【第259回例会 報告】
日本ユニシス株式会社 生越 直人 : 8月号
【データ】
開催日: |
2020年6月26日(金) 19:00~20:30 |
テーマ: |
「ハイブリッドロケット開発・打ち上げ」 ~失敗許容設計及びマネジメント~
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講師: |
高野 敦 (たかの あつし)氏
神奈川大学 工学部 機械工学科 准教授 |
【第259回例会 報告】
~はじめに~
講師が勤められている神奈川大学は、2014年から5年間にわたりハイブリッドロケットの開発に取り組まれ、毎年のように打ち上げを行い、高度記録を着実に向上させてきました。
ロケットの「設計」「開発」「製作」「試験」は学生が主体で行われており、その学生は短ければ9か月、長くても4年しか携わりません。従って、学生の技術・知識の練度は毎年十分なものではなく、且つ技術の継承も十分には行われていません。
そこで、「設計」~「試験」のありとあらゆる場面で「失敗は起こる」ことを前提として、開発及びプロジェクトが破綻しないような取り組みを「失敗許容設計及びマネジメント」と名付けられました。
今回の例会では、「失敗許容設計及びマネジメント」の取り組みについて、具体的な事例をとおしてご紹介いただきました。
~講演概要~
① 超小型衛星分野の飛躍的発展
近年は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の発展に伴い、従来の大型衛星から超小型衛星に注目が集まっている。ここ10年では、大学や企業などによる超小型衛星の開発、打ち上げが活発化している。
一方で、それらの超小型衛星は大型衛星の打ち上げの際に「相乗り」という形で打ち上げられることがほとんどのため、打ち上げ時期や軌道の自由度が少なくなっている。
② 国内の超小型ロケット開発
海外では、エレクトロンロケットに代表されるように、超小型衛星専用のロケット開発が行われている。国内でも、大学や民間でのロケット開発が活発化しつつある。
国内の超小型ロケット開発
(紙面の関係で詳細を記述できませんが、ご関心のある方は講演資料をご参照ください)
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北海道大学、植松電機 |
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インターステラテクノロジズ社 |
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九州大学、IHI → SPACEWALKER |
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キャノン電子 |
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JAXA |
③ 商用ロケット打ち上げと環境整備
人工衛星やその打ち上げ用ロケットの打ち上げや管理に関する許可、落下により生じる損害の賠償などを定めた法律が整備された。
制度を明瞭にすることで、企業の参入を促すのが狙いである。一定の安全基準に基づき、国が企業によるロケットや衛星の型式認定及び打ち上げ許可を行う。また、予測される保証額を超えて損害が生じる場合には、政府が一定額まで補填する。
射場確保も商用打ち上げのためには重要な問題である。「アクセス性」「周辺に民家がないこと」「船舶の航路が少ないこと」を考慮しなければならない。
我が国の大型ロケット射場は、「種子島」である。大型衛星を搭載した航空機が着陸できる空港がなく、中部国際空港から移動している。
④ 神奈川大学のハイブリッドロケット開発
(ロケット開発について、以下の項目にてまとめられ、ご講演されました。
紙面の関係で詳細を記述できませんが、ご関心のある方は講演資料をご参照ください)
ハイブリッドロケット開発
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ロケットエンジンの種類 |
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ハイブリッドロケットとは |
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ハイブリッドロケットエンジン |
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タンク |
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エンジンノズル |
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モータケース |
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分離機構 |
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テレメトリ・コマンド |
⑤ 失敗許容設計及びマネジメント
失敗許容設計及びマネジメントとは、失敗は起こるものと考え、一つの失敗がプロジェクト全体の失敗につながらないようにするための設計及びマネジメントである。そのため、設計や開発計画立案時点で、想定できる失敗に対しては対策を行い、さらに不測の事態が起こった際にも対応できるような考え方をする。
失敗許容設計及びマネジメントの具体的な取り組み例
(紙面の関係で内容を記述できませんが、ご関心のある方は講演資料をご参照ください)
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マネジメント
- 失敗を前提とした開発・実験計画立案
- 同一設計の機体を2機以上製作・打上
- 低コスト化
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設計
- 互換性を保った設計
- 部品設計の共通化
- 電装・分離機構の冗長化 |
神奈川大学は他の大学や団体と比べると、ハイブリッドロケットの研究・開発を開始してから3年とまだ日は浅い中、失敗を常に想定し対策しながら開発や打ち上げを行ってきたことで、新規エンジンの開発に成功し、初の単独打ち上げ実験を行うことができた。
その経験から得たことは、「一つの失敗により開発断念や打ち上げ不可とならぬような取り組みや仕組みづくりの重要性」である。
しかし、2019年度の打ち上げは、断念することになった。
2018年はエンジン、タンク開発に成功したため、打ち上げに成功した。2019年もそれにならい、新規エンジン、タンク開発成功を前提としてプロジェクトをスタートした。しかし、相次ぐエンジン破裂により打ち上げを次々と延期し断念に至った。
宇宙ベンチャーや大学ロケットなどでのプロジェクトマネジメントの問題点は、要素技術の集積なしにプロジェクトに取り組んでいる点である。要素技術の集積あってこそのプロジェクトマネジメント、システムズエンジニアリングである。
~まとめ~
今回の例会では、神奈川大学のハイブリッドロケット開発の詳細や、失敗許容設計及びマネジメントの具体的な活動内容についてお話を伺うことができました。若者が行っている夢のあるプロジェクトを知ることができ、大変に有意義であったと思います。
また、失敗許容設計及びマネジメントを行っていても、プロジェクトが失敗してしまうこともあると、プロジェクトマネジメントの難しさを感じました。
紙面の関係で、講演のかなりの部分を省略してしまいましたが、「ジャーナルPMAJライブラリ」に講演資料がございますので、是非ご覧になってください。なお、講演資料を入手するためには、「ユーザID」と「パスワード」が必要になります。
最後になりましたが、ご講演いただきました高野氏には、大変お忙しい中、PMAJ 例会部会にご協力いただきましたこと、心より感謝申し上げます。
また、例会にご参加された方より「グラフィックレコーディング」をご提供いただきましたので、併せて掲載いたします。
我々と共に部会運営メンバーとなるKP(キーパーソン)を募集しています。参加ご希望の方は、日本プロジェクトマネジメント協会までご連絡下さい。
以上
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