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応援してもらえる力

井上 多恵子 [プロフィール] :10月号

 「半沢さんのためなら、俺、なんでもやります」ドラマ「半沢直樹」で、尾上松也さんが演じたIT系企業の瀬奈社長が、瀬奈社長の会社を救ってくれた半沢に言う場面がある。このシーンが大好きで、繰り返し視ている。「あなたのためなら、なんでもやります」と言ってくれる人が自分には果たしているだろうか?と自問自答しながら。半沢直樹は、彼の実直さと金融マンとしての強い使命感で、関わる人々を次々と魅了していく。そして、彼に刺激を受けて自分の在り方を見つめ直した人々や、彼を応援する人々が「半沢さんの役に立ちたいんです」と言って、彼の窮地を救っていく。敵対関係にあった元金融庁の黒崎検査官も、半沢に刺激を受け、悪徳政治家を調査したことが原因で国税庁に飛ばされた後でも、「直樹に頼まれちゃってね」と応援に駆け付ける。脅しに屈せず、銀行員としての職を失うリスクを取ってでも、悪をとことん明るみに出そうとする半沢の姿勢に、心の奥底では惚れているからだろう。「あれはドラマの中の世界だから、特別。」と言う人がいる。私はそうは思わない。現実の世界でも、その生き様、在り方で、周囲の人達から応援される人はいる。
 
 仕事をする上で、自分を応援してくれる人がいたら、どんなにやりやすいだろう。半沢直樹程のすごさはなくても、少しだけでも応援してあげようと思ってもらえるために、何をすればいいのだろう。そんな問いを頭においてここ数か月間過ごしていたら、いくつかのシーンや情報が、私のアンテナに引っかかってきた。
 
 入社二年目の後輩からは、相手への心遣いを教わった。あるプロジェクトで、調査に使うデータを提出してもらう依頼を各地域の担当者にしていた。調査の直前になって、指示を勘違いしてデータを提出してしまった旨、ある担当者からメールが届いた時のこと。後輩が出した返事を読んで、「この人すごい!」と思った。後輩は、相手に対する非難めいたことは、一切書かなかった。相手のミスによりどんな不便が生じているのかについても、書かなかった。後輩が書いたのは、「調査が始まる前に教えてもらって、本当に良かったです。ありがとうございます。」ということ。相手を委縮させるのではなく、むしろ相手が「ミスを迅速に報告して良かった!」と思えるような表現を書いたのだ。私が後輩と同じ立場だったら、こんな風にはきっと書けなかっただろう。嫌みの一つも書いていたに違いない。その書き方をすることで私の気持ちはすっきりしたかもしれないが、相手の気持ちを必要以上に下げていただろう。相手は既に自分の落ち度を理解し反省しているにも関わらず。
 
 “Thank you for doing this while things have been tough.”(状況が困難な時に、手配をしてくれて、ありがとう)これは、新型コロナウイルスの影響により延期していた研修を関係者と相談を重ねた結果バーチャルで実施することにした旨、研修生に連絡した際にある人が送ってくれたメールに書かれていた文だ。元々我々が依頼したのは、提示した新しい日程に実施される研修への参加表明だったので、参加の有無だけを回答してくる人達が大半だった。我々も、それ以上のことは期待していなかった。「状況が困難な時に、手配をしてくれて、ありがとう」というこの思いがけない感謝の一言は、我々事務局に元気と、「より意義のある研修にしよう」という頑張りの気持ちを与えてくれた。
 
 認定番号付きの「特別町民認定書」を送ってきてくれたのは、北海道東川町だ。ふるさと納税で寄付をしたことへのお礼だった。「東川の未来を育てるための価値ある貢献をされたことに敬意を表し、、、これからも、人口8000人の小さな町のチャレンジを応援いただきますよう、、、」といったことが書かれていた。こういう粋な計らいをされると、「これからもこの町を応援しよう!」という気持ちになる。町民ということは、彼らの仲間の一人ということだから。仲間だったら応援したくなる。
 
 日本テレビ系チャリティー番組「24時間テレビ 愛は地球を救う」で今年は、シドニー五輪女子マラソン金メダリストの高橋尚子さんがランナーとして登場した。1周5キロの私有地を周回するごとにランナー自身が10万円を募金する〝募金ランで、『チームQ』として、計5人が応援ランナーとして加わった。目標としていた100キロを達成した後、より多くの募金をしたいと再び走り始めた高橋尚子さん。体力的に限界を越えていただろうに,時折笑顔を見せながら走る姿に、ネット上には激励や驚きの声が上がったという。一方で辛辣なコメントもネット上には上がったという。批判も耳に入っていたかもしれない中、信念を貫き通し笑顔を見せながら走る姿に心を打たれた。
 
 一人の力だけでは、物事を成し遂げることが難しいと言われている今の時代、応援してもらえる力を身につけられるよう、心がけてみませんか?

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