PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (120) (事例PFI 事業)

向後 忠明 [プロフィール] :10月号

 前月号では我々の本拠地である中部ジャワの都市スマランで軍事衝突が起こりそうになり、社員一同大きなホテルに全員緊急避難することになりました。この衝突も結果的に政府軍によって回避されたこと、そして、プロジェクト続行に影響を与える資金繰りの問題がクローズアップされてきた等の話をしました。
 資金繰りについては建設の続行と資金ショートを防ぐため、建設部門としてできる限りの範囲で下記に示すような対策を行ってきたことも話をしました。

売れる回線への集中工事
工事業者との支払い条件交渉
銀行との交渉
設計部門及び不要不急の部門の外国人の帰国

 建設に関係する業者とのハードなネゴの結果、支払い延期の了解も得られ、その了解に基づき業者への支払いスケジュールも再設定ができて、工事を進めることができるようになりました。
 このような建設部門の努力にもかかわらず、臨時株主総会で何の理由もなく、スポンサー(株主)よりすべての業者への支払いを止めるようにとの要請がありました。
 PDのKさんは業者との話を折角まとめた矢先のことでもあり、かなり腹立たしい思いであったが、それでも業者に再度交渉をおこない、頭を下げて何とか了解を取り付けました。状況も状況だけに業者も工事を止めることなく支払い遅延の了解をしました。
 やっと業者との折り合いをつけ何とか平静を保って工事を進めていたが、しばらくすると、理由もなく株主より規模の大きな工事にかかわる業者に限って工事代金支払いは行っても良いとの依頼が来ました。
 その理由は規模の大きな工事とは回線ケーブル工事、交換機設置工事関係そして伝送光ファイバー工事等であり、これらは売り上げにかかわる対象工事でありスポンサー(株主)にとってはまずいことになると思ったからでしょう。いずれにしてもこのように一度決めたことを再度ひっくり返すようなスポンサー(株主)側の泥縄的な要請にPDのKさんに限らず、業者側も“いい加減にしろ”と匙を投げたくなるような状況が続きました。

 この原因は財務役員の能力不足も原因であり、工事の実情を知らないビジネスプランの作成、ファイナンシャルアドバイザー(Chase)の選定遅れ、そして金融機関への根回しも遅れ等々が原因であり上記に述べた泥縄的な財務上の問題となっていたようです。
 そこで会社として、現状を考えた長期的ビジネスプランと資金計画の再調整を行い、資金計画の見直しをすることになった。同時に経営改善としてリストラ計画、顧客公営電気通信会社との通信料契約の値上げ交渉を含めた契約の見直し等も行うことになりました。

 PDのKさんは戦略企画部長も兼ねていたので、建設工事の問題にも大きく影響するので財務部長だけに任せずオーストラリア人の財務役員の馬鹿さ加減にあきれ返りながらも我慢して寝ずの仕事になりました。
 この時、Kさんはプロジェクトマネジメントが本業であったが、財務的な業務まで手伝わされることになるとは思いませんでした。
 しかし、これも挑戦の一つと思い、N社の財務部門の担当を日本から呼んで一緒にこの財務的問題を何とかやり遂げることができました。おかげさまで会社の財務や経営改善などの業務のあり方も学ぶことができプロジェクトマネジャとしてさらなる貴重な経験ができたと思っています。何事も経験であり、わからない部分があれば、断ることではなく、そこに必要な人材などのリソースを張り付け、対象業務を共同で助け合いながら解決するといったことがプロジェクトマネジメントの本髄と考えています。
 未知、未経験の業務でも、プロジェクトマネジメントと同じくそれに対応したリソースを張り付け、チームとして適切にマネジメントすることを体得することができたことでどのような問題も解決できる自信を得ることができました。

 この事業は最初から最後まで気の抜けない各種の問題が発生しましたが、N本社のスポンサー(株主)としての代表者からの多大な助援もあり何とかここまでこらえきることができました。また、Kさんの日揮時代の大型プロジェクトでの経験も功を奏したようで、この経験がなければここまで来られなかったと思います。

 PFI 事業においては 財務的なマネジメントは重要な役割であり、特に海外においては為替や不測の事態といったことも起きることも多くあるので、単に技術的な問題だけではなく財務的対応に関する知識も重要であることもよくわかりました。
 もちろん、プロジェクトマネジメントにおいてはQCDマネジメントというものがあるが、PFI 事業における財務管理はプロジェクトにおけるコスト管理とは全く違うこともわかりました。
 これからのプロジェクトマネジャは会社経営面からの立場に立って財務マネジメントに関する基礎的知識は必要であると、この事業を通して知ることができたと思っています。

