理事長コーナー
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プロジェクトマネジメントで「日本を今一度せんたくいたし申候」

PMAJ 理事長 加藤 亨 [プロフィール] :10月号

 PMシンポジウム2020は、全面オンラインという初めての試みでしたが、皆様のご協力、ご支援により無事に実施することができました。この場を借りて改めてお礼申し上げます。
 今回のシンポジウムで強く感じたのは、オンライン活用の可能性と、プロジェクトマネジメントの役割が変わってきているのではないかという実感です。
 PMシンポジウム2020の開会のあいさつでも述べさせていただきましたが、オンライン形式での開催により、会場で参加者の皆様の反応を肌で感じることができなくなったかわりに、昨年までは参加が難しかった遠方の方々の参加も多く、また、録画配信では興味のある講演を時間の許す限り視聴することができるなど、まさに、今回のシンポジウムのテーマである、「ビジネスのデジタル化」の大きな恩恵を実感できるシンポジウムとなりました。
 私自身、例年であれば、時間的な制約、物理的な制約により、一部の講演しか聴くことはできなかったのですが、今年は、事前の録画の確認作業も含めて、非常に多くの講演を楽しむことができました。その中で実感したのが、プロジェクトマネジメントの役割が大きく変わってきているのではないかという驚きでした。
 これまでの主流であった予測型プロジェクトマネジメントでは、機能や役割を細分化し、フェーズごとに特化した組織・チームを精緻に組み合わせて、明確に定義された仕様にピッタリとあてはまる最終成果物を完成させることがプロジェクトマネジメントの役割であったと思います。いわば、「仕様適合型役割分担経営」と言うのでしょうか。この方法は、戦後日本の高度成長を支えた成功モデルでもあります。
 これからの適応型、アジャイル型プロジェクトマネジメントでは、ステークホルダーの目的を達成するための多様な要求を随時聞きとりながら、最も目的に合う最終成果物を、変更・試行錯誤を繰り返しながら一緒に作り上げていくということが役割の中心になるのではないでしょうか。いわば、「目的達成型変化対応経営」とでもいうのでしょうか。
 その役割変化の中で必要となってくるのは、目的をステークホルダーと一緒になって形成していく構想力と調整力、そして、ステークホルダーの変化・成長する要求を現状の成果物に工夫を凝らして組み込んでいく発想力、現場合わせ力ということになるのではないでしょうか。
 アジャイル型プロジェクトへの対応度合いが、日本は世界に比べて遅れており、これからもどんどん遅れてしまうのではないかと懸念されるという声があります。それは、高度成長時代の成功体験の呪縛からなかなか抜け出せない日本の現状ではありますが、これからもそれが続くというのはちょっと疑問です。というのも、思い返せば、「現場合わせ」は、ある意味日本のお家芸ですし、本来の日本の職人技に通じているのではないかという気もしてきます。
 予測型のプロジェクトでは、過度の現場合わせはスコープクリープにつながりタブーとなっていました。現場合わせが注目されるのは、非常事態、緊急対応の場だけとなり、良くも悪くも日本のプロジェクトマネジメントの最後の砦としてプロジェクトを陰で支える役割に徹してきました。
 でもこれからは、成果物が着々と形成されるに伴って変化・成長するユーザーの具体的な要求に応じて、現場の工夫で成果物を調整し、より良い最終成果物を作ることが脚光を浴びる時代になってきました。現場合わせのお家芸を遺憾なく発揮することができます。ただし、「目的を達成するため」という基本原則を外さない限りにおいて、ということではありますが。
 PMAJは、今、このようなプロジェクトマネジメントの役割の変化に対応すべく、かつ、オンラインの恩恵を最大限に発揮して、様々な取り組み事例、ノウハウ、工夫を日本全体から収集し、日本全体へ情報提供する仕組みに大きく変えて行こうとしています。
 具体的な取り組みとしては、今年10月から始まる一連のPMセミナーは、オンラインのメリットとそのセミナーの特徴を最大限に活用し、提供する価値や視点を明確にして、日本全体へ情報発信をする形にデジタルトランスフォームして行きます。
 地域PMセミナーは、地域のPM研究部会のメンバーが中心となり、地域に密着した事例やその地域ならではの工夫やノウハウをピックアップして日本全国へ発信して行きます。
 産学官連携PMセミナーでは、北は北海道から南は沖縄まで、日本全国にあふれる産学官連携の事例や工夫を、「デジタル時代を生き抜く人材」という視点で取捨選択して日本全国に紹介して行きます。
 新春PMセミナーは日本の近未来を予測する新たなプロジェクトマネジメントに関連する取り組み事例、工夫、ノウハウを情報提供し、皆様の今後の組織運営、人材育成、研究等へのヒントとなる講演を提供する予定です。
 そして来年のPMシンポジウムでは、プロジェクトマネジメントに関わるあるいは影響を与える、取り組み事例やノウハウ、工夫を、産業分野や利用技術・方法論などの視点から体系的に整理して、リアル、オンライン、録画など、その時点で可能なあらゆる手段を通して、「プロジェクトマネジメントによる日本全体のデジタルトランスフォーメーションのヒント」として提供して行こうと考えています。
 プロジェクトマネジメントという、目的達成型変化対応経営の手法を活用して、これまでの日本の、仕様適合型役割分担経営という運営形態、組織形態、文化を、改めて洗いなおす、まさに、プロジェクトマネジメントで「日本を今一度せんたくいたし申候」という時代がすでに始まっています。
 今後の、PMAJのセミナーに、ぜひ、ご注目ください。
【予定】
2020年10月9日(金) 中部PMセミナー2020
2020年10月30日(金) 中四国PMセミナー2020
2020年11月13日(金) 産学官連携PMセミナー2020
2020年11月26日(木) 東北PMセミナー2020
2020年12月4日(金) 九州PMセミナー2020

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