重力場で相対性理論は成立するか、ブラックホールジェットのメカニズムの解明、等)
地球と生命の来し方行く末を明らかにすること(宇宙空間で様々な有機物質を観測する解像能力が必要です)

   アルマ望遠鏡がミリ波・サブミリ波分野における観測的天文学を強力に牽引し続けるため、アルマ2 プロジェクトとして、2020 年代にアルマ望遠鏡の性能を段階的に引き上げていくことが計画されています。

4. アルマプロジェクトの体制と運用
アルマプロジェクトの体制
 アルマプロジェクトは以下の機能で運営されている「国際共同利用施設」です。
アルマプロジェクトの体制

「アルマ評議会」は、意思決定の最高議決機関
 アルマ科学諮問委員会、国際視察委員会、所長協議会の提言を受け(ボトムアッププロセス)、アルマ望遠鏡の公正な運用と科学的価値の高揚に責任を持つ。
「合同アルマ観測所」はチリ現地での望遠鏡オペレーションに責任を持つ
 アルマ所長が指揮し、アルマ望遠鏡の公正な運用と科学的価値の高揚に責任を持つ。各地域センターと協力して観測を実行し、各地域センターへの観測データの配布と観測装置の運用保守を行う。約220 名の現地職員と 約40 名の国際職員が携わる。
「アルマ地域センター(ALMA Regional Center: ARC)」は、国立天文台、欧州南天天文台、米国立電波天文台に設置され、国際メンバーで構成される。夫々のARCは、東アジア、欧州、北米の研究者の円滑な研究を支援し、ARCが観測データの品質を保証しています。

   「アルマ東アジア地域センター」は、国立天文台に設置されており、プロジェクトマネジャーの下、エンジニアリング、コンピューティング、開発、科学運用、サイエンス、広報の各マネジャーがアサインされています。国立天文台では、アルマプロジェクトを「Cプロジェクト(施設として完成し運用中のプロジェクト)」に区分しています。

アルマプロジェクトの運用
 アルマ共同利用の観測は、下記のワークフローに従っています。
アルマプロジェクトの運用

アルマプロジェクトの観測は、公募による観測提案に基づいて運用されています。これまでの観測提案数は年間最大2,000件近くに上ります。
観測提案は研究者が作成し、地域センターがそれを支援します。観測提案は観測提案審査委員会が審査し、採否を決定します。
審査を通過した提案を、研究者(提案者)が地域センターの支援を受けて、観測実施します。観測データの品質はARCが保証しており、研究者は観測データの解析に集中できます。
提案者は、提案から約9か月でデータを解析して論文を作成することができます。観測の1年後には観測データが公開されます。

   このワークフローは、非常にタイトなスケジュール感があります。ARCとアルマ観測所の国際協力体制がスムースに機能することが、プロジェクト成果のスピードと品質を担保する上で非常に重要です。
 これまでの統計によると、観測データ配布から論文出版(公開)までの中央値は約17ヶ月で、従来よりも短期間のうちに科学成果を発信できるようになりました。

~まとめ~
 今回のテーマは、付け焼刃ではとても太刀打ちできない技術的な内容で、本レポートでは、遺憾ながら、ブラックホールを含む、幾つもの技術的な話題を割愛せざるを得ませんでした。

 しかし、アルマプロジェクトの運用が、想像以上にタフで、大変なスピード感を伴うことは理解できました。これは、国際協力体制が機能することで初めて実現します。こういった大型の国際学術プロジェクトの流れをイメージ的に把握することができたことが、自分にとっての大きな成果だったと感じます。
 宇宙や天文関連の話題に接した時に、どのような道のりで、どんな苦労を経て公開に至ったのかも想像できれば、少し楽しく話題が理解できるのではないかと、楽天的な期待が膨らんでいます。

 最後になりましたが、ご講演いただきました講師の菊池様には、大変お忙しい中、PMAJ 例会部会にご協力いただきましたこと、心より感謝申し上げます。

 我々と共に部会運営メンバーとなるKP(キーパーソン)を募集しています。参加ご希望の方は、日本プロジェクトマネジメント協会までご連絡下さい。
以上

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