 当事業は他のコンソーシアムに比較してうまく運用されていることは前月号でも説明しましたが、この頃になると脱落するコンソーシアムが出てきて株を手ばなすといった噂も出てきました。
 タイ、インドネシア、韓国そして日本等を巻き込み、東南アジア経済危機の真っただ中での事業運営であり、脱落するコンソーシアムが出てきても不思議ではないと思っています。
 インドネシア経済の凋落、政治の混乱、暴動そして為替の問題等々海外プロジェクトにおいて戦争以外の最大のリスク事象と言っても良いくらいのことがこの事業には立て続けに起きていました。それでも PDのKさんは何とかここまで持ちこたえてきました。この先何が起きるかわからないといった不安もあったが、建設部門の目的は与えられた目標の達成がMUSTでした。
 Kさんはステークホルダーが何を言おうと“走っている電車は急には止まれない”の精神で、目標達成のため部下や業者を叱咤激励して作業の継続を進めてきました。
 その後、2か月ほどたってから、インドネシアの政治も前スカルノ大統領の長女メガワティ女史がPDI (民主党)総裁となり、国民評議会が開かれたりして、インドネシア政局に安定感が出てきて、デモや暴動も比較的平静な状態を保つようになってきました。
 経済面においては、インフレ率は80%超であり為替については相変わらず10,000Rp/$であり、我々の事業は相変わらず財務的問題に悩まされる毎日が続いてました。

 このような中、会社役員会が開かれ、外部ファイナンシャルアドバイザー(Chase)のCash Flow Schedule についての説明がありました。その後、財務役員からEquity Callの方針についての説明がありました。
 このことは早めのEquity CallによるEquity Injection が必要であり、これができないとLoan の借り入れができなくなるということであった。PDのKさんはこの意味があまりよく分からなかったが、どうもコンストラクションの進捗がこのLoan借り入れにかかわるらしく、もし工事進捗が目標を達成したらLoanの借入れができないということらしいということがわかりました。(順調な工事進捗で目標達成ができるなら銀行からの借り入れだけでなくEquity Injectionで十分ではないか?とのこと)

 これもまたオーストラリア側の財務役員の改定ビジネスプランやファイナンシャルアドバイザーの選定遅れに起因するもので、会社役員としての事業の全体像を理解していない近視眼的な行動によるものであり、彼の完全なミスであり、今後かなりタイトロープを渡る課題となるようでした。
 ところが、この頃、かなり工事進捗は進んでいて、このままでいくと当初の建設目標はLoanの借入れの前に達成することになるのでEquity Injectionを予定より早くやる必要が出てきました。
 そのため、これまで苦労して進捗率を上げてきた工事を少しその速度を緩める必要が出てきました。ここでまた、オーストラリアの財務部長のミスを建設部門が被ることになりPDのKさんは“またか”と腹立たしさを覚えました。
 今度はまたオーストラリア側のオペレーション役員の勝手な動きが建設部門に影響を与えることになります。
 それは交換機の機種の変更(NECの交換機を米国ルーセントに変換)に関する問題であった。それは、すでに顧客公営電気通信会社にすでに日本のODAで設置されているNECの機械をオペレーションやメインテナンスの面で一つにまとめたほうが良いということで、それをルーセントの機械に統一するといったことでした。このことはオーストラリア及びインドネシアの株主(スポンサー)からの要望でもありました。
 このことは既存の機械をワザワザ取り換えるとなると長期間の工事となり、さらに工期の遅れや余計なコストがかかり、それでなくとも足りない予算に影響を与えることになります。確かにオペレーシオンやマインメンテナンスの面から見れば正しい判断であるが、現状を考えると無理な話となるのでPDのKさんはこれを断りました。

 この頃からオーストラリア対日本の関係がギクシャクしてきました。PDのKさんは財務部門やオペレーション部門の勝手な動き等をみても多国籍での仕事のやり方というよりオーストラリア人の近視眼的仕事のやり方にあきれ返るばかりでした。
 しかし、Kさんは責任感と目標達成への義務感だけは持っていたのでこのような理不尽なオーストラリア側やインドネシア側の動きにも関わらず自分の責務を果たす働きを止めることはしませんでした。

 しかし、それでも気になるのは建設資金のショートであり、業者の支払いも重要であるがそれよりもこの事業会社の先行きの心配もしながら活動をしていかなければならない状況でした。
 そのよう中、SPCの役員を外したスポンサーだけの秘密会議が開かれ、今後のSPCの運営について討議がされました。この中で、今のところは通話収入が比較的順調で計画より収入面では大きくなるようでありました。

 しかし、それでもよくよく検討してみると、今後の事業継続においてはすでに前記したようにどうしてもEquity CallによるEquity Injection が必要であり、それを前提とした銀行からのLoan の借り入れも必須となってきているようでした。

 そして、ファイナンシャルプランナー(Chase)よりこの会議において下記のようなシナリオが提出されました。

シナリオ1: No Equity No Loan、No Budget For Construction
(実質的工事ストップ、回線販売ストップ)
シナリオ2: No Equity No Loan
(実質的工事ストップ)
シナリオ3: Equity注入
シナリオ4: Equity注入及びLoan

 一方、将来的な事業運営においての事業性検討においてもIRR(株価収益率)が13%から5%以下に低下していることやほかの地域のコンソーシアムも撤退するような雰囲気も出てきていました。このような中、スポンサー(株主)の一部(オーストラリアの大手電気通信会社とローカルの企業)がこの時点でシナリオ1や2で進めることを強く主張してきました。

 建設部門としては、資金がなければ業者も動かなくなり、もう少しで目標の達成も可能となるにも関わらず、ここでストップになることにはどうしても納得できず、何とかならないものか、スポンサー(株主)としてN社代表としてきているN社役員と相談することにしました。

今月はここまで。

